表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
100/103

日常〜木陰で雨宿り〜

「……雨だねぇ……」

 天樹てんじゅの幹に僕はもたれつつ降り注ぐを見ていて、頭に響くザーという音を聴いていた。真上の枝葉が傘の役割を果たして、屋根の下に居るような過ごしやすさだった。根に座れば土の湿りを服が吸わなくて、体が冷えすぎることはない。日曜日は自由に過ごすために予定を入れぬようにして、一週間の始まりに備えるを続けてきた。提出期限が近い宿題は片付け終わっていて、退屈だと此処ここに来てしまうんだ。心から休める所だと思えている。

 ——雨かぁ……。

 植物にとっては恵みのだけども、自分にとっては嬉しいかを考える。教科書やノートが濡れてしまう。衣服は別に構わない。体育の予定が変わってしまう。外出の気分を抱けない。楽しみが消えてしまう。時と場や心によりと答えれない。

 ——八時。

 ポケットから取り出したモバイル端末の電源を入れて、時刻の表示をちょっと見ればそんなに経っていなかった。灰色の空に視線を移して、暇だと思う。眠たさにあらがわないで、目を閉じてみた。何も考えずに力を抜いて、耳を澄ます。時々と葉っぱから滴り落ちる音の清きことに心が静かなりて、暗闇の底へ夢の中へ潜るを感じていた。雨音が遠去かり誰の声がね聴こえてくる。

 ——ひっく……ひっく……。

 昔日の記憶か分からぬけれど、徐々に景色が映し出される。森の中に降り立つと、髪をも濡らす。見回してみれば覚えがあると、深く気にせず歩き始めた。

『た・す・け・て……』

 耳元で訴えられたようなリアルさに跳ね起きること、更なる衝撃があった。一瞬で消えたみたいに姿が認められないこと、信じられず考えてしまう。今居る天樹は聖域の中であること、他者の侵入は有り得ぬはずだった。祖父と自分しか踏み込むを許されていないと、招かれざる者には焼かれる苦しみを与ふ。

「今のは……?」

 幻聴だろうかと首を傾げて、間違いかと考えるも気になってしまう。地森ちしん何処どこかだと分かっていて、闇雲やみくもに探すのは疲れるだけ。探知の魔法が使えたらなんて、無い物ねだりしてしまう。僕は自然を友に成長してきたことで、かすかな風の動きを肌で感じられるんだ。

 ——精霊さん、行方を教えてください。声の主の元へ、導いてください。

 目を閉じて、手を組んで、願いを念じて、こたえを待った。全身の神経を研ぎ澄まして、空気の流れをかんずる。一瞬も逃さぬように。

 暗闇の中に水面みなもの上に片膝かたひざを立て座りして、波紋をわずかも起こさぬごとくに心を張り詰め続けた。不意に湿りの有る風が肌をでて、手の甲からほおへとそよぎは止まれゆく。

 ——有り難う。

 目を開けて、手をほどいて、礼を述べて、しかと憶えておく。正面は南だから反対は北だなと考えて、おもむろに立ち上がる。

 猿戸さるどを押し開き出るやかんぬきを元に戻して、傘を差さずに歩いて向かった。何故なぜか濡れたい気分に成っていて、悲痛を抱く理由が分からなかった。雨音にり耳は頼りならなくて、勘に従うんだ。

 ——声がする……。

 地森の北部で探していると、泣きしゃっくりが聞こえた。方向を特定すべく集中して探ってみると、思うより近くから発せられる。目線を向けた先には断崖だんがいがあるを思ったこと、自殺に及ぶ恐れを考えるや走り出した。過去に何人も身を踊らせたほど、迷惑も有名な死にどころで再びは止めねばならぬ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ