日常〜木陰で雨宿り〜
「……雨だねぇ……」
天樹の幹に僕は凭れつつ降り注ぐを見ていて、頭に響くザーという音を聴いていた。真上の枝葉が傘の役割を果たして、屋根の下に居るような過ごし易さだった。根に座れば土の湿りを服が吸わなくて、体が冷えすぎることはない。日曜日は自由に過ごすために予定を入れぬようにして、一週間の始まりに備えるを続けてきた。提出期限が近い宿題は片付け終わっていて、退屈だと此処に来てしまうんだ。心から休める所だと思えている。
——雨かぁ……。
植物にとっては恵みのだけども、自分にとっては嬉しいかを考える。教科書やノートが濡れてしまう。衣服は別に構わない。体育の予定が変わってしまう。外出の気分を抱けない。楽しみが消えてしまう。時と場や心によりと答えれない。
——八時。
ポケットから取り出したモバイル端末の電源を入れて、時刻の表示をちょっと見ればそんなに経っていなかった。灰色の空に視線を移して、暇だと思う。眠たさに抗わないで、目を閉じてみた。何も考えずに力を抜いて、耳を澄ます。時々と葉っぱから滴り落ちる音の清きことに心が静かなりて、暗闇の底へ夢の中へ潜るを感じていた。雨音が遠去かり誰の声がね聴こえてくる。
——ひっく……ひっく……。
昔日の記憶か分からぬけれど、徐々に景色が映し出される。森の中に降り立つと、髪をも濡らす。見回してみれば覚えがあると、深く気にせず歩き始めた。
『た・す・け・て……』
耳元で訴えられたようなリアルさに跳ね起きること、更なる衝撃があった。一瞬で消えたみたいに姿が認められないこと、信じられず考えてしまう。今居る天樹は聖域の中であること、他者の侵入は有り得ぬはずだった。祖父と自分しか踏み込むを許されていないと、招かれざる者には焼かれる苦しみを与ふ。
「今のは……?」
幻聴だろうかと首を傾げて、間違いかと考えるも気になってしまう。地森の何処かだと分かっていて、闇雲に探すのは疲れるだけ。探知の魔法が使えたらなんて、無い物ねだりしてしまう。僕は自然を友に成長してきたことで、微かな風の動きを肌で感じられるんだ。
——精霊さん、行方を教えてください。声の主の元へ、導いてください。
目を閉じて、手を組んで、願いを念じて、応えを待った。全身の神経を研ぎ澄まして、空気の流れを観ずる。一瞬も逃さぬように。
暗闇の中に水面の上に片膝を立て座りして、波紋を僅かも起こさぬ如くに心を張り詰め続けた。不意に湿りの有る風が肌を撫でて、手の甲から頬へと戦ぎは止まれゆく。
——有り難う。
目を開けて、手を解いて、礼を述べて、確と憶えておく。正面は南だから反対は北だなと考えて、徐に立ち上がる。
猿戸を押し開き出るや閂を元に戻して、傘を差さずに歩いて向かった。何故か濡れたい気分に成っていて、悲痛を抱く理由が分からなかった。雨音に因り耳は頼りならなくて、勘に従うんだ。
——声がする……。
地森の北部で探していると、泣きしゃっくりが聞こえた。方向を特定すべく集中して探ってみると、思うより近くから発せられる。目線を向けた先には断崖があるを思ったこと、自殺に及ぶ恐れを考えるや走り出した。過去に何人も身を踊らせたほど、迷惑も有名な死に処で再びは止めねばならぬ。




