漫才「転勤」
漫才十一作品目です。どうぞよろしくお願いいたします。
職場にて。
「あいつの壮行会を開くんだけど、どうする? 来る?」
「壮行会?」
「転勤することになったんだって」
「へえー、どこに行くんだい?」
「海王星らしい」
「海王星? またずいぶんと遠いところだなあ。あいつの希望なのか?」
「太陽に行くか海王星に行くか、好きな方を選べって社長から言われたらしい」
「左遷だな」
「この二択じゃあ、選びようがないもんな」
「なんか寒そうだなあ」
「太陽から相当離れているもんなあ」
「あの星、地面はあるんだっけ?」
「さあ? どうなんだろう」
「地球人はいるの?」
「どうだったかなあ」
「海王星人っているんだっけ?」
「わるい、よく知らないんだよね」
「無人星だったらかわいそ。ひとりぼっちだもんな」
「転勤で行くんだろ、商売しに行くんだろ、だったらなんらかの生物はいるんじゃないの?」
「そうだな。で、何年くらい行く予定なんだろう」
「一年だって」
「なんだ短いんじゃないか、一年だったらすぐ経っちゃうよ」
「ところがさあ、行くのに二十年、往復で四十年かかるんだって」
「そんなに?」
「鈍行で行くんだって。会社が特急代を出してくれないらしい」
「四十年かあ。壮行会というよりも、送別会の方が意味合いとしては近いな」
「盛りあがらなそうだなあ」
「最初から涙だな。居心地悪そうな集まりだなあ」
「支店長になるっていうのになあ」
「なんだよ、それって出世じゃないか。だったら会の名目を昇進祝いにしようよ」
「なるほど。そうすればおめでたい感を前面に押し出せるな」
「そうそう。海王星のカの字も出しちゃダメ。昇進しておめでとう、よかったよかったと、そういう話しかしないこと」
「話が煮詰まってきたら、あとは昔話だな。入社の頃からのエピソードで盛り上げちゃおう。話題が尽きたところでお開きにしよう。二次会はなしだな」
「これでなんとか会を乗り切れそうな気がしてきたよ」
「あとは本人が出席する気になるかどうかだな」
「・・・それもそうだな」
読んでいただき、どうもありがとうございました。