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ラスボスの生け贄へ転生した私が足掻く話  作者: えっちゃん
最終章 めでたしめでたし。その後の話
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06.夢の中に棲む黒い男

トモヤ?目線です。

 ゆらゆらとぬるま湯に浸かっている心地よい気持ちと、頬に触れるやわらかな感触にトモヤは薄目を開けた。


“あれ?起こしちゃった?”


“姫、どうかされましたか?”


“珍しく眠っていたから、こっそりあげようと思って”


 頬に触れていた少女は、ニッコリと可愛らしい笑みを浮かべると、片手に持つ白い小さな花を編んで作った花輪を見せた。

 これは夢だと分かっていても、トモヤは口が勝手に姫と呼んだ少女のやわらかな銀糸の髪へと手を伸ばす。

 少女の銀髪は吹き抜けた風によって、トモヤの指をすり抜けて舞い上がりふんわりと彼女の背中へ落ちていった。


(また、か)


 また少女を捕まえられなかった。

 夢の中で、トモヤを諦めきれない溜め息を吐く。


 これは夢。

 ただし、物事つくずっと前から幾度と無く見続けていた不思議な夢。


 夢の中の自分は、黒装束に身を包み黒に近い濃紺色の瞳と髪をした、氷のように冷酷でそして綺麗な顔をした男だった。


 夢の中での男は、複数の魔獣相手に戦っても息切れ一つしないほどの強く、周りを敵に囲まれても冷笑を浮かべ嬉々として剣を振るっていた。

 戦となれば一騎当千の活躍で、次々に敵兵の屍の山を築き上げる血にまみれた漆黒の甲冑を装備した男の姿は、敵味方関係なく見たものを震え上がらせる存在。


 血にまみれた修羅の道を歩んでいた男の夢は、ある時から一変したのだ。

 その時の夢は、戦闘時の冷徹さが嘘のように消えた困惑した表情で、泣く赤ん坊を抱えて必死であやしていた。

 人々から畏怖されている存在の自分が、赤ん坊に翻弄されるなど馬鹿馬鹿しいと内心毒づくが泣き止んだ赤ん坊の笑顔が可愛らしくて、黒い男の表情が和らいでいく。


 夢の中で可愛らしく笑う赤ん坊は徐々に成長していき、可憐な少女へとなっていった。

 自分を信頼しきって甘えてくる少女を抱き締めれば、甘い花の香りが鼻孔を擽る。

 蕾が花開き、大輪の花となるように綺麗になっていく少女を間近に見ているうちに、胸が苦しくて堪らなくなり男は葛藤することが多くなっていく。


 大輪の花となる前に手折ってしまいたいのに、古に結んだ主君との魂の契約で縛られている自分は、彼女の全てを手に入れられない。

 抑えようとしても、余計に欲しく欲しくて堪らなくなるのだから、この感情は質が悪すぎたのだ。

 いつか自分以外の男に抱かれるであれば、いっそのことこの手で殺めてしまおうと思うくらい少女に執着していた。

 自分に残された時間は少ないと理解した時、黒い男は一つの賭けに出た。

 強い魔力と剣技の才能を秘めた少年を、鍛え上げ自分の後釜に据えて少女を守らせる。

 見知らぬ男など赦せない。自分が用意し育てた男が少女を娶るのならば、まだ、赦せたのだ。


 何度も何度も、男は少女と少年へ刷り込むように、自分の思惑通りの関係になるよう暗示をかける。

 もはやそれは暗示ではなく、呪詛に近かった。


 男の心は酷く歪んでいて、意味が理解出来ない幼い頃は夜泣きを繰り返していた。

 思春期に差し掛かった今でも、黒い男の夢を見る度に嫌悪感を覚えるくらい、男の心は歪んでいると思う。


 しかし、幾度と無く夢を見るうちに夢から覚めても、夢の中の少女はどこかに存在しているのでは無いかと、外へ出る度に気付けば探していた。

 黒い男のように強ければ、この屋敷から、この国から飛び出して少女を探せるのに。

 逢ったこともない少女。

 なのに、彼女の温もりも声も涙で潤んだ瞳も唇のやわらかさも全て知っていた。


 悪鬼が復活して父親が殺され、自分を取り巻く環境が目まぐるしく変わっていっても、頻度は少なくなったが夢は見続ける。

 早く成人を迎えたい。

 焦りばかりが増していく。


 ある日、少女と似た銀髪の女性が屋敷へ招かれた。

 衝立の影から見た女性は、少女と同じ銀糸の髪と蒼色の瞳をしていて彼女が大人になったら、きっとこんな顔立ちなんだろうかと胸が熱くなった。

 何故なら、夢の中の彼女はいつまで経っても少女のままだから。


 悪鬼が封じられていた社で、彼女が父親に斬られ飛び散る鮮血を浴びた時、思考が自分の内に存在する“黒い男”の中へのみ込まれていった。


“倒せ。私の姫に仇なす愚かなモノ全てを消し去れ”


 脳裏に響く低音の男の声に導かれるまま、地に転がる魔剣を手にしていた。

 魔剣の柄を握った際、刀身に残されていた黒い男の魔力が身体中を駆け巡る。


 そうだ、思い出した。

 俺は、私は、再びあの方と出逢うため転生したのだ。


 早く目覚めなければならないのに、解放された父親によって封じられていた力に未熟な体が耐えられない。

 焦る意識は覚醒しかけて、何度も眠りの淵へ押し戻されていった。




「うぅ......」


 額に感じた冷たい刺激で意識が浮上していく。

 重たい目蓋を無理矢理抉じ開け、暗闇の中にいた自分には強すぎる採光用の窓から射し込む陽光の眩しさに、反射的に目蓋を閉じてしまった。


「若様っ? 目が覚めましたの?」


 身の回りの世話を焼いてくれる女中の声が、ひどく遠くから聞こえる。

 目蓋を半分開けたトモヤは、眩しさに慣れない目元を手で覆った。


「俺は、俺は......うぅ......ラクジットさ、ま?」


 カラカラに渇いた喉から出たのは掠れた声で、声を発した後ゴホゴホ咳き込んでしまった。


「良かった。やっとお目覚めに......今、姫様と医者を呼びますね」


“可愛い、私の姫は何処だ”


 女中の声と重なって頭の奥から黒い男の声が響き、トモヤは額を片手で押さえた。

 侵食されそうになる意識を唇を噛んで何とか奮い立たせる。


 寝たきりだったせいで痛む腰と関節に顔を歪めつつ、トモヤは上半身を起こした。



 パタパタと軽い足音が聞こえ、廊下の方へ視線を向ければスパーン!と勢いよく襖が開いた。


「トモヤ! 私が分かる? 貴方、三日も意識が戻らなかったのよ」


 涙目でやって来たのは、薄紅色の小袖を着て長い黒髪を背中へ流した女性。トモヤを弟のように可愛がっている従姉だった。

 従姉はトモヤの両肩を掴むと、力を込めて揺さぶった。


「姉上、俺は、どう、して?」


 がくがくと体を揺さぶられ、トモヤは意識を飛ばしかける。

 見かねた女中が従姉を止めてくれなければ、二度布団へ倒れて寝付いてしまったかもしれない。


「御使い様が気を失った貴方を連れてきてくださったの。悪鬼も、父上を操っていたあの魔女も倒してくださったわ。もう大丈夫よ」


「御使い様、ラクジット、様?」


 脳が揺さぶられたせいで、朦朧としかけたトモヤの意識がクリアに戻っていく。


「姉上、ラクジット様はどちらに?」


「御使い様は、定期船が出港する日だからって今朝シンリューの町へ発たれたわ」


 ガバッ!


 従姉の話を聞いたトモヤは掛け布団を蹴り上げ、勢いよく起き上がった。

 突然起き上がったトモヤに、従姉と女中は目を丸くする。


「ト、トモヤ!? まさか追い掛けるつもり? もうじき出港する時間になるから今から向かっても間に合わないわよ! 待ちなさいっ」


 従姉の声には応えず、トモヤは部屋から飛び出した。


 廊下をすれ違った女中数人とぶつかりながら、全速力で屋敷内を走り抜ける。

 若君が乱心したかと慌てる屋敷の者達を振り切って、外へと駆け出したトモヤは前方に微かに見えるシンリューの町並みを睨んだ。



「やっと逢えたのに、逃がすわけ無いだろ! 力を貸せっヴァルンレッド!」


 トモヤは自分の奥底に棲んでいる黒い男の名前を叫ぶ。

 同じ魂を持つ、けれども全く異なる冷酷で愛する姫へ恐ろしいくらいの執着を持つ男は、トモヤの意識下から這い上がっていく。


 身体中全てを上書きされていくような感覚に襲われ、トモヤは恐怖と息苦しさから胸を押さえて呻いた。

 体の奥底から這い上がってきた黒に侵食されていく苦しさは、徐々に治まりトモヤは改めて周りを見渡した。

 普段から見慣れている風景なのに、ヴァルンレッドを受け入れたせいか妙に新鮮に見える。


「逃がしはしない。私の可愛い姫」


口をついて出た言葉は自分のものかヴァルンレッドのものか、分からないままトモヤは右手を前へ突き出した。

右手のひらへ魔力を練り、召喚陣を展開していく。


「必ず手に入れる」


召喚陣が光輝き、そこから現れたモノを見てトモヤは冷笑を浮かべた。




トモヤはヴァルンレッドの魂を持って生まれた子でした。

年齢は12歳くらい。

ヴァルンレッドの戦闘シーンやら悪どいシーンを幼い頃から夢で見せられていた、かわいそうな少年。


長くなってしまい最終話に出来ませんでした。

次話で最終話となります。


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