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ラスボスの生け贄へ転生した私が足掻く話  作者: えっちゃん
最終章 めでたしめでたし。その後の話
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05.黒幕

 父親と対峙したトモヤの手にした魔剣の刀身に埋め込まれている宝玉が赤く輝く。


 その輝きを目にした私は血の気が引いた。

 トモヤが手にしている漆黒の魔剣は、黒騎士ヴァルンレッドが愛用していた魔剣。

 ヴァルンレッドからカイルハルトへ手渡され、今は私が所有している剣。高い攻撃力があり、宝玉に魔法を込めればその魔力を帯びた剣となるが扱いが非常に難しく、装備できるものは限られる。

 装備は出来てもカイルハルトも私も完全に使いこなせてはおらず、この魔剣を屈服させ主として認めせていたのはヴァルンレッドだけだろう。

 暴れ馬どころじゃなく、下手に触れたら魔力と生命力を吸い付くされて枯れ果てる。


「トモヤ! 早く剣から手を放して!」


 宝玉から放たれた赤い光は漆黒の刀身全体に広がり、燃え上がる炎と化した。


「うわあぁー!!」


 叫びながらトモヤは、父親の背中へ向かって魔剣を振り下ろした。

 刀身から放たれた炎の衝撃波は一直線にアキマサへ向かっていく。


 ドオッ!


 衝撃波が直撃したアキマサの影から、黒い靄が立ち上っていく。黒い靄は一ヶ所へ収束し、巨大な人影を形成する。

 靄はアキマサを依り代としていた悪鬼。悪鬼は苦しみ悶えるように全身を揺らし痙攣を始める。

 ビキビキと靄の表面に亀裂が入っていき、獣の咆哮を彷彿させる野太い断末魔を響かせながら霧散していった。




 黒い靄が全て消えると、辺りに充満していた邪気も消え失せ境内は静寂に包まれる。


 回復魔法を唱えて傷を回復させた私は、意識を失い俯せに倒れたトモヤへ駆け寄った。呼吸の有無を確認し、彼が生きていることにほっと胸を撫で下ろす。

 石灯籠に寄り掛かって何とか立っていたアキマサは、覚束無い足取りで歩みを進める。

 トモヤの側へ来ると身を屈めて、意識を失った息子の頭を愛しそうに撫でた。


「お手数をおかけしたな」


 無我夢中でトモヤが放った一撃により、悪鬼から解放され正気を取り戻したアキマサの紫紺の瞳には強い意思の光を宿っていた。


 引き剥がした悪鬼の魂は、靄が霧散した瞬間私が雁字搦めに縛りつけて封じ込めた。

 封じ込めた悪鬼の魂は、アキマサにあの世へ連れていってもらうつもりだ。


「アキマサ殿は悪鬼を抑えていてくれたのね」


 悪鬼に喰われて依り代とされた彼は、魂だけとなっても戦ってくれていた。でなければ、悪鬼は社の外へ出て他の集落を襲い多くの被害が出ていたはずだ。


「相討ち覚悟で戦いを挑んだ私は、あと一歩のところであの女に邪魔をされ悪鬼に喰われた。肉体を依り代とされ、今まで悪鬼の破壊衝動と女の干渉をはね除けていたが......抑えるのはもう限界だったのだ。我々は貴女が来てくれて救われた。あとは、兄上とトモヤを救っていただけないだろうか」


 半眼を伏せたアキマサの視線は、私と話している間もずっと息子へと向いていた。

 眠るトモヤの手には、未だ魔剣が握られたまま。彼が放さないのか、魔剣が離れないのか。それが意味するものは。


「貴方がトモヤの力を封じていたのね」


「トモヤの力は我が国の火種となりうるほどの強大なものだ。成長するまでは封じておくつもりだった。しかし、貴女がいるのならば安心して逝ける。トモヤを、息子を頼みます」


 深々と頭を下げたアキマサの姿が光の粒子と化していく。

 光の粒子は私とトモヤの周囲を飛び、風に巻き上げられるように上空へ昇って逝った。


 光の粒子が全て天へと昇って逝くのを見送った私は、大きな溜め息を吐いてしまった。


「まさかこのタイミングで......なんて」


 思わず天を仰いで、両腕を回して自身を抱き締めた。




 ***




 意識が戻らないトモヤを抱えてルシリンの屋敷へ転移し、私は出迎えた女中へ彼を託して直ぐ様マサユキの部屋へ向かった。


「御使い様のご尽力により悪鬼は滅された。心よりお礼申し上げる」


 初対面の時とは異なりきっちりと正座をしたマサユキは、左右を固めた家臣と共に正面に座る私へと丁寧に頭を下げる。

 彼等の後ろに控えるカリーシャだけは頭を下げず、眼を細めて深紅の唇を吊り上げて私を見詰めていた。


「いえ、私だけの力ではありません。アキマサ殿が悪鬼の力を削いでくれたお陰です」


「アキマサの?」


 私の口から出た弟の名に、マサユキは眼を丸くした。


「ええ。そしてアキマサ殿の望みを叶えるため、悪鬼を復活させた黒幕を倒し、貴方を助けます」


「黒幕、だと?うぅっ」


 立ち上がった私を訝し気に見上げたマサユキと家臣へ、強制睡眠魔法をかける。

 バタバタと倒れる夫と家臣には眼もくれず、カリーシャは蠱惑的な笑みを深くしてゆっくりと立ち上がった。


「ウフフッ、武器も持たずに、その程度の魔力で戦う気かぇ?」


 魔剣はトモヤに渡したままだから確かに私は丸腰だった。

 私の頭から足の先まで見下ろし、嘲笑うかのようにカリーシャはクスクスと声を出す。


「武器を持ってないのは貴女も一緒じゃない。残念ながら、悪鬼の魂はアキマサ殿が一緒に連れていってくれたよ。悪鬼を復活させた悪いネクロマンサーは貴女でしょ? カリーシャ」


 私からの確認の問いに、カリーシャは笑みを崩さず器用に片眉を上げた。


「悪鬼は封印によって魂まで弱りきっていた。だから里の住人を喰わせ、アキマサ殿の体を依り代としたのね。誤算だったのはアキマサ殿の意志の強さ、かな。私に悪鬼を倒させる、もしくは弱らせて使役しようとしたの?」


 もしも、アキマサの抑えも無く悪鬼が本来の姿と力を発揮していたら、竜の力を解放しなければ勝てなかった。

 あれだけの力を持った悪鬼を使役出来たなら、かなりの戦力となり彼女は目的のための良い駒を得られただろう。


「数年前、西国の王族への反逆罪で国外追放となった高位ネクロマンサーがいたと聞いたことがあったな。調べたら、嵐で船が難破して行方不明になっているらしいけれど。貴女の目的は何?」


 肉感的な美女だったカリーシャの体は、すっかり色艶を無くした皺だらけの老婆へと姿を変え、何が可笑しいのか体を折ってケタケタ笑いだした。


「目的など分かりきっているはずだ。私を追放した国に復讐するのさ。お前は竜の血を持つイシュバーンかトルメニアの者だろう? 悪鬼は手に入れられなくとも、お前の力を得ればこの国の王を傀儡にするのも可能だ。この国を手にいれ、私を追放した者達へ復讐してやるのだよ!」


「ありきたりな目的だね。だが、そのせいで多くの人が犠牲となった。私は貴女を許せない」


 両耳に着けたカフスを外し、私の体内から抑えていた魔力が解放される。


「私の力を得る? 出来るものならばやってみるといい」


 言いながら私は冷笑を浮かべた。

 魔力を練り、元居た空間軸をずらして私とカリーシャだけが存在する空間を創る。

 複製した空間へカリーシャとともに転移すれば、誰からの干渉を受けず此処で力を解放しても元の空間には何の影響は無い。


「空間を複製だと? お前は何者なのだ」


「肩書きは、元イシュバーン王国王女で、現トルメニア帝国の皇太后かな」


「なっ!?」


 目玉が零れんばかり見開いて、顔色を青くしたカリーシャはズリズリ後退る。


「さぁて、黒幕らしく全力で戦って頂戴?」


 期待を込めて、わざとらしく首を傾げて笑う。

 左手に装着したパームカフの中央の玉へと魔力を集中させ、玉の中から出現した剣の柄を握って一気に引き抜いた。

 魔剣、幻夢を引き抜くと、抑えられていた竜の魔力が私の全身から煙のように噴き出す。


「くっ、たとえ貴様が竜王だとしてもっ! おめおめとやられはせぬぞ!」


 呪文を唱え始めたカリーシャは、手の中へ出現させた錫杖を大きく振り上げた。


残り2話です。

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