足跡~苦味も食べる~
「…………」
僕はしゃがみながら、男児姿の司を見て居た。胃を抑えていた右手を離し、膝を抱えて猫背で座る。
「苦いかもしれないけど、我慢して食え」
司は手に持っていた巾着に指を入れて、何かを抓み出した。僕の手を取って手の平に、何かを置いた。見れば灰色していて、丸く小さかった。木の実なのかと思うも、食いたくなかったんだ。
「うへぇ……」
「昔はきれいな赤色をしていたんだ」
「そうなんだ……」
「私は好きだけど、おいしそうじゃないか?」
「あ……、うん……」
「食べなければ死ぬだけだぞ」
「それはやだ!」
「そうか。だったら、どうする?」
「食う!」
自棄糞になって宣言した勢いで、灰色した実を口に入れる。噛み潰したら粉ものみたいで、舌がザラッとするんだ。苦味は思った通り薬みたいで、思わず舌を出した。二度と味わいたくないと思った。
「むー……」
声を立てずに腹を抱えて笑う司を見て、僕は唇を尖らせた。苦味が甘味に感じられたら、大人な証と聞いた話を思い出した。
「水って、ある?」
「ない。あいつなら……」
「え?」
「ほら、行くぞ!」
司はどうしたことか教えてくれず、歩き出してしまう。気になるけれど置いて行かれてるから、慌てて後を追った。気付けば食べた実のおかげか、力が出る。
「ちょっ、ちょっと、待ってよー!」
僕は走ることを強いられ、追い付けずにいた。身長が違うだけでこんなにも、距離が開いていくものなのか。
「何、どうかした?」
声が届いたようで振り向きざまに、司はそう言っては足を止めた。僕が近くに居ないとようやく気付いて、追い付くのを待ってくれた。
「先、行かないでよ……」
「すまなかった」
何がおかしいのか、笑って見て居るんだ。走らされたから息切れして、声にならない代わりに恨みがましい顔で不満を訴えるんだ。
「歩き方は一つじゃない」
歩幅を広くしたり、蟹のように膝を曲げたり、足を引き摺るなどがあると、話し出したんだ。
「歩き方の意識として、重心移動というものがある」
普通だったら前に出した足の上に体を持って行くが、それは前に出した脚を軸にして体を引っ張る感じになるらしい。踵を強く地に着けて、膝を曲げずに引いた勢いで、体を前に出し地を蹴ると、実演で教えてくれた。