一人目の来訪者 ~6~
「……どういう事だ?」
ロシュの言葉の意味が、今一理解できなかったグリフォードは、暗闇の中に浮かび上がる黒猫に、思わずそう問い質していた。
「ここ、最果ての島は、亡くなっても現世に未練を持って、死にきれない人が迷い込む所なのさ」
「……そんな……」
「……」
ロシュは、悲しい瞳を瞑って、首を左右に振った。
グリフォードは、そんなロシュを見て、ただ愕然と崩れ落ちる。
そうして暫くすると、二人を包む暗闇は明るさを取り戻していった。
暗闇が晴れた時に、グリフォードとロシュは最果ての島のパラソル付きのテーブルに、元の場所、元の姿勢のままで座っていた。
だけど、暗闇が晴れても、暫くはグリフォードは俯いたままだったんだ。
その様子を見たラピスは、俯くグリフォードを労る様に、無言で紅茶を薦めた。
ティーカップからカチャリと小さな音が鳴る。
その音は、そっとグリフォードの耳に届いて、ピクリと反応を示した。
すると、グリフォードはおもむろに顔をあげた。
そうしてようやく口を開いたんだ。
「……やっぱりか。じゃあ、この島を買い取る事なんて最初っからできなかったんだな……」
「うん……」
「……だから、さっき俺がこの島の買い取りを提案した時も、お嬢ちゃん達はハッキリと答えなかったのか……」
「……うん……」
何かを吹っ切った様に、力無く放たれるグリフォードの声に、彼の気持ちを汲んで優しく頷くロシュ。
「現実には存在しないから……か」
再び確認するかのように溢したグリフォードの言葉。
「……いいえ、少し違いますよ?」
それにはラピスが訂正したんだ。
「え……?」
「現実には存在してますけど、存在する次元が違うんですよ、ここは」
「ああ、そうか。そうだったんだな」
「そうです」
あえて明るく努めるラピスの笑顔が、グリフォードにも純粋なものに見えたみたい。
天使の様に輝かしい笑顔で、彼の悲しみは暖かく包み込まれる様だった。
「さあ、冷めないうちにどうぞ。今は、……今は一息入れましょう」
「ああ、ありがとう」
「ラピス、ボクのも」
「はいはい。これ、レモンね」
ロシュは、自分の椅子に座り直してアールグレイに舌を付ける。
喉が渇いたのか、いつにも増して長く連続して舌を付けていた。
そうして、時間を忘れて思い思いに景色を見やると、ラピスがそっと口を開いた。
「グリフォードさん。もう、思い残す事はありませんか?」
「……ん?そうだな……。やっぱり、俺が居なくなった後のエリーや子供たちの事が気になるな」
「そうだよね。じゃあ、様子、見に行ってみるかい?」
「……そうだな。見ておきたいかな。……あ、でも待てよ?俺の葬式は見たくない。アイツが悲しんでくれるなら、そんなアイツの顔を見たくないからな」
「わかったよ。じゃあ、十日後くらいの様子でも見に行こうか」
「いや、三ヶ月後……。八月の二十日がマックの誕生日なんだ。七歳になる。ちゃんと笑顔で前を向いて生きてくれているかも確認したいし、それくらいの頃が良いんじゃないか?」
「そっか、そうだね。じゃあ、今度はラピスの番だ」
「ええ。それじゃあグリフォードさん、私と手を繋いで、目を閉じて下さいね」
笑顔で左手を差し出すラピス。
グリフォードは、少女の手を取って、再び目を閉じた。
「……じゃあ、始めるよ。……サー・カリ・ストゥル・ラ・クリファ……」
今度はロシュが、何やら唱えると、グリフォードの周りを光が包んだ。
そして、二人の周りの景色が再び変わっていった。




