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1/8

1.

長く流行している婚約破棄物。

読むのが大好きで、自分も、と思いましたが力及ばず、婚約解消止まりです。

 その日は私の十歳の誕生日だった。

 鏡を見ると、黒髪にアメジストの瞳をした少女が可愛らしく着飾っている。

 パーティ仕様で薄い桃色のドレスは、この日のために仕立てたもので、身にまとうのを非常に楽しみにしていた。

 なのに表情は不機嫌。

 本当なら嬉しくて前の日から眠れないくらい楽しみにしていたはずなのに、思いもよらない人物と婚約が決まったと聞かされたために憂鬱だった。

 そう。私、ことアリシア・ラドフォード、侯爵家の長女は、十歳にして、この国の王太子レオン・ローゼンバーグ第一王子との婚約が決まった。


 私も侯爵令嬢として政略結婚は覚悟していたが、それがまさか自国の王太子だなんて思いもしなかった。

 父母も私の、この可愛げのない性格を把握していたと思う。

 王太子妃には無理があると強く思ったが、そこは大人の都合のようだった。


 現当主の父とその妻である母は外交に長ける。

 父の母、つまり私の父方の祖母は隣国の王女。

 ついでにその夫君である祖父は現国王の叔父。

 母はぎりぎり高位貴族に入る家柄の出自だが、対人関係におけるバランス感覚に優れ、両親の持つ人脈を活用する父と非常に相性がよかったようだ。我が国の外務大臣とそれを支える妻として、日々活躍しておられる。ちなみに恋愛結婚だ。


 私は一人娘なので、家は継がずに王太子の嫁となることで、先代(現国王の父の代)で分かたれた王家の血を再びまとめるというお題目が掲げられた。その裏側では、父母が培ってきた国外を含めた様々な人脈を取り込み、王家に権力を集中させる手段とするらしい。

 この国はその場所ゆえに南方諸国と東に国境を接する大国の橋渡しをすることで栄えてきた。両親の持つ人脈はこの国をさらに富ませている。


 また、我が家はこの国にあって異端でもある。

 現国王は国内の最大勢力から妻を娶っており、王家は国内の派閥には強い。国内の貴族も一枚岩ではないが、歴代の中で王家の権力は強いほうだ。その中で、我が家は家臣と言っても王家の流れを汲み、他の家に比べると王権からの支配が弱い上、諸外国との人脈もある。

 実現する余地のないもしもの話だが、諸外国と密約を結べば王権を狙うことさえできた。父は順位こそ低いが王位継承権を持っている。そこまでいかなくとも、我が家が外国に引き抜かれでもすれば、王家は少なくない痛手を受けることは確かで、それらの事情を勘案し、婚約が組まれた、と聞いている。

 なので私もお飾りではなく、父の権力基盤を引き継ぎ、外交の地盤を維持して欲しいらしい。


 私としては、政略結婚についての教育もされて来たが、両親が恋愛結婚をしていることもあり、どこかで恋愛結婚への憧れもあった。だが、それも十歳にして打ち砕かれた。

 話を聞いたときは、一石二鳥どころか三鳥も四鳥も狙っているところが、この上なく政略結婚だな、と思った程だ。

 専門的な教育は受けてきており、十歳になったばかりだとしても理解はできるし納得もしている。

 政略的には申し分ない婚約。

 しかし、不安はあった。


 第一王子は完璧主義で、周囲の人物に対しても要求は厳しいと聞く。

 私はこの通りの性格だが、王太子とうまくやっていくことはできるだろうか。

 心配に思うも、政略結婚なのだ。いくら王家でも最低限の気遣いはあるだろうし、それなりの関係を築いていけるはず、と楽観的に思っていた。

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