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ラスボスの生け贄へ転生した私が足掻く話  作者: えっちゃん
最終章 めでたしめでたし。その後の話
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04.悪鬼の正体は

 鶏の鳴き声で目覚めた私は、野菜と豆腐料理中心の朝食をしっかりいただいてから身支度を済ませた。


 朝食を共にしたマサユキとカリーシャへ、鬼退治に向かうと伝えたからには何か仕掛けてくるだろうと、内心ほくそ笑みながら屋敷を後にする。

 屋敷の周囲を囲む水路を渡す橋を越え、町へ向かう道を歩いていた私は足を止めた。


 大きな商家の建物の影から現れた少年の姿に、やっぱりかと苦笑いを返してしまう。


「社まで道案内が必要だろ。だから、俺も一緒に行く」


 確かに、社までの詳しい道を知らない私は道案内役がいてくれた方が有難い。一緒に戦うと言うなら断ったが、一緒に行く理由が道案内だと言われては断る訳にはいかないじゃないか。

 私は少年へ向けて手を差し出す。


「私はラクジット。少年、キミの名前は?」


「トモヤ=ムラカミ」


 よろしくね、と差し出した手をトモヤは遠慮がちに握る。

 まだまだ子どもの手なのに、硬くなっている手のひらの皮とマメが出来た指は彼が鍛練に明け暮れている証。

 幼い頃に繋いだ、カイルハルトの手を思い出してしまい懐かしいような不思議な感覚を覚えて、私はトモヤの手を握る自分の指に力を込めた。


 離すタイミングを逃した手を繋いだまま、町を囲む塀から一歩足を踏み出す前に足を止める。


 訝しげに見上げたトモヤの耳元へ私は口を近付けた。

 気配と足音を消して後をつけてくる者達の方が潜む影へ視線を向ければ、彼等は動揺したのかザワザワと空気が揺れる。


「後をつけてくるのがいるから撒くよ」


 耳へ流し込むように言うと、私との密着に慌てていたトモヤがビクリと体を揺らす。

 そのまま彼の肩へ手を回し、手懐けておいた風の精霊が示した悪鬼の社の近く、邪気の影響が届かない場所を目的地として転移魔法を展開した。



 転移魔法の浮遊感に堪えきれず、よろけたトモヤの肩を支える。


「う、此処は......?」


 顔を上げたトモヤは周囲を見渡してギョッと目を見開く。

 風の精霊に任せるまま転移したのは、町の出入口から瞬く間に人の手があまり入っていない雑木林へだった。


「風の精霊が導いた場所、社の近くまで転移したよ。此処から案内を頼める?」


 私は社への案内をしていただろう、蔦に覆われた立て札を見付けて指差す。

 数年前きちんと整えられたこの場所訪れた記憶と、荒れるがままの今の状態を擦り合わせながらトモヤは小さく頷いた。


 隙間から生えた雑草が石を押し上げてガタガタになってはいるが、歩いている地面は石畳なのが分かる。

 不意に、隣を歩くトモヤが顔を上げた。


「あの、ラクジットは術師なのか?」


「うーん、術、魔法も剣もそこそこ使えるから魔法剣士ってところかな?」


 ギルドへ“魔法剣士”と冒険者登録したのはもう遥か昔。

 時間が経ちすぎて冒険者登録は無効だろうが、ギルド関係者に聞かれなければ勝手に名乗る分なら何も咎められはしないだろう。

 ヘラリと笑う私をトモヤはじっと見上げた。


「もしも、悪鬼に敵わないと思ったら直ぐに逃げると約束してくれ」


「うん、分かったよ」


 社へ近付くうちに悪鬼の影響下へ入り込んでいるためか、トモヤの顔色は悪い。

 人の本能が拒否しているのだろうが、彼は精一杯強がって平気なようにみせる。


 生まれ変わりだと思うには、トモヤが生まれた時期と彼が亡くなった時期は違い過ぎるし、何よりも魂の色が違う。

 それでも、私を守ろうとしてくれていた幼い頃のカイルハルトの姿と重なって見えるのは何故だろう。

 真っ直ぐな紫紺色の瞳に見詰められて、私の胸の奥が苦しくなった。



 草だらけの参道を進むと開けた場所へ出た。

 色が所々剥げた朱塗りの鳥居が立ち、その先には前世の記憶にある社と似た造りの建物。

 かなり大きな社は、参道とは異なりきちんと手入れされている様に見えたが、鳥居の先に渦を巻く異質な空気を感じ私は眉を顰めた。


「この奥がお社ね。鳥居の先は歪んでいる上に死臭がする。あとは私一人で行くから、トモヤはここで待っていて」


「嫌だ。俺も一緒に行く」


 予想通りの返答で私は溜め息を吐く。


「仕方ないな。私の側から離れないでね」


 連れていくのは危険だと分かっているのに、仕方ないなと同行を許したのはある可能性から。

 彼に対して残酷なことをしようとしていると、自嘲の笑みを浮かべた。



「えっ?」


 鳥居をくぐり本殿を目指して歩いていたトモヤはポカンと口を開いた。

 建物や木の影から音も無く多数の人が姿が現したのだ。

 老若男女、幼い子どもまで、着ている服や年齢性別も異なる人達がワラワラと現れ、体を揺らしながら自分達の方へ歩いてくる。

 その異様な光景に、トモヤは一歩後退った。

 彼等は悪鬼に喰われたという社を管理していた集落の住民だろう。


 顔色を青くするトモヤへ気付かれないように守護魔法をかける。


「彼等はもう生きてはいない。肉体は喰われ魂を縛られて、死霊とされて操られているだけ」


 近寄ってくる人達の肌は乾いた土気色、焦点が合わない瞳は漆黒の闇色に変わっていた。


「生きてはいないと言っても、戦うのは気分がいいものじゃないね。下がっていて」


 死霊とはいえ、元は一般人だった人達や幼子を斬り伏せるのはいくらなんでも抵抗がある。

 彼等の苦しみを終わらせるなら、一瞬で楽にしてやらねばならない。

 建物の影や木々の間から姿を現した住民達が広い場所へ集まった時、私は一気に魔力を解放した。


「ファイアーストーム」


 魔力は炎は大蛇となり住民達を絡めとり焼き尽くしていく。

 住人が焼かれる姿を見せないようにトモヤの前へ出て、炎に巻かれると瞬時に灰となるように魔力を調節した。


 炎が大きな火柱となり天へ昇るように消えた後、残ったのは石畳にできた大きな黒い焼け焦げのみ。

 見せないようにしても衝撃は強かったのだろう、呆然とトモヤは黒く焼け焦げた石畳を見詰める。



 煤けた臭いが辺りに充満して空気が更に重くなる。

 無数の針が体を突き刺すような、圧倒的な圧力を放つモノが近付いて来る気配を感じ、私は口の端を上げた。

 直ぐに反応出来るように片手は魔剣の柄へ手を伸ばす。


「来た」


 立ち込めた黒い霧が一ヶ所へ収束していき、人の形と成っていく。


「あ、あぁっ!?」


 黒い人影が色を帯びていくと、トモヤの紫紺の瞳は大きく見開かれ全身はぶるぶる震える。


「そんな、嘘だっ父上っ!?」


 上擦った声で叫ぶトモヤの視線の先に立つのは、武士の甲冑を身に付け片手に太刀を握った精悍な顔立ちの男性。

 土気色の肌は乾き生気の無い紫紺の瞳は彼が生者ではないことを物語っていた。

 だが、住人達の死霊と違うのは悪鬼のものであろう邪気を帯びていること。

 想定していた最悪のパターン、アキマサは悪鬼の依り代とされているのだ。


「貴方がアキマサ氏?」


 私やトモヤの問い掛けには応えず、アキマサは太刀の切っ先を私へ向ける。

 来るっ、と思った瞬間、隣に立つトモヤを突飛ばして一気に鞘から剣を引き抜いた。


 ギインッギンッ!


 踏み込みと同時に繰り出された突きと斬り返しを漆黒の剣の刀身で弾く。


 ワコク屈指の剣豪と名高いアキマサの攻撃は重く、防いだとはいえ腕が痺れる。


「くっ、一筋縄じゃいかないか」


 後ろへ跳んで間合いをとる。

 元々の強さと悪鬼の力も相まって人外の身体能力を得たアキマサに、剣技だけでは勝つのは難しい。魔法を放つ隙を作るか、抑えている竜の力を解放しなければ彼には勝てないだろう。


(でも......)


 チラリと肩越しに未だ震えているトモヤを見る。

 幼い少年の目の前で、父親を殺すという残酷なことが出来るのか。

 迷いは隙となり、人が無意識している力の加減など排除したアキマサから繰り出される五月雨のような斬撃に、チリッと肩と腕に細かい切り傷が出来ていく。


「父上! 止めてください!」


 涙混じりの悲痛な声で懇願する息子の言葉で、正気が戻るかもしれないという淡い期待を抱いていたが、アキマサの猛攻は止まらず瞳に光は戻らない。


 時間を稼ぐため私は詠唱無しの風魔法を唱え、アキマサを吹き飛ばした。

 木々を薙ぎ倒して吹っ飛んだ父親の側へと、駆け寄ろうとしたトモヤの腕を掴んで止める。


「行っては駄目。アレは貴方のお父さんじゃないの。肉体だけ悪鬼の器になって術者の命令に従うだけの傀儡と化している。君は走って鳥居の外へ出なさい」


「でもっ」


「危ないからどいててっ! あぁっ!?」


 迫り来る邪気を感じて、私は咄嗟に背を向けてトモヤを庇う。


 ザクリッ


 巻き添えを食わせないよう、トモヤを突き放しと同時に、右肩へ熱い衝撃を受けて私は前のめりに倒れかかり、何とか踏み止まる。

 頑丈な竜に近い私は、脳を潰されるとか首と胴を切り離されない限り死にはしないとはいえ、斬られれば痛いことは痛い。

 右肩が貫かれた痛みと衝撃に私は小さく呻いて、堪らず右手に持っていた魔剣を落とした。


「止めて! 父上っ! その人は、」


「きゃあっ!」


 横凪ぎにした一閃を避けた私は体勢を崩して仰向けに倒れてしまった。


 飛び散った赤い鮮血が尻餅を突いたトモヤへ降り注ぐ。

 頬にかかった血を指先で触れ、ぎゅっと唇を結んだトモヤは転がる漆黒の魔剣の柄を握って立ち上がった。

 追撃しようと迫るアキマサの背後を瞳に涙を浮かべながら睨んだ。


「その人に触れるな!!」


 叫びに呼応するように、魔剣の刀身に埋め込まれている宝玉が深紅に染まった。


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