ラピスと黒猫のロシュ
――――ねぇ。
君は、知ってるかい?
この世には、果てがあるんだ。
この世の果て。
そこには何があるのかって?
それはね、ただ、空と海がどこまでも広がっているんだ。
真っ白い雲と青い空。
コバルトブルーの綺麗な海。
素敵だと思わないかい?
空と海だけじゃ飽きちゃってつまらないって?
フフフ。
そうだね。
それだけじゃ、僕も同じことを思ったかもしれない。
……でもね、想像してごらん?
そこは、見渡す限りの空と海。
海の中には様々な珊瑚が広がり―――
宝石の様に色とりどりに輝く魚達が泳いでいて―――
ガラス細工の様な貝類や海星も居て―――
金や銀にも煌めくエビやカニ―――
透き通るようなタコやイカ達も居るんだ―――――
空には虹色の鳥達が羽ばたいて―――
生き物全てが至るところで煌めいているんだよ―――
――――どうだい?
素敵な所だろ?
えっ?
でも、空と海だけじゃ寛ぐ場所も無いじゃないかって?
そんな事は無いよ。
だって、そこには、一人の少女と一匹の猫が住んでるんだから。
どうやって住んでるのかって?
海の中じゃないよ。
この世の果ての、更に果て。
最果てと呼ばれる所に、一つの小さな島があるんだ。
島には一つだけお家があって、少女と猫はそこに確かに住んでいるのさ。
そこには、どうやって行くのかって?
フフフ。
君も興味が湧いて来たのかな?
はいはい。
そう急かさないでおくれよ。
これから教えてあげるからさ。
……と、言いたい所なんだけどね。
ある、特別な方法で行けるんだけど、それについては少女と猫の物語を聞いておくれよ。
最果ての島の、不思議なお話。
一人の少女と一匹の猫の、運命のお話なんだ。
……おっ?
聞いてくれる気になったかな?
それじゃ、始めるよ?
さあさあ、寄ってらっしゃい見てらっしゃい。
少女と猫の不思議なお話の、はじまりはじまり――――――
―――――――――
ここは最果ての島。
ここには少女と黒猫が住んでいる。
「はい、ロシュ。今日の朝ご飯よ」
「やあ、ラピス。いつもありがとう」
いつものように、よく晴れた空の下。
お家の庭に設置されたパラソル付きのテーブルには、スキレットを置く一人の少女と、椅子に飛び乗る一匹の黒猫。
「ロシュ。どうしたの?急に……」
「いや。何でもないよ―――」
平凡な日々の中の、ある日のこと。
今日も、いつも通りの一日が始まる。
「―――ただ、ボクは猫だから、料理はいつもラピスが作ってくれるでしょ?ラピスが居なければ、ボクにはこの美味しいアクアパッツァも作れない。だから、ボクはラピスに感謝したいのさ」
黒猫のロシュがそう言うと。
「いいえ。それを言うなら私もロシュに感謝だわ。だって、今日のお魚も、いつもロシュが捕まえて来てくれる。木の実や鳥もそうよ。ロシュが材料を取ってきてくれるから、私はお料理ができるの」
少女のラピスはそう返す。
そんな風に、いつもの言い合いが始まり。
「じゃあ、お互い様だね」
「フフフ。そうね」
いつもの様に、すぐに仲直りをして過ごす。
ここは最果ての島。
そこには、ラピスと言う魔法使いの少女と、黒猫のロシュの二人が住んでいた。
「それじゃ、冷めないうちに頂きましょう?」
「は~い」
「「頂きます」」
いつものように仲の良い二人が、今は、朝食には少し遅めのブランチを食べるところ。
「ロシュ。このパンもスープに浸けて食べると美味しいよ」
「ラピス。ボクはお魚があれば充分さ。良かったらパンはラピスにあげるよ」
「まあ、ありがとう。じゃあ、私のお魚を少し分けてあげるね」
「ホント?ありがとっ!」
そんな普段通りの一幕。
二人とも、嬉しそうにブランチを堪能する。
だけど、ここには時々、招かれざるお客様が訪れる。
そして、来客があると、二人にとってはいつもの平凡が、ちょっと刺激的なものになるんだ。
今日も、ご飯を食べた二人の元に、一人の男性が訪れるみたい。
あ―――
二人じゃなくて、一人と一匹だったね。
不思議な世界の、不思議な一人と一匹の物語。
訪れる人達が、ラピス達に何をもたらすのか。
何を得て、何を失うのか。
それは物語が知っている。
これは、そんな運命のお話。