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公王視点

公王視点です。

 私は、ヘルツァバルグ帝国の四番目の子供として産まれた。

 四番目に産まれた息子ということで、兄姉もいるが弟妹も多い。期待されることもなく、致命的なことさえしなければ何をしても許される状況で割と放任されて育った。


 しかし、成長につれて我が国を大幅に拡大したという祖父に似た才能が出てきたらしい。帝位を父に譲ったにもかかわらず、まだ権力を持つ祖父には大変可愛がられた。もうすぐ成人を迎える兄にはいい顔をされなかったが、私も祖父とは気が合い、可愛がられて悪い気はしなかった。


 別に皇帝の位に興味はなかったが、権力を持って謀を巡らすのは楽しい。小国であれば、私も祖父のように領土の拡大のために尽力したかもしれない。しかし、我が国は成熟期を迎えようとしており、私の謀は小さなことしかできなかった。各方面に根回しを行い、企みを持つ貴族を陥れる。逆に地位はないが、才能があるものを見出し育てることも好きで、気がつけば魑魅魍魎が跋扈していた帝都が風通し良く綺麗になっていた。しかし頼まれてもいないのにそのようなことをやっていれば、長兄を否応なく刺激してしまう。皇太子に決まっているのにそんなに己に自信がないのか、顔を合わせると難題を押し付けられることが多い。また、陥れた貴族に連なるものの意趣返しか、兄が頼んだのか、暗殺者が送り込まれることが多くなった。

 側に仕えるものの忠誠心は高く、実力も確かで、別段命の危機は感じなかったが、さすがに煩わしくなり、外交官に付き添い国外へ巡ることにした。十五のときだった。

 一年ほど時間をかけて戻ってくると、兄が皇帝になっていた。私も帰国し早々に成人を認められ、兄への譲位の際に決まったこととして公国の公王という地位と領土を贈られた。祖父の圧力でもあったのか、父は折角広くなった領土を分けることにため息半分、兄は渋い顔だった。だが国内に私を置いて御しきれるか不安だったのか、文句はなく。思いもよらず公国の王となった。


 公国となる土地は帝都から西南の方にあり、祖父が新たに手に入れた土地だ。中央を川が通り、その川も毎年のように流れを変える。湿地帯で、はっきり言って旨味のない土地だったが、手をかけて開拓を行えば、良い結果をもたらしてくれる予感がした。

 また難しいのは土地だけではなかった。もともとこの地に暮らす民は、気性が荒い。水馬と呼ばれる馬に似た浅い水場の移動が得意な動物を飼いならす狩猟民族だった。

 現地へと赴くといつか反旗を翻そうかと窺う視線があるのを常に感じていた。気を許すと寝首を掻かれる心配があるような場所だったが、そのことに湧き上がるのは不安ではなく、歓喜。

 五年程かけてじっくり手中に収めた。

 彼女を見つけたのは、公国内が落ち着き、外に出ても謀反を企てようというものが完全にいなくなってからだった。


 十歳以上年が離れているというのに、その才能に惹かれた。

 彼女自身もまだ気づいていないが、芽は出ている。環境を整え、自覚を促せばどこまで伸びるだろう。

 想像するだけで楽しかった。

 彼女を手に入れる過程で、帝国の皇帝たるあの兄にも頭を下げた。

 兄の驚いた顔が忘れられない。

 私が頭を下げることが、そんなにもおかしかっただろうか。

 だが、それすらも楽しく、謀を巡らせる。

 その過程で、ローゼンバーグ王国の王子とも面会をした。

 仲が良くないという噂があったが、噂が間違っている可能性もある。

 引き離せないほどの相愛の仲であれば、帝国に迷惑をかけ、公国の今後に影響が出る。身を引くことも含め、別の手段を考える必要があった。

 面談した王子は、優秀だという評判とは裏腹に、自分の立場もよくわかっていないような者だった。

 期待していたのに残念だ。

 だが、その目の曇りが晴れれば、また違うのだろうとは思えた。しかし私には成長を促す義理もなく、彼女を頂いていくことにした。



 だが、婚約者としてようやく我が国に呼ぶことができたのに、彼女は私との婚約を半分は政略だと思っているようだった。

 政略など関係ない、完全に私のわがままで押し通した婚約だったのに、状況だけ見れば皇帝が私にローゼンバーグ王国以外の交易の経由地を作らせ、その理由としてアリシアを利用したかのように見える。そこにたまたま私の気持ちがはまっただけだと思われるのは心外だった。

 早く結婚したかったが、少しでも婚約者に恋人と認めてもらえるよう、半年ほど時間を区切ったが、それもまた悪手だった。

 何故かそれが、私が他に愛するものがおり、心の整理をするための時間だと思われていたのだ。

 心外で、言葉を尽くして説明した。最後には、「貴女には不服かもしれませんが、私を恋人として認めて欲しい」などというようなことを言ったと思う。最初は疑っていた彼女も、ようやくそれで私の心を信じてくれた。

 それからは、今後はそのような勘違いを避けようと折に触れ愛情表現を心がけたが、今度は頻度が多すぎて嫌がられた。

 彼女に関しては読み間違えてばかりだった。

 想定していた甘い婚約期間とはならなかったが、しかしそのようなことがあったおかげで、彼女とは心に隔てなく意見を述べ合うことができるようになった。



  *  *  *



 ある時。

 アリシアが妊娠し、代わりに公務に出ている時だったと思う。どこの国の外交官かは忘れたが、このような会話があった。


「公王妃様はこの国にいらっしゃって、まさに輝かんばかりですな。流石、公王陛下は人を育てる才があられる」

「私は、妃は黒真珠のようだと思います。苦難を乗り越え、自らその身を輝かせる真珠に似た輝きを持つ人です。人を育てる才があると褒められると私も嬉しいですが、私の妃については違います。そこに私の才など関係ありませんよ。全て妃がもともと持っていた輝きです」


 その会話がどこからか漏れたのか、いつの間にか広まっており、市井の間ですら妃のことは「黒真珠の君」と呼ばれている。

 それだけ好かれているということで、悪い気はしないが、あとで妃にも知られてしまい、問い詰められてしまい困った。

 結局市井の間にまで広まっていることを話すことになったが、私が言い出したことだけは秘密に出来たので、それで良しとしている。


 公国はその後、交易の中心地としてまれにみる発展を見せ、後に浮島の国と呼ばれるようになる。

 実際には違うが、遠目から見ると公国の都が湿地の中に浮かぶように見えることから、そう呼ばれることになったようだ。

 まだ湿地は水馬と小舟での移動が主であるが、開拓を始めて二十数年後、結婚後十年程経つと、公国を横切っていた川から水を引き、運河として一部利用することができるようになった。まだ完成していないが、出来ている個所だけの運用でも莫大な利をもたらしている。

 最初に構想した運河が完全に完成するには、これから何世代も時がかかるだろう。

読んでくださりありがとうございました。


今後の更新についてですが、伯爵令嬢視点の投稿で一旦完結とさせて頂きます。

感想を頂いた方には、他の視点もと申し上げておりましたが、いつ完成できるか見えませんので、お待たせするぐらいならば一旦完結させたいと思った次第です。

書き上げた際には投稿したいと思っております。


また、感想についても、今までにこんなに沢山の方にレスポンスを頂けることがなく、どのコメントも大変嬉しいのですが、私の時間的な制約が大きく、続きを書く時間が一日のうちほとんど取れないため、申し訳ありませんが、感想に返信をするのは控えさせていただきます。

申し訳ありません。

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