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09.関所の町

 強烈な光の洪水が収まり、ゆっくり目蓋を開けば其処は小高い丘の横、丁度影になっていて人目に付きにくい場所だった。


 全てが整えられた離宮とは違う、人の手が入っていない自然の風景に私は目を細める。



「ラクジット様、どうやら此処は関所の町のようですね」


 先に周囲の確認をしていたメリッサが、自分達が居る場所より少し下った先に見える、砦のような石造りの建物が目立つ町並みを指差す。


「関所、オライアだっけ?」


 私はイシュバーン国の地図を広げて確認する。

 離宮から転移したのは、関所の町オライアの近くだった。





 オライアの町は小さいながらも、関所の町だけあって旅人の助けとなる道具屋、宿屋に飲食店と各種店舗が充実していて旅人や買い物客で賑わっていた。


 煉瓦造りの家と煉瓦が敷かれた道、休日には朝市が開かれるという中央広場まであり、私は町並みや店巡りをしたい衝動に襲われる。


「ファンタジーだなぁ」


 前世の記憶にある町並みはアスファルトで舗装された道路の走る車と、鉄筋コンクリートの建物や色合い豊かな家屋が住宅街に建ち並んでいた。

 今、目の前に広がる町並みは煉瓦や石造りの建物は明らかに前世の世界とは違う。此処は剣と魔法の世界なんだと実感した。



 ビュウッ、強い風が吹き抜ける。


 頭から被っていたフードがずれかけて、私は慌ててフードを押さえた。


「ラクジット様、しっかりフードを被って下さいね」


 簡単には動かないようにメリッサは、フードと髪をヘアピンで止めていく。


 この世界の人族は、銀髪をもって生まれる者は珍しい。

 濃いグレーや黒髪の者はいるが、銀髪はごく一部、イシュバーン国の王族の血を濃く引く者にしかいない。輝く銀髪と蒼い瞳はイシュバーン王族、竜王の血を引く証。


 その事を、アレクシスに教えられるまで知らなかった私は、どれだけ無知な娘だったことだろうか。

 離宮に居る間は特に問題は無かったが、外へ出るには目立つ色合いは大問題だ。

 そのため、私はフードをキッチリと被って髪を外に出さないようにしていた。


 フード付きのポンチョにワンピースを着て、フードを目深に被っていたとしても私はまだ子どもだから違和感は無い。



「良い匂い~」


 関所の建物へ向かっていた私の足は、広場に並ぶ良い臭いに足が止まる。

 シロップの甘い匂いに引き寄せられて、私は屋台に並ぶカップケーキに目が釘付けとなった。



「お嬢ちゃん、関所を抜けてオディールへ行くのなら、旅のお供にうちの焼き菓子はどうだい?」


 焼きたての美味しそうなカップケーキをおじさんに見せられ、甘い物には目がない私の瞳はキラキラ輝いた。


「わぁ美味しそう。買っちゃ駄目?」


「もうっ仕方がありませんね」


 何だかんだ言いながら、私に甘いメリッサは「今回だけですよ」と上着の内ポケットから財布を出した。




 カップケーキを買ってもらってご機嫌の私の頬は、武装した兵士が立つ関所の建物に入ると緊張で強張った。


 前に並んでいる旅人や行商人と同じ様に、係の役人に通行証を見せるだけ。

 大丈夫。

 自分に言い聞かせて、私は係の役人に通行証を見せた。



「女性の子連れ旅は危険だ。くれぐれもお気をつけてくださいね」


「ありがとうございます」


 通行証を確認した、人の良さそうな男性にメリッサは笑みを返す。

 良かった。彼は、私とメリッサを母子だと思ってくれたようだ。


「道中、気を付けてね」


「ありがとう」


 手を振って礼を言えば、役人の男性は手を振り返して見送ってくれた。

 フードを被っていても、綺麗な顔立ちだと分かる私の外見に無害な存在だと思ったのか。

 こういう時は子どもの外見で良かった。




「何も無くて良かったね」


 すんなり関所を通過し、私とメリッサは国境の森を歩いていた。

 森とはいえ、道は舗装されて夜間は魔法のランプが灯されるため、迷う心配も魔物が出る心配も無い。


「この森を抜ければ、隣国オディール国へ入ります」


「へぇーオディール国かぁ」


 山間のイシュバーン王国の隣国オディールは、森林と大きな湖がある豊かな国だと地理の勉強で習った。

 季節によって実る果物を使ったタルトが美味しいと地理の先生は言っていたっけ。

 湖や河で獲れる魚介類の料理も美味しいらしいから、国境の町へ着いたら先ず腹ごしらえをしなければ。




「ラクジット様っ! 下がって下さい!」


 美味しそうな魚料理の妄想から意識を取り戻した私は、メリッサの声に反応して後ろへ飛び退いた。


 ジュッ


 たった今まで私が立っていた地面に、炎の矢が突き刺さる。


 炎の矢がフードを掠め、メリッサが整えてくれた銀髪がフードの中から零れ落ちた。


「っ!?」


 草を踏みしめる音が聞こえ、前方の木の影から人影が姿を現した。

 現れたのは、長い焦げ茶色の髪を一纏めにしてイシュバーン王国騎士団の隊服を身に纏い、腰に剣を挿した長身の男。



「銀髪、蒼目、アレクシス王子に似た姿形の少女」


 男は、私の体を頭の先から足元まで一瞥する。


「貴女がラクジット様ですね」


 口調はあくまでも丁寧なのに、男の瞳が鋭くて「違う」と否定できなかった。


「城から逃げ出すとは、随分とお転婆なお姫様だ」


 ニヤリ、男は口の端を吊り上げた。


「貴方は誰? ヴァルンレッドが寄越した追っ手なの?」


 まだヴァルが王宮へ行ってから2日目なのに、もう、彼の手の者に見付けられてしまったのか。


「いいえ? 私の主は黒騎士リズリス様。ここ最近、アレクシス王子が不穏な動きをされていたので、監視していたのですよ。まさか、離宮にいらっしゃる御方が王女様だとは......リズリス様から聞くまでは知りませんでした。ああ、貴女の護衛をしていらしたヴァルンレッド様は、まだ王宮にいらっしゃる筈です」


「黒騎士リズリスって、確か......」


 国王に妄信的忠誠を誓っている、ストロベリーブロンドの髪を三編みにした、見た目は綺麗な女性かと間違えてしまうくらい中性的な、中身は冷酷な黒騎士だった。

 黒騎士の中では一番魔法に長けていて、戦闘では状態変化や魅了魔法ばかり使う、ムカつく相手だったと記憶している。



「リズリス様のご命令で、貴女を王宮へお連れします」


「嫌っ! 私は戻らない!」


 近付いて来るリズリスの部下だという男を、私はキッと睨み付ける。


「では、不本意ながら力ずくでお連れします」


 全く不本意では無さそうな、男は愉悦に満ちた顔で私へ向かって手を伸ばした。



 バチッ!


 伸ばした手は、私へ触れる前に雷撃によって弾かれる。


「ラクジット様、逃げてくださいっ! きゃあっ」


 雷撃を放ったメリッサの体が吹き飛ばされ、地面に叩きつけられる。


「メリッサ!」


 倒れたメリッサに駆け寄ろうとする、私の二の腕を男は掴むと自分の方へ引き寄せた。


「騎士の私にそんな程度の魔法は効きません。さて姫、戻りましょうか」


「やだっ! 離して!」


 もがいても二の腕を掴む手だけで、私の上半身を押さえる男の力には勝てない。

 簡単に、私の骨をへし折ってしまうだろう強い力。

 目眩ましにと、アレクシスから貰った指輪の力を使おうと腕を動かそうしたが、男は二の腕を掴み指の力を更にこめてギリギリと腕を捻り上げられた。

 二の腕に男の指が食い込むのが痛くて、私の目には涙の膜が張る。


 殴られて意識を失って倒れるメリッサへ駆け寄りたいのに、抵抗ひとつ出来ずに捕まっている私に脳裏に黒い騎士の姿が浮かぶ。



(助けて、ヴァル!!)


 側を離れた隙に逃げようとしたくせに、こんな時にだけヴァルに助けを求めるだなんて都合が良いとは思う。


 それでも、私の護衛騎士が助けに来てくれると勝手に期待して、私の瞳からぼろぼろ涙が零れ落ちた。


黒騎士リズリス→ラスボス陛下を盲信してる金髪碧眼の美形。

陛下が好き過ぎて、陛下に尊重されるのは自分だけで十分!みたいな歪んだ考えを持っている。

同じ黒騎士のヴァルンレッド、ダリルとはあまり仲は良くない。


ゲームファンからは、長い金髪に綺麗な顔立ち細身の中性的な体型も相まって、女性疑惑、同性愛疑惑(陛下限定)があった。部下達もちょっと怪しげなキャラが多い。

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