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19.皇子の幼馴染み

 頭を掻きむしり意味不明なことを喚くアイリは、先程の儚げな少女ではなく、只の喧しい女にしか見えなかった。


 救いたいなどと、口にした台詞も儚げな姿は全て計算の上だとしたら、大した悪女だとカイルハルトは感心する。



「な、何で!? 何で私を否定するの!? 台詞に間違いはないはずなのに! イベントは発生したのにっ! 何でこうなるの!? まさか、バグッ!?」


「何を言っている......? 見目が良い男にだけすり寄る、毒婦のような女には嫌悪感しか抱けないだけだ」


 何で! どういうことよ! と、ぎゃあぎゃあ騒ぐアイリは、カイルハルトにとって最早醜悪な存在にしか思えなかった。

 現皇后と同じく、着飾って美しく装っていたとしても中身は計算高く喧しい女。

 喚くアイリが皇后と重なって見え、カイルハルトの中で嫌悪感が沸き上がってくる。


 斬り伏せたい衝動を理性で抑え、剣を振るう代わりに地面の上へ転移魔法陣を展開した。


「......喧しい。消えろ」


 自分の足元に展開した転移魔法陣に気付いたアイリは、逃れようと身を捻るが魔法陣の強制力に絡め録られていく。


「えっ? ちょっと、待ってよ......!」


 叫び続けるアイリの姿は魔法陣の光で霞み、次の瞬間には完全に消えた。


 嫌悪感より僅かに勝った理性で、転移場所は学園の中庭にしてやったのは、感謝してもらいたいくらいだ。




 吹き抜けた風で乱れた前髪を撫で付ける。


「何時まで見物しているつもりだ」


 背後に立つ大木の方へ視線を向けたカイルハルトは、気配を消してはいたものの、笑いを堪えて悶絶している悪趣味な者達へ声をかける。


「イヴァン、シーベルト」


 大木の影から学生服を着た青年二人、肩を震えさせて笑うイヴァン、呆れ顔のシーベルトが姿を現した。



「お前が笑いだすからバレたぞ」


「いやぁ、改心の出来で擦り寄ったのに一刀両断されたアイリ嬢の顔が傑作で、つい笑っちゃたんだよね」


 ぷっくくっ、と二度込み上げてきた笑いを抑えようとイヴァンは口元を手で押さえる。


「......何の用だ?」


 カイルハルトはふざけた手紙の差出人、イヴァンとシートベルトを睨む。


 幼馴染みの二人と再会してしまったら、偽装していても目敏いイヴァンと魔力関知能力が高いシーベルトならば、留学生がカイルハルトだと気付く可能性は高かった。

 二人に気付かれてしまったら、厄介なことになると予想できたため、成るべく顔を合わせないようにしていたのに。



「久し振りに会えたのに、相変わらず冷たいなぁ」


 ツボにハマった笑いから立ち直ったイヴァンは、風で舞った前髪を掻き上げる。


「探していた幼馴染みと話をしたい、という用では駄目か?」


 生真面目な口調でシーベルトから問われ、カイルハルトは何も言えなくなった。

 暗殺未遂という事態は彼等には関係無い。幼馴染み達にとって、悪友とも言える皇子がある日突然姿を消してしまったのだから。


「まさか姿を偽装して、学園へ編入してくるとは思わなかったから、僕らは真意を知りたくてね」


 真っ直ぐに見てくるイヴァンは、学園での“優しい前生徒会長”の顔では無くカイルハルトがよく知る悪巧みが大好きな幼馴染みの顔だった。


「単刀直入に聞く。行方不明だったカイルハルトが帝国へ戻ってきたのは、復讐の為か? 帝位簒奪を狙っているのか?」


 厳しい表情で問うシーベルトへ、カイルハルトは薄い笑みを向けた。


「復讐や帝位簒奪だったらどうする? 俺と戦うのか?」


 剣の柄を握ったままでいるが、カイルハルトの胸中には先程のアイリへ向けていたような、明確な敵意は沸いてこない。


「いや? その逆。大歓迎だよ。僕の可愛い妹を蔑ろにする、色狂いの馬鹿皇太子が次期皇帝になるくらいなら、僕とシーベルトで暗殺か反乱でも起こそうかと色々策を巡らしていたくらいだし」


 恐ろしいことをあっさり言ってのけたイヴァンは、愉しそうにクスクス笑う。


「策を巡らす以前に、面白いくらいの勢いでレオンハルト皇太子は評価を下げてくれている。アイリ嬢と彼女の取り巻きも、馬鹿っぷりを後押ししてくれているしな。やらかした事実を流せば、後は学園に通う子どもから聞いた噂好きなご婦人方が、社交界で広めてくれているんだよ」


 ニヤリと嗤うシーベルトを見て思い出した。

 幼い頃の二人は、大人を罠に嵌めるのが大好きだったなと、カイルハルトは苦笑いする。

 知略に長けて、少々歪んでいる二人。

 だからこそ、第一皇子を特別扱いせずに友人として受け入れてくれ、二人からは様々な知識を教えられた。


「近々、大きな動きがある。その時、君はどうするんだろうな」


 大きな動きとは恐らく......イヴァンの言わんとすることを理解したカイルハルトは渋面となる。


「俺は、帝位など......」


 不要だ、と言いかけて止まる。

 今までは不要だった。ただ、ラクジットの傍に居られたら良かった。

 だが、次期皇帝となるレオンハルトの現状を知った今、帝位は不要だと言いきれるのか。


「皇子の、皇帝の地位があれば、欲しいモノも手に入る。例えば、可愛い竜のお姫様とか」


「っ、どういうことだ?」


「僕の父親はね、竜のお姫様の婚約者候補として僕を推すらしいよ。今のところ、僕に婚約者はいないし魔力もそれなりに強いしね」


 イヴァンにその気が無くとも、あの狸爺、サリマン侯爵なら強引に話を進めかねない。

 心臓が軋む音が聞こえた気がして、カイルハルトは下唇を噛んだ。


「......イヴァンには、婚約者がいたんじゃないのか」


 生まれて直ぐに結ばれた婚約だったが、イヴァンから可哀想なくらい歪んだ執着を婚約者の伯爵令嬢は注がれていた。

 婚約者への執着ぶりを思い起こすと、他へ令嬢へ目移りするとは思えない。


「二年前まではいたよ。元婚約者は、平民の庭師と恋仲になって身籠ってしまい、駆け落ちしたあげく家から勘当されたから、婚約を解消した。僕のものにならず壊れてしまった相手には興味は無いんだ」


 壊れてしまった相手、と言ったのが引っ掛かったが恐らくイヴァンが何かやったのだ。

 幼い頃、彼のお気に入りのペンを壊してしまった時の仕返しは、容赦無いものだったから凄惨な報復をしただろう。


「ねぇ、カイルハルト。僕よりも高い魔力と地位を持つ者がいたら、その者がイシュバーンとの政略の駒になるだろうね。皇帝陛下は竜のお姫様を逃したくは無いだろうし、皇族の血筋に竜の血を引き入れたいはずだ。レオンハルトと皇后を切り捨てて自分がお姫様を娶るなんて言い出すかもね」


「......そうだな」


 表向き賢君と言われている父親の裏は、冷徹で無慈悲な男。

 嫌悪していてもカイルハルトは父親と似ていた。

 以前は理解出来ず恨みもした。たが、成長した今のカイルハルトには、父親の思考を理解できたのだ。


 暗殺された妻と行方不明になった息子の捜索もせずに、表向きは見捨てていたのは「使えなくなった」と判断したから。

 自分が捜索しなくとも、側近が手を回すことは計算していたはずだ。

 暗殺を企てた現皇后を罰することなく、彼女が享楽に興じ愛人を囲っていることに目を瞑っているのは、本来なら自分の隣に立っている皇后を表舞台から完全排除し、裏で操作するため。

 皇后を上手く使い、皇帝に仇なすものや腐敗した貴族達の膿を出させているのだ。勿論、余計な火種を作らないため皇后の飲食物には避妊薬を混ぜ、常に監視はしている。


 何れ害になると判断されれば、皇后もレオンハルトも切り捨てられるはずだ。

 それより先に、カイルハルトが自ら自分の前へ現れるのを待っているのか。


 学園へ足を踏み入れた時から、常に誰かの視線を感じていた。

 学園長あたりが監視しているのかと思っていたが、監視していたのは恐らく幼馴染みの二人。

 彼等に指示を出したのは誰かなど、聞かなくても分かる。



 黙ってやり取りを見ていたシーベルトは、考え込んでいるカイルハルトの迷いを感じ取り口を開く。


「皇子がイシュバーンの王女と親しくしていると知ったら、皇帝陛下をはじめ側近達は喜んで王女との婚約を整えよう。それを不服とする者達も動き出すだろうが、僕達が全力で排除する。カイルハルト、戻ってこい。欲しいんだろ?」


 何を、とはシーベルトは言わない。


 頷くことも否定することも出来ず、カイルハルトは唇を強く噛む。

 カラカラに乾いた口腔内には鉄錆の味が広がった。


カイルハルトとイヴァン、シーベルトは幼馴染みでした。

幼い頃のレオンハルトは、現皇后がベッタリだったため三人とはあまり関わりがありませんでした。

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