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ラスボスの生け贄へ転生した私が足掻く話  作者: えっちゃん
最終章 めでたしめでたし。その後の話
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02.ルシリンの悪鬼

 皮膚を硬い地面で擦る、ジャリジャリという嫌な音がする。

 地面に擦り付け過ぎて額から血を流がす男は、私が制止の声をかけるまで土下座を続けた。


「ご、御無礼を御許しください。貴女様に声をかける機会を窺っておりまして、どうか、どうかっ、怒りを静めてください」


「あのね、怒っていないから。何故私の後を追ったのか教えてくれない?」


 恐る恐る顔を上げた男へにっこり微笑むと、男は頬を赤く染めて震える口を開いた。


「我々は、このルシリンの地を治める御館様の命を受けて貴女様を御迎えに参りました。銀糸のお髪を持つ、ルシリンの一大事に現れた竜神様の御使い様」


 片膝を地面に突いて深々頭を下げる男に、私は困惑して「はぁ?」と眉尻を下げた。


「えーっと、私は竜神様の御使いじゃありませんよ?」


 神の御使い様だなんて大それたものではなく、竜そのものみたいな存在なのだが。




 気絶から回復させた男達に囲まれて土下座で頼まれ、渋々彼等の主が住まう城へと向かうことになった。


 ワコクの地方領主のような立場の住まう城は、前世の記憶にある日本の城と似た天守閣がある城を想像していたのだが、案内されたのは白壁の塀に囲まれた、白壁と屋根瓦の二階建ての屋敷。

 屋敷内へは、靴を脱いで上がるところや板張りの廊下、部屋を隔てているのは木製の扉ではなく襖と障子といったところが、記憶にある日本の家屋と似ていて懐かしさが込み上げてくる。


 通された客間には、私が外国人だからと配慮してくれたのか椅子とテーブルが用意されていた。

 遠慮無く椅子へ座ると、控えている女中が急須から湯飲みへ緑茶を淹れる。

 今生では馴染みの無いけれど記憶の奥にある懐かしさから、立ち上る茶の香りに頬が弛む。


「失礼いたします」


 緑茶を飲み終わった頃、見計らったように襖が開いた。

 襖から顔を覗かせたの男性は、部屋へは入らずに一礼をして私を見る。


「御使い様、御館様が御待ちございます」



 男性に先導されて、渡り廊下を歩いた先のいかにも主が住まう部屋といった部屋の前へ着いた。

 襖の前には腰に刀を挿した警備の武官、武士が目を光らせて立っている。

 案内役の男性に促され室内へ入った私を待っていたのは、金糸の刺繍が入った一目で上質だと分かる狩衣を着て一段高くなっている上座へ座り肘掛けに肘を置いた、四十代前半くらいの眼光鋭い男性だった。男性が持つ他者を圧倒する気迫から、彼がルシリン領主だろう。

 男性の傍らには、外国人だと分かる明るい栗色の髪と橙色の瞳をした色白の肉感的な美女が、座椅子の背もたれへ寄り掛かって座っている。


「そこに」


 板の床に置かれた座布団へ座るよう、領主は指で示す。


「手荒な真似をしてしまい申し訳無い」


 私が座布団へ正座で座ると、領主は軽く頭を下げる。つられて私も頭を下げた。


「いえ、私の方こそ話を聞かずに仕掛けてしまい、申し訳ありませんでした」


「私はルシリン統治を主上から任されておる、マサユキ=ムラカミと申す。此処にいるのは妻のカリーシャだ」


「よろしゅう......」


 座椅子へ寄り掛かったまま、カリーシャは目を細める。客人に対する態度では無いとは思ったが、夫のマサユキがそれを許しているのなら仕方無い。


「私はラクジット、と申します。あの、御使いとはどういうことなのでしょうか?」


「ワコクの守護をしてくださっている竜神様の御使い様のことだ。五百年、ワコクを手に入れようと魔王が襲って来た時に現れた御使い様は、銀糸の髪を持つ美しい姿をした者だと伝わっている。御使い様のお力のお陰で、ワコクから魔王は退けられた」


 五百年は世界中で魔族と人族が争っていた時期だ。

 成る程、と私は内心呟く。銀髪の御使い様というのは、イシュバーン王家の者だった可能性がある。

 濃い竜の血を持っていたら竜化もできるし、銀髪の御使い様が竜化したら、竜神様が救いに来てくれたと歓喜するだろう。


「シンリューへ御使い様と似た容姿の貴方が下り立ったと兵から聞かされ、私の部下を向かわせたのだ。手練れの部下達をあっという間に昏倒させるなど、御使い様でなければ出来まい。ルシリンの危機に竜神様が貴女を使わしてくださったのだと思うたのだが、違うのか?」


「私は御使い様ではありませんが、ルシリンの危機とはどういうことなのでしょうか」


 肘掛けへ掛けていた腕を組み直し、マサユキは暫く思案した後口を開いた。


「百年ほど前、この地へ流れてきた悪鬼が里を襲い多くの人々が喰われた。当時のルシリン領主は幾度と無く討伐隊を結成し鬼を倒さんとしたが、返り討ちとなり多くの兵が犠牲になったという。領主が主上へ訴え、国中の術師達が組み込んだ封印術により悪鬼は岩へと封じられた。しかし三年前、封印を施していた大岩が落雷よって割れてしまったのだ。復活した悪鬼により、封印を守っていた集落の者は喰らい尽くされてしまった。勿論、討伐隊を向かわせ私も戦ったが......敵わず......」


 悔しげに顔を歪めたマサユキはギリッと唇を噛み締める。


「民を喰らい尽くされるわけにはいかぬ。私は悪鬼と交渉することにしたのだ。住まう場所を整え、半年に一度、供物を捧げることを条件に人を襲わないようにと。だが、それが間違っていた。悪鬼は遂に、私の娘に供物として寄越せと言ってきたのだ。都合のよい話だと思われるだろうが、娘が喰われるかも知れぬ恐怖でやっと自分がしでかしたことの重大さが分かったのだ」


 話を聞いた私は、小さく首を傾げてしまった。

 悪いモノを縛り付けるために供物を捧げるのはよくある話だが、そんなに強い力を持つモノならこの屋敷も船から下り立ったシンリューの町も淀んでいそうなのに、淀みなど何も無いのは何故か。

 それに、解放された途端里に住まう人々を全て喰らう程の悪鬼が、半年に一度の贄だけで満たされるものなのか。

 “御使い様”を迎えに行くにしても、明らかに戦闘に長けた者達を使う等、マサユキを説明にも違和感を覚えた。この話には何か裏がある。


「......成る程。それで、私に鬼退治をしてほしい、と?」


 私が察したことでマサユキの陰っていた表情に光が射す。

 マサユキの隣に座るカリーシャの肉感的な紅い唇が、嬉しそうに動いて弧を描いたのを見逃さなかった。


「二つ、条件があります。この地で採れる鉄鉱石と水晶を譲ってくださると約束していただけるなら、鬼退治を引き受けましょう。それと暫くの間、宿を提供してください」


「御使い様が不便無くルシリンに滞在できるようにしよう。悪鬼を倒していただけた暁には、より良質な鉄鉱石と水晶の鉱山がある隣の領主へ会えるよう便宜を図ろう」


 交渉は成立し、私もマサユキも笑顔になる。

 悪鬼とやらがどの程度の強さかよく分からないが、当分の間の宿には困らないですむ。

 それに、隠居生活中は抑えていた魔力を解放して戦えることを期待している自分もいて、私は苦笑いしてしまった。





「キャアッ」


 用意された客間へと、私を先導していた女中は短い悲鳴を上げた。


 突然、私の右の方向から黒い影が飛び掛かってきたのだ。

 影が当たる直前、私は一歩後ろへ下がってそれをかわす。

 勢いよく突っ込んで来た影は、そのまま渡り廊下から落ちかけた。


「ぐぇっ」


 影が地面と口付ける寸でのところで、私は襟を掴んで引き上げてやった。


「君、大丈夫?」


 突進してきた影は、黒髪黒目の幼さが抜けきらない少年。

 服装が水干で髪を後ろで一括りにしてなければ、美少女かと間違えそうなくらい綺麗な顔立ちをしていた。

 睨む少年に気付いた女中は息を飲む。


「......去れ」


「え? なに?」


 聞き返す私を睨むように少年は見上げる。


「早く此処から去れっ!」


 言い放ってパタパタと少年は走り去っていった。


「何? 今の子?」


 庭へ落とすつもりで体当たりをしてきたり、敵意剥き出しで睨んでくるとは穏やかではない。

 少年が走り去っていく少年の背中を呆然と見てしまった。





短目にする予定がちょっと長くなりそうです。

ワコクの居住の文化設定は、平安後期~安土桃山時代あたりのイメージで。


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