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3.

 学校に通い始め三か月もしないうちに、王太子からの毎度の指摘に疲れ果て、このような状態が一生続くのかと思うと時々酷く憂鬱になった。


 学校はこの国の十二から十六までの王侯貴族が全員通う義務があり、最近平民にも一部教育課程の門戸を開いている。

 教育課程は全員が学ぶ教養課程と、貴族の令息向けの政治課、騎士課、令嬢向きの淑女課、近年貴族の令嬢や平民にも門戸が開かれた文官課に分かれる。

 男性は将来の職種に合わせ課程が分かれており、政治課は領地経営や経営のために必要な農業や工業など、それぞれの専門分野についての学問を幅広く浅く学ぶらしい。高位貴族の令嬢が選ぶことができるのは淑女課しかない。

 文官課に通うのは貴族の三男以下の者が大半で、一割ほど、家の事情がある子爵男爵騎士爵の令嬢と優秀で貴族からの推薦がある平民が数名学ぶ程度。

 学校にはどこにも逃げ場はなかった。


 なので、考えた末に、一足先に公務という名の実地訓練を積むことにした。

 私に婚約者として期待されているのは、外交分野である。

 両親には、学校で外交について有意義なことを学ぶことはできないため、早く両親の手伝いをしたりして学びたい、しかし今のままではそれは難しく、どうにかできないだろうかと相談した。

 婚約者との不仲を両親は知っており思うところがあったのか、私のわがままは許された。まずは王家と調整したうえで、初年度は課外活動として、二年目以降は状況に応じて公務として両親に付いていくよう学校側とは取り決めがなされた。


 王子から距離を置くという本来の目的は、王子が学校を卒業すれば公務を一緒に行うことになるだろうし意味を持たなくなるが、わずかでも距離が離れることが嬉しく、仕事に関して両親は厳しかったが、それでも必死になって勉強した。


 初年度のうちは、学校の授業にも出る必要があり、長時間学外へ出ることはできない。また、周辺諸国の知識すら乏しい自分が華やかな表舞台に立っても出来ることは少ない、むしろ両親の足を引っ張るだけだと、来客の部屋や食事の手配など裏方の事務仕事を手伝うことから始めた。そのうちに人物名と顔が一致し、個人の好みなども覚えていく。二年目になると徐々に表に出て仕事ができるようになり、できることの幅が広がるのに比例して学校への出席は減っていった。


 最終学年となる今では、課題形式で通常の授業分の評価を稼ぎ、試験期間のみ学校へと通う日々だ。

 学外での活動の評価は上々で、私は徐々に自分に自信を持つことができるようになっていった。



  *  *  *



 季節は流れ、私も十六になった。

 最終学年だ。

 五日間続く試験を済ませ、すぐにまた学外に戻り、両親に付いていく準備をしていると、珍しく婚約者からの呼び出しがあった。

 婚約者に呼ばれたのは、王城にある王太子の執務室だ。

 今日は人払いがしてある。


「アリシア、いや、ラドフォード侯爵令嬢。貴女との婚約を白紙に戻す」


 言われた言葉に、頭が真っ白になった。だが、そこは今までの六年間、目の前の婚約者に鍛えられている。

 言葉は意識せずとも滑り落ちた。


「かしこまりました。それでは、そのように両親に申し伝えます。あの、一つお伺いしても?」

「なんだ?」


 既に用件は終わったと不機嫌そうに言われるが、このくらいならばまだ通常運転の範囲内だ。


「このお申し出については、両陛下もご存じのことでしょうか」


 つまりは、許可がある上で長年婚約者を務めた私への気遣いとして直接伝えただけなのか、独断か。

 独断なわけはないと思っていたが、一応確認したかった。


「もちろん。ラドフォード侯爵令嬢は、私が両陛下に確認もせずこのような申し出をするとお思いか?」

「お気を悪くされたのなら申し訳ありません」


 意図がわからないから確認する。それだけなのに、どうしてそれだけのことが普通に会話できないのだろう。

 長年の謎で、課題だったが、もうこれに悩まされることもなくなるかと思えばこそ、我慢できた。


「そうか。では、用件は以上だ」

「失礼いたします」


 そうして、晴れて王太子の執務室を出ると快哉を叫び駆けだしたくなったが、まだ王城で人目がある。

 馬車を呼び、急ぎ自宅に帰った。

 そういえば、王太子が婚約解消の理由を言わなかったな、と思い出したのは馬車から降りる際だった。

 学内に王太子と親しくしている伯爵令嬢がいるという噂が一昨年前位からあるのは、知っていた。

 なんでも王太子が気に入っている才女で、飛び級をし、今は私と同じクラスに居るが、ここでも飛びぬけて成績が良く、貴族の令息しか入れない自治会にも手伝いとして呼ばれているらしい。学校内でも男子生徒に人気があるそうだ。

 彼女と婚姻を結ぶのだろうか、と一瞬考えたが、もう関係ないことだ。

 その後は思い出すこともなかった。



  *  *  *



 両親には既に王から婚約解消についての封書が届いていたようだ。

 私の方からも事の次第を伝え、喜びあった。

 次の春には学校を卒業する。その後、王城に移り住み一年かけて花嫁修業をすることになっていた。そこで王族のみに伝わる伝承やら秘密やらを教えられる予定だったので、それよりは前ということで、最悪ではないタイミングだ。それらの門外不出の秘密を知ってしまえばもう婚約解消などできなかった。

 父は婚約解消自体には賛成のようだが、もとから性格の不一致の問題は議題に上がっていたにもかかわらず今まで婚約を引き延ばした王家に対し思うところがあるようだった。複雑な表情で王城へと諸手続きに向かっていた。

5/20 誤字修正 王公貴族 ⇒ 王侯貴族 誤字修正 ご指摘ありがとうございます。

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