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ラスボスの生け贄へ転生した私が足掻く話  作者: えっちゃん
最終章 めでたしめでたし。その後の話
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一つの愛の形

最終章となります。

前話より六十年近く経った頃の話です。

 トルメニア皇帝南部に位置するロマンネスク宮殿の庭園で、老齢の夫婦が寄り添ってベンチに座り雨上がりの薔薇を眺めていた。


 既に齢七十五を過ぎた夫婦、前カイルハルト皇帝とラクジット皇太后の仲睦まじい様子を、側仕えの者達は微笑ましく見守る。


 竜と人との間に子は授かりにくいと心配されていた中、授かった二人の息子も既に成人し孫も生まれた。先日、結婚した孫もいるからあと数年後には曾孫も生まれるだろう。

 帝位を長男へ譲ったカイルハルトはラクジットと二人で余生を過ごそうと、温泉が湧き出る地に建つロマンスク宮殿へ移り住んでから既に二十年以上の月日が経過していた。



「今日は久しぶりに雨が上がって良かったわね」


 雨続きの天候で風邪をひいてしまい、暫く外へ出られなかったカイルハルトは眩しそうに目を細めた。


 カイルハルトの薄い金髪はすっかり白髪になって、アイスブルーの瞳は灰色が混じり肌は皺が多くなったけど、それはお互い様。

 共に歩いていこうという約束通り、結婚式から六十年近くの時間を私達は穏やかに年を重ねていった。

 熱は下がったとはいえ、まだ喉の痛みと咳が残っているため声が出しにくく、カイルハルトは私の言葉に軽く頷く。


「ほら、綺麗に咲いてるよ」


 高熱が続いて体力が落ちてしまったカイルハルトは、体を支える杖が無ければ歩くのもままならない。

 侍女に切ってもらい棘も綺麗に取った薔薇を彼の手のひらへ乗せる。


「カイル、体が大変になったら教えてね」


「あぁ」


 掠れた声で答えるカイルハルトへ私は微笑む。

 いくら前皇帝といえど人である以上、老いには勝てない。

 どんなに健康に気を使っていても、確実にカイルハルトの体は衰えていた。


 竜王の血を色濃くひく私と魂の契約を結べば、番として肉体の老いや人の寿命に縛られず共に生きていける。

 双子の片割れであるアレクシスは、妻のレイチェルと魂の契約を結んでおり、今でも二人は若い姿のまま仲睦まじくしていた。

 何度も魂の契約を持ち掛けたが、カイルハルトは絶対に首を縦には振らなかった。

「魂まで俺に縛りたくないから」

 そんな事を言って、必ず寂しげに笑うのだ。


 置いて逝かれてしまう。愛する夫を喪う恐怖から、毎夜、隣で眠るカイルハルトの体温と呼吸を確認してからじゃなければ私は寝付けない。




 だが、雪が降りだしそうなくらい寒い日、ついに恐れていた時が訪れた。


 診察をした医師の指示で、親族が集められ宮殿内が慌ただしくなる。

 ベッドへ横たわるカイルハルトの命が風前の灯なのは誰の目にも明らかで、現実を受け入れきれない私は茫然自失で医師の処置を受ける夫の姿を見詰めていた。


「ラクジット......」


 ぼんやりしている私を、力を失った弱々しい声でカイルハルトは枕元へ呼ぶ。


「今まで、共に歩めて、幸せだった......一つ、我儘を叶えて、くれるか?」


 力が入らない手を伸ばそうとするが、シーツの上を僅かに這うのみで。私は苦痛を与えないよう慎重にカイルハルトの手を抱き締めた。


「ええ、何を叶えたいの?」


「姿を、戻して、くれ。君の、本来の姿を、見たい」


 意外な最後のお願いに、目を見開いた。


 人の血が混じっているとはいえ、私の本質はほとんど竜と同じ。

 せめて、外見だけでもカイルハルトと共に年月を重ねていくようにと、魔法で外見を変化させていたのだ。

「うん」と頷いて、外見を変化させていた魔法を解除した。

 瞬く間に銀髪は艶を取り戻し、皺も染みも無い白磁のような肌へ戻っていく。


 二十代前半の容姿へと戻った私の姿に、外見を変えていたことを知らない息子の妃達と孫達、医師は絶句する。


「ああ......やっぱり、綺麗だな。俺の、天使」


 本来の姿へ戻った私を、歓喜に満ちた表情を浮かべたカイルハルトは見詰める。

 既にほとんど視力は失っているらしく、見詰めているようで焦点の合わない瞳が悲しくて、私はカイルハルトの手をぎゅっと抱き締めた。


「これで、約束を果たせる。ラクジット、自由に、なったら、探せるな......世界中、を......」


 言葉はそこで途切れ、満足そうに微笑んだカイルハルトの目蓋はゆっくりと閉じていった。





 見た目は簡素だけれど魔力が込められた糸で織った布を使ったワンピース、編み上げブーツに腰には漆黒の剣を挿した。

 久しぶりに冒険者風の格好をした私は、姿見の前でくるりと一回転をする。


「やはり行かれるのですか?」


 引き留めるのを諦めきれないらしい、私と同じ銀髪でアイスブルーの瞳をした外見は二十代半ばの青年は何度目かの質問をした。


「そう、一年間の喪はあけたし」


 このやり取りは何度目だろうか。

 現皇帝である息子は、見た目は若々しくても実年齢は五十代。出産時に亡くしたとはいえ妻もいたし、その時生まれた娘もいる。

 子どもの頃からよく言えば慎重、悪く言うとヘタレな息子で、カイルハルトが亡くなって相談相手がいなくなった不安があっても、いい加減母親離れをしてほしい。

 お嫁に行った孫娘が居たら「父上、気持ち悪い」と撃沈させてくれるのに。


「夢を叶えておいでって、カイルも背中を押してくれたもの」


 腕組みしたまま私は息子を睨み付ける。

 いい歳して叱られたのが悔しかったのか、息子は顔を赤くして小さく唸った。


「帝国は貴方達がいるし、私がいなくなっても大丈夫でしょ」


「母上、貴女はご自分の価値を分かっていらっしゃらないっ! 今のお姿だったら私でも、ふごっ!」


 後頭部への一撃を受け、息子は白目を剥いて崩れ落ちた。

 兄を昏倒させたカイルハルトによく似た、これまた二十代前半にしか見えない次男は苦笑いする。


「......兄上は私が矯正、いえ、皇帝の心得を叩き込んでおきます。母上、たまには此方へ戻って来てくださいね」


 口元だけの笑みを浮かべた次男の目に兄への殺気めいたものを感じ、私は今後の長男が少々心配になった。

 仲は悪くないと思うのに、この二人は時折とんでもない兄弟喧嘩をするのだ。


「慶事があれば帰るから」


 もうオジサンの年齢になる息子の喧嘩に巻き込まれるのは御免だ、と私はそそくさと宮殿を後にした。




カイルハルトとラクジットの子ども達。


長男:現トルメニア帝国皇帝。銀髪、アイスブルーの瞳。見た目は二十代後半くらいの実年齢は五十代。最近嫁いだ一人娘がいる。

若い姿に戻った母親を見て、マザコンを拗らせてしまった。


次男:トルメニア帝国将軍。金髪、蒼目のカイルハルト似。見た目は二十代半ばくらいの実年齢は五十代。体育会系。兄をイジメるのが楽しい。一人息子がいる。


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