足跡~乱暴な出逢い~
「グ……」
仰向けで倒れていた僕は、何かに脇腹を突かれた。痛みと共に体は風を切って、勢いよく背中をぶつけた。肺の空気が押し出されるや、地面に叩き付けられた。受け身も取れずに強かに、胸や顔を打った。
「ゲホッ、ゲホゲホ……!」
一瞬息が止まっていたから、咳が止まらなかった。打った背中を丸めながら、痛む脇腹を手で抑えるんだ。起きたことが飲み込めずにいると、何かの足音が近付いてくる。怖くて目を開けられない。
「……大丈夫か?」
掛けられたその言葉を聞いて、衝撃が走った。厳しさを帯びた低い声に、答えることなく顔を向ける。覆うようにぼくを見て居たのは、男の子だった。瞳の色は青みがかった緑色で、背は高そうに見えた。衣装は仏像のように布を纏って、右肩を出している。人に会えたのが、信じられない。
「いっ……」
今までどこに居たのか聞きたくて、起き上がろうとしたら。突き刺すような痛みがして、思わず声に出した。体のあちこちが痛くても、座って向き合った。
「すまなかった」
謎の男の子は突然に謝ってきた。加減したつもりだったと発言を聞いて、驚きに口を開けた。声にならなかった。見た目は十二歳くらいなのにと、思うんだ。
「ねえ。君はここに住んでいるの?」
「まあ。そうなるかな」
何だかはっきりしない返事だなと、思った。少し答えに迷う様子を見せていたから、違うなら違うと言ってほしい。
「確かに。存在しているからには、住んでいると思ってくれて良いだろう」
「……今、声にしてなかったよね?もしかして、心を読めたりするの?」
「まあね。嫌だったならば、謝る」
「大丈夫。びっくりしただけだよ」
思考が筒抜けだなんて知って、恥ずかしさを覚えた。今もじゃないかと謎の男の子を見れば、にっこりとしている。親近感はあるのに、距離は縮まらない。
「ねえ。君は何者なの?」
僕より年上にしては、力がありすぎる。大人だったとしても、一突きで体を吹っ飛ばせるのだろうか。言葉遣いだって固いから、見た目との違和感に困るほど。更に、心を読めるなんて、普通じゃない。
「ほう。気付くのが早いな」
謎の男の子は笑みを浮かべて、意外だったと言うんだ。それでも、僕を見る目は真剣そのもので、何を考えているのか油断できない。
「察しの通り、私は人でもない。司るモノだ」
神とも精霊とも言える上位の存在で、神霊と呼ばれていたことを話してくれた。世界から切り離された空間の中で、聖なるものを守り続けてきたらしい。
「……風?」
足元から沸き起こっているような感じがして、下を向いた。頬を静かに撫でるそれは、冷気を少しずつ押し遣って、暖かくしたんだ。
「この感じ、覚えないか?」
突然に聞かれて僕は考えるんだ。風のそよぎを肌で感じながら、知っている気がしていた。優しさと、眠たくなる気持ちよさ。春の日を思わせる。少し夢を見て気付いた。道理で、楽しかったのかと。納得しては何度も頷いた。