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*ヒロインは幸せに暮らしましたとさ?

視点が色々代わります。

 繊細な細工が施されたチェストや鏡台、広いベッドが置かれたその部屋は一見すると、高貴な身分の女性の部屋。

 しかし、小さな窓には鉄格子がはめられドアは外から施錠されており、部屋の至るところには監視用魔道具が設置されていた。


 豪華な内装とは真逆の陰鬱な空気に満ちた部屋で、軟禁状態となっているアイリ=サトウはソファーで膝を抱えていた。


 施錠された扉を通って身の回りの世話をしてくれているのは、きつい面差しの侍女一人だけ。

 部屋の中でしか自由に動けず、ひたすら月のものが来るのを待つ日々を送っているのだ。

 元々、周期は不順気味だったアイリは先月は来ず、妊娠の有無が分かるまでの軟禁状態は継続となった。


 逃げだしたくても、首にはめられた魔法封じの首輪のせいで魔法は使えず、窓は隙間が狭すぎて出られない。扉は頑丈過ぎて力付くでは開けられない。


「どうしてこんなことになったんだろう」


 ポツリと呟いて爪を噛む。

 最初からゲームの世界だと思い込んで好き勝手やったから?

 レオンハルト一筋じゃなく股がけプレイをしたから?

 それとも、ヒロインとしての努力を怠ったから?

 ぐるぐる考えても答えは見付からない。

 一番の誤算だったのは、ラクジットという竜の王女というチートなキャラが転生者だったことだ。

 だからと言って今更、ラクジットと対決しようとは思わない。今考えなければならないのは、どうにかしてこの先に待つバッドエンドを回避すること。


 ゲームでのヒロインのバッドエンドは三つ。

 一つは、悪役令嬢レイチェルの策略に引っ掛かり、人買いに捕まり奴隷として売られる奴隷エンド。

 二つ目は、学園の野外演習中に盗賊団に襲われて死亡エンド。

 三つ目は、逆ハーレム失敗の後、辺境の地の修道院で細々と暮らす追放エンド。

 今の状況からしたら、追放エンドが一番可能性が高い。

 戒律が厳しい修道院など堪えられない。

 元の世界へ還れないなら、どうにかしてバッドエンドを回避出来ないか、アイリは思考を巡らす。



「どうしてなどと、今更だろう」


 自分以外の声が部屋に響き、アイリは周囲を見渡した。

 部屋の中央の床へ転移陣が画かれ、二人のシルエットが浮かび上がる。

 現れた人物が誰か分かってアイリは大きく目を見開いた。


「アレクシスッ! カイルハルトッ!」


 現れた二人の名を叫んだアイリは、ソファーから飛び降りてそのままの勢いで駆け寄った。

 抱き付こうとしたアレクシスにヒラリとかわされてしまい、アイリはカーペット敷きの床へ座り込む。


「俺に近寄るな」


 床へ座り込むアイリへ向けて、アレクシスは氷のように冷たく吐き捨てた。


「どうして? 貴方を助けてあげるのは私でしょ? 貴方が好きになるのは、本当はレイチェルじゃなくて私なのよ?」


 すがる思いで見上げたアイリへ、アレクシスは小さく舌打ちする。

 少しは現実を受け入れているかと思って来たら、根本は何も変わらないらしい。


「何から助けるつもりだ? 今の俺はイシュバーン国王だ。お前の、ヒロインの力を借りて戦う筈だった暗黒竜は二年前に俺とラクジット、カイルハルト、エルネスト、黒騎士達で倒した」


「そんなっ何故!?」


「何故? 片割れのラクジットが喰われると分かっているのに、何もしないでいられないだろう。ハッキリ言ってビッチにしか思えないヒロインを頼るなど、絶対に嫌だったからだ」


 “ヒロイン”“ビッチ”の単語から、アレクシスも転生者だと気付いたらしいアイリは、動揺のため体が小刻みに震え出す。


「なに、それ」


 怯えたアイリの姿に満足して、アレクシスは侮蔑の笑みを浮かべた。


「見目が良く有望な男へ媚を売って、侍らすような女をビッチ以外何て言うんだよ」


 黙ってやり取りを聞いていたカイルハルトが、アレクシスの肩を掴んで止める。


「アレクシス、話が進まないぞ」


「......悪い。アイリ=サトウ、お前を始末したら甘い考えのラクジットが気を病むだろうからな。ゲームヒロインのバッドエンドにはならないようにしてやる」


 上着のポケットへ手を入れたアレクシスは、手のひらに収まる小振りの硝子瓶を取り出した。


「これを飲めば三日後には月のものが来る。そうすればお前は此処から出られる筈だ。その先、上手くやればバッドエンドじゃなくハッピーエンドへ転ぶかもな」


 瓶の中で揺れる液体は、光の加減で乳白色にも虹色にも見える。

 孕んでいたら、胎児は確実に流れる。副作用としてはその後、子が授かりにくくなるという、リスクが高い薬だ。

 目視での判断だが、全身に流れている魔力の流れからおそらく、アイリの胎内には......


 躊躇なく薬瓶を受け取ったアイリは、蓋を開けて一気に薬を飲み干した。

 毒の可能性も考えずに薬を飲んだ、思慮に欠けるアイリに対しカイルハルトは眉を顰める。


「これで此処から出られるのね?」


 嬉しそうに問うアイリから薬瓶を回収し、用件は済ましたとアレクシスとカイルハルトは彼女に背を向けて部屋から転移した。



「俺はお前を敵に回したくないと心底思ったよ」


 薬の副作用について説明などする気もなく、最初から飲ませる気満々だったアレクシスの冷酷さにカイルハルトは寒気がしてきた。


 残虐な一面を持つ竜の本能が、痛め付けることを愉しいと感じている。

 自身の持つ残虐さを自覚しているアレクシスは、竜王へ喧嘩を売った愚かな者達へ制裁を与えるために、次の目的の部屋へ向かった。




 ***




 離宮での半年間の療養を経て、体調を回復させたレオンハルトと共にアイリが辺境の地へ移り住んでから、早くも二年が経過していた。


 長らく領主不在だったせいか、領地と領民の心は荒れており当初は新しい領主への反発も大きかった。

 領地と民の抱える問題を一つ一つ時間をかけ解決していったレオンハルトは、元々持っていた統治者としての才能を十分に発揮し、徐々に民からの信頼を得ている。

 全身火傷の後遺症か、疲れやすいレオンハルトを献身的に支えるアイリは、人々から奥様と呼ばれ良妻として屋敷の使用人達から慕われていた。


 自分の存在を認められ人から愛される。

 そんな日々を送っているうちに、一年前にレイチェルがイシュバーン王国へ嫁いで行ったと知っても、一ヶ月前にカイルハルト皇太子とラクジットが盛大な結婚式を挙げて帝国中お祭り騒ぎになっても、アイリの心は然程乱されはしなかった。

 今のレオンハルトの妻、公爵夫人という立場には不満は無い。

 立場には不満は無く、頑張ってくれている夫には満足はしている。

 ......ただ一つの欲求を除いて。



 ランプの光が照らす薄暗い室内には水音と荒い息遣いが響く。


「はぁ、アーベルトォ」


 互いの舌を絡み付かせて口付け合いながら、舌を軽く吸われたアイリはその甘い刺激にソファーの背凭れへ体を預けて仰け反った。


「アイリッ、愛してる」


 熱を持つアイリの体をソファーへ横たえ、アーベルトが貪っていた唇を離すと、絡ませていた舌から垂れた唾液が口の端を濡らす。


「はぁ、この関係がレオンハルト殿下公認だなんて、信じられないな」


「ふふっ、だって仕方無いじゃない。世継ぎを作らなきゃならないのに、レオンったら全くの不能になっちゃったんだもん」


 横たわったまま手を伸ばしたアイリの細い指が、半分はだけたアーベルトのシャツの釦を外していく。


「僕は、いつか嫉妬したレオンハルト殿下に刺されないか不安だよ」


 全く不安がっていない口調で言うアーベルトは、ドレスのリボンを解いてアイリの白い肩をむき出しにする。


「はぁ、レオンには昼間いっぱい尽くしてあげているから大丈夫よ。彼は私がいなければ駄目だもの」


 クスクス笑いながらアイリは、胸元へ舌を這わすアーベルトの頭を掻き抱いた。





 密偵からの定期報告を受けた皇帝は、無表情で頷くと部屋から下がらせた。

 部屋の片隅からクックッと笑う声の主を一睨みし、密偵が書き記した行動記録へ視線を落とす。


「こうも竜王殿の狙い通りの関係になるとはな」


 フンッと鼻を鳴らして、闇を凝縮したような少年へ向けて用紙の束を投げ渡した。


 竜王、アレクシスが課した制裁は、じわじわと侵食しているようだ。

 父親がアーベルトを持て余す頃、アイリも情欲を抑えられなくなっているだろうとアレクシスは予測し、アーベルトをレオンハルトの治める領地へ送り付けるように指示を出した。


「レオンハルト皇子が嫉妬に狂うのが先か、娘が孕むのが先か。強い魔力を持つアーベルトと貴重な光属性の娘がかけ合わさったら、優秀な魔力を持つ子が生まれるでしょうね」


 嫉妬に狂ったレオンハルトが情事に狂う妻と間男に何を仕出かすかなど、考えずとも分かる。


「あの娘はお前に下賜しても良かったのだが」


 普段は飄々としている少年は、心底嫌そうに顔を歪めた。


「ご冗談を。いくら僕でもあんな淫乱な娘には欲情などしない。竜の姫なら欲しかったが」


 予測不能で可愛い竜の王女を手に入れられたら、少年の持つ命の分だけ、永遠に近い時間を番として愛せたのに。


「竜の姫は渡せぬよ。これから長きにわたり我が帝国へ、竜王の血と加護を授けてもらわなければならないからな。カイルハルトを敵に回すつもりは無いだろう?」


 愛しい妃に懸想しそうな男は近寄らせようとしない、カイルハルトの警戒心と独占欲の強さは彼を鍛え上げた二人の師譲りだろう。

 生徒だった時から、カイルハルトからは警戒されていたと、少年は当時を思い出して嗤う。


「こうもあの黒騎士が予見した通りになるとは。あの時、敵に回さなくて良かったですね」



 十年ほど前、少年は皇帝の命で行方不明になっていたカイルハルトを捜索していた。

 奴隷商人に囚われていたカイルハルトを発見していたのはエディオン国ミンシアの街。

 変態爺に買われたのを知り、直ぐ様救出へ向かった少年の前へ立ち塞がったのは、イシュバーン王国の黒騎士筆頭ヴァルンレッド。

 三百年前の大戦で一度対峙したことがあった少年は、黒騎士の力量は分かっており迂闊に手を出せない。


 どうやって奪還するかと思考を巡らす少年へ、ヴァルンレッドはある提案を持ちかけた。


『小僧は渡せぬよ。小僧を鍛え上げ、私の姫を守る役目を担わせる。上手くいけば、帝国は竜の姫との縁を手に入れられるのだ。貴様の主にとっても悪い話では無いだろう』


 正面から戦って勝てる相手では無く、退くしか無かった。


 カイルハルトは奪われたが竜王との繋がりを作れるのを皇帝は好機と捉え、息子が現れるのを待ち続けたのだ。


「数年待った甲斐があった」


 満足そうに笑う皇帝と、表向きカトレア学園長を任されている魔族の男は、窓から見える中庭を見下ろす。


 花が咲き乱れる中庭には、先日婚姻の儀を終えて夫婦となったばかりの皇太子と皇太子妃が、仲睦まじく寄り添う姿があった。



実は、アレクシスとヴァルは裏で色々やっていました。

次話からは最終章となります。

カイルハルトとのハッピーエンドが好きな方には、蛇足的な話となります。

最終話まであと数話、お付き合いください。

ここまで読んでくださり、ありがとうございました。

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