足跡~思考は筒抜け~
「見ていたぞ」
謎の男の子は風の神霊は、目の前であぐらをかきながら言った。足を見て、何も履いてないことに気付いた。
「木立の中で起きた時から、全てをね」
僕はそれを聞いて振り返り、消したいほどの恥ずかしさに俯いた。火照った顔を隠したけれど、心を読めることを思い出して、逃走したい気分になった。体が熱くて仕方ない。
「痛みはどうだ?動けるか?」
「え……、うん……」
「座って居るよりも、行くぞ」
有無を言わさぬ如く、宣言するように言っては、立ち上がるのを見ていたんだ。惑っている僕に手を差し出してくれた。恐る恐る伸ばして握り、立ち上がらせてくれた。思ったより強い手を放して、尻に付いた土を払う。
「……って、どこへ?」
「……ああ、向かうのは木立の真ん中だ」
何があるのかは自分の目で見なと、聞こうとしたことを先に言われた。楽しみなんて無くても良いと思いながら、頷くしかない。
「名前を教えてもらっても?」
「名前は持っていない。司とでも呼んでくれ」
「名前にしか思えないんだけど?」
「私たちは遠き日に、司と呼ばれていたんだ。総称として」
神霊は十二の存在のことで、属性は一つを支配していると話してくれた。人間の配下になったことはなく、属性で呼べば良いから困ってないってさ。
――戻るのか……。
今、居る場所は木立の手前で、司は僕を置き去りにするんだ。嫌々ながらも諦めて、後を追いかけた。月のように青みを帯びた木が、明かりとなっている。
「歩くことに変わりはないけれど、思っているほどに遠くはない」
「心を読めるのは分かったからさ、覗かないで」
僕は不機嫌な顔を向けて、止めてほしいと伝えるんだ。思考が筒抜けだなんて、気持ち良いものじゃないから。声にしてないのには、答えないでと。司は謝る所か悪びれもせず、顔に出ていたと言うんだ。恥ずかしさに、赤くなりかけた。
「いっ……」
急に胃がキューっと縮んで、痛みに思わず声を漏らした。右手指の先を胸に当てて、突くように強く押し埋めた。抑えつつ顔を上げると、司が見て居た。
「人間とは、手が掛かる生き物だな……」
「悪かったね!」
何も食べていないんだから、空くのは当たり前だ。神霊というのは食べることをしないのか、平気みたいだ。痛みは強くなり、我慢できずにしゃがむ。
「何か持っていたかな……」
司は困ったようにつぶやくと、衣装の中に手を入れて探す。僕は少し期待を抱きつつも、怪しい物でないことを祈った。
「これしかないか……」
小さな巾着をどこから出したのか、司は袋の口を手で開けては、覗きながら悩んでいた。中に何が入っているのか、気になるけれど静かにして待った。真っ暗な天を仰いだり、僕の顔をじっと見たり、迷っている様子を初めて見たんだ。意識が胃から逸れていたから、痛みは少し和らいでいた。