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ラピスと黒猫のロシュ  作者: 咲 潤
~一人目の来訪者~
7/12

一人目の来訪者 ~6~

「……どういう事だ?」


 ロシュの言葉の意味が、今一理解できなかったグリフォードは、暗闇の中に浮かび上がる黒猫に、思わずそう問い質していた。


「ここ、最果ての島は、亡くなっても現世に未練を持って、死にきれない人が迷い込む所なのさ」


「……そんな……」


「……」


 ロシュは、悲しい瞳を瞑って、首を左右に振った。


 グリフォードは、そんなロシュを見て、ただ愕然と崩れ落ちる。


 そうして暫くすると、二人を包む暗闇は明るさを取り戻していった。




 暗闇が晴れた時に、グリフォードとロシュは最果ての島のパラソル付きのテーブルに、元の場所、元の姿勢のままで座っていた。


 だけど、暗闇が晴れても、暫くはグリフォードは俯いたままだったんだ。


 その様子を見たラピスは、俯くグリフォードを労る様に、無言で紅茶を薦めた。


 ティーカップからカチャリと小さな音が鳴る。


 その音は、そっとグリフォードの耳に届いて、ピクリと反応を示した。


 すると、グリフォードはおもむろに顔をあげた。


 そうしてようやく口を開いたんだ。


「……やっぱりか。じゃあ、この島を買い取る事なんて最初っからできなかったんだな……」


「うん……」


「……だから、さっき俺がこの島の買い取りを提案した時も、お嬢ちゃん達はハッキリと答えなかったのか……」


「……うん……」


 何かを吹っ切った様に、力無く放たれるグリフォードの声に、彼の気持ちを汲んで優しく頷くロシュ。


「現実には存在しないから……か」


 再び確認するかのように溢したグリフォードの言葉。


「……いいえ、少し違いますよ?」


 それにはラピスが訂正したんだ。


「え……?」


「現実には存在してますけど、存在する次元が違うんですよ、ここは」


「ああ、そうか。そうだったんだな」


「そうです」


 あえて明るく努めるラピスの笑顔が、グリフォードにも純粋なものに見えたみたい。


 天使の様に輝かしい笑顔で、彼の悲しみは暖かく包み込まれる様だった。


「さあ、冷めないうちにどうぞ。今は、……今は一息入れましょう」


「ああ、ありがとう」


「ラピス、ボクのも」


「はいはい。これ、レモンね」


 ロシュは、自分の椅子に座り直してアールグレイに舌を付ける。


 喉が渇いたのか、いつにも増して長く連続して舌を付けていた。


 そうして、時間を忘れて思い思いに景色を見やると、ラピスがそっと口を開いた。


「グリフォードさん。もう、思い残す事はありませんか?」


「……ん?そうだな……。やっぱり、俺が居なくなった後のエリーや子供たちの事が気になるな」


「そうだよね。じゃあ、様子、見に行ってみるかい?」


「……そうだな。見ておきたいかな。……あ、でも待てよ?俺の葬式は見たくない。アイツが悲しんでくれるなら、そんなアイツの顔を見たくないからな」


「わかったよ。じゃあ、十日後くらいの様子でも見に行こうか」


「いや、三ヶ月後……。八月の二十日がマックの誕生日なんだ。七歳になる。ちゃんと笑顔で前を向いて生きてくれているかも確認したいし、それくらいの頃が良いんじゃないか?」


「そっか、そうだね。じゃあ、今度はラピスの番だ」


「ええ。それじゃあグリフォードさん、私と手を繋いで、目を閉じて下さいね」


 笑顔で左手を差し出すラピス。


 グリフォードは、少女の手を取って、再び目を閉じた。



「……じゃあ、始めるよ。……サー・カリ・ストゥル・ラ・クリファ……」


 今度はロシュが、何やら唱えると、グリフォードの周りを光が包んだ。


 そして、二人の周りの景色が再び変わっていった。




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