足跡~始祖の物語を~
――……。
僕は仰向けになって眠り、暗い海の中を漂う。何も見なく。音も聞かなく。浮かんでは沈むを繰り返す。
「くしゅんっ……」
息のかたまりが口から吹っ飛び、頭を強く揺らした。重い瞼をゆっくりと上げ、右手で目をこする。
――まだ暗いな、夜か、寝よ。
肌の外に出てる部分が、空気の冷たさで冷えていた。氷に触れているような、痛みを感じていたんだ。
――うぅ……。
重い頭を上げて体を起こし、闇の中で手探りする。掛けていた布団はどこへ行った。届く範囲で触れなくて、立ち上がろうと床に手を着ける。
――ん、ザラザラする、土か?
床の上を撫でると細かいものが、手の平にくっつく。少し気になり見てみたが、黒くて分からない。諦めてズボンになすりつけ、視線を上げた。
「んー……」
部屋の中に土を入れた物は、一つも置いてない。首を傾げながら考えるも、思い当たらない。昨日したことを溯るも、全くさっぱりだ。
――何も見えないや。
月のない夜でも、カーテンを閉めていても、外の常夜灯が眩しいくらいなのに。珍しく点けてないのかな。窓辺で寝てたはずだけど、窓や壁が認められない。視界に映るのは、真っ暗闇。
「うー……」
風は吹いていなくても、冷気が体の熱を奪う。体を動かしていないから、徐々に耐えられなくなる。腕を交差させて少しでも、熱を戻そうとこする。
――凍えちゃうよ。
溜めた熱を逃がさないようにして立ち上がる。左手は胸に密着させたまま、右手を前に伸ばす。探りながら慎重に歩き、突き当たりを目指した。
――おっかしいなぁ……。
布団を敷いて寝た部屋はそんなに、広くないのに。触れもぶつけもしなさすぎて、訳が分からなくなった。立ち尽くして、今はどの辺りかと、見回すんだ。
「なんで……?」
例え見えなくても、過ごしなれた部屋だから、物の位置は覚えている。それでもどうしてか、辿り着かない。自信を失ってきた。
――眠い、寒い。
泣きそうになって、顔を上げる。泣いていた昨日を思い出し、目を伏せるんだ。黒い空間のなかに白い影を見て、怖さに思わず後退りした。
「わっ!?」
何かぬめりけのあるものを踏んで、足を滑らせ尻餅をつく。固いものに後頭部をぶつけて、目がチカチカする。収まるまで、動けなかった。
――……。
闇に目が慣れてきて見えたのは、白い木々だった。今居るのは明らかに外で、見回せば木立の中だった。土があるのも納得だ。
「根っこかぁ……」
今、手で触れているものを見て、短くつぶやいた。白い影は幽霊ではなく、月の光のように青みを帯びた木だと、知って馬鹿らしくなった。




