一人目の来訪者 ~2~
グリフォードに、ここへ来る方法を問い詰められたラピス。
その問いに、ラピスは落ち着いた口調で答えたんだ。
「残念ですが、それを私達が直接お話する事はできません。ですが、ここに居る間は、ゆっくりしていって下さい。そうして、ご自身で思い出して下さい。貴方がここに訪れた直前の事を。……今、紅茶をお入れしますから」
ラピスの曇った顔。
でも、直ぐに明るく素敵な微笑みをグリフォードへ向けた。
そんなラピスの気持ちが、ロシュには痛々しかった。
「お話しできないって、どういう事だよ。知ってるなら教えてくれ!」
「まあまあ。じゃあ、とりあえず椅子に座って、紅茶でも飲みながらゆっくりお話でもしようよ。ラピスの入れる紅茶は、凄く美味しいんだよ?ここに来た人は皆、美味しいと言って喜んでくれるんだ」
いきり立つグリフォードに、ロシュは椅子の上からのらりくらりとかわす。
猫用に座面を高く設えた椅子は、ロシュが座面でお座りをすれば、丁度テーブルの上のものを食べられる高さで作られている。
「……そうだな。そうするか。折角来たんだ。ゆっくり寛がせて貰うよ。ちなみに、ここに泊まる場合、カードは使えるのか?」
「あ、特に料金を取ったりしてないから、気にしないで思いっきり羽を伸ばして良いよ」
「……そ、そうなのか?このご時世で、こんなリゾートアイランドがタダで利用出来るなんて、何か裏があるんじゃないのか?」
「あ、アハハ……。まあ、普通に考えたら怪しいと思うのも無理無いね。でも安心して良いよ。ボクたちはボランティアみたいなもので、ここは現実的な“しがらみ”から完全に隔離された場所だから」
「そうなのか……」
「それに、話をしているうちに、何か気付く事があるかもしれないし……ね……」
また悲しみが込み上げそうになった所を、声を霞めて悟られない様に振る舞うロシュ。
ロシュは、知っていたんだ。
一度、最果ての島を訪れた人は、二度とここへ訪れる事がない事をね。
その理由は、またこれから明らかになっていく。
「お待たせしました。今日の紅茶はアールグレイですよ。お好みで、ミルクとレモンを入れて下さいね」
「おお、ありがとう……。う~ん、確かに香りが高くて美味しそうな紅茶だ」
「おいおい、ラピス。アールグレイにはミルクよりレモンじゃないのかい?ミルクなんて薦めても、入れる人なんて居ないよ」
「あのね、ロシュ。人は其々、好みがあるのよ。グリフォードさんはロシュと違って、ミルクの方が好きかも知れないでしょ?だから、ロシュは黙ってて」
「いーや、アールグレイには断然レモンだね。ねえ、グリフォードさんもそう思うでしょ?」
「悪いなネコちゃん。俺はそんなに紅茶に拘りは無いんだ。それに、俺の場合は紅茶を飲む時はだいたいストレートで飲む。だから、ミルクもレモンも、俺には要らないんだよ」
「ええ~っ!ストレートなの!?紅茶は茶葉の香りとトッピングの味のハーモニーを楽しむものなのに……」
「……ハハハ!そこまで拘るなら、まずはレモンから試させて貰うよ」
「そう来なくっちゃ!」
グリフォードは、一口だけストレートで口を付けたが、ロシュに押されてレモンを絞る。
「じゃあ、次もお代わりして下さいね?そしたら、今度は……」
「ああ、二杯目はミルクも試させて貰うから、待っててくれよ」
「じゃあ、グリフォードさんがミルクとレモンのどっちが好きになるか、ラピスとボクで勝負だ!」
「ロシュ。久しぶりのお客様だからって、はしゃがないの!私はそんな勝負はしませんからね」
小さな事でも賭けにして刺激を求めるロシュに、ラピスは子供を叱るように窘めた。
叱られたロシュは、意気消沈して肩を落とす。
「……チェッ。つまんないの……」
ラピスに聞こえない様に、黒猫は声を抑えて呟いた。
その落胆の姿は、リゾートの様な島に似合わない程に暗く沈んでいた。