道端の大男
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大男が道端に座っている。
頭の上には、小鳥が数羽止まっている。
そこへ少女が一人やってきた。
少女は大男へ尋ねた。
「ここで、何をしているの」と
大男は旅人に答えた。
「分からない、気づいたらここにいたんだ」と
少女は不思議そうな顔を浮かべて、その場を去った。
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大男が道端に座っている。
肩の上には、リスが数匹どんぐりを食べている。
そこへ若い女が一人やってきた。
若い女は大男に尋ねた。
「家には帰らないのですか?」と
大男は若い女に答えた。
「ここに居ないと駄目みたいなんだ」と
若い女は「変わっているのね」と一言告げて、その場を去った。
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大男が道端に座っている。
膝の上では、猫が数匹眠っている。
そこへ婦人が一人やってきた。
婦人は大男に尋ねた。
「どうしたら、貴方みたいに大きくなれるのかしら」と
大男は婦人に答えた。
「分からないけれど、大きいことにも意味はあるはずさ」と
婦人は「きっとそうね」と一言告げて、その場を去った。
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大男が道端に座っている。
足の傍では狼が数匹戯れていた。
そこへ老婦が一人やってきた。
老婦は大男に話しかけた。
「貴方はいつまでここに?」と
大男は老婦に答えた。
「多分、ずっと」と
老婦はもう少し大男のことが聞きたかったが、足元の狼が怖かったのでその場を去った。
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大男が道端に座っている。
ただ、一人で座っている。
やがて、黒服に身を包んだ人達が街からやってきた。
彼らは皆悲しそうに、項垂れている。
行進する彼らの中央には、黒い棺桶があり、その中には一人の老婦が眠っている。
彼らは大男の足元に穴を掘ると、それを地中に埋めて、暫くして街へと帰っていった。
大男は、しばらく黙って考えていたが、ようやく気づくことができた。
自身が彼女の墓標であったことに。
そして、それが彼のこの世界での役割であったことに。
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