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06.彼女は悪役令嬢

 パチパチパチパチ


 自己紹介の後、クラス全員から生徒から歓迎の拍手を貰い、私はホッと胸を撫で下ろした。


「ラクジットさんの席は......あっちね。この後、昼休みにでも学園を案内するわ」


 担任教師は右手で前列の真ん中にある空席を指差す。

 すりばち状の教室の、中央の真ん前という特等席が空いているとは、あの性格が悪そうな学園長が特別に用意してくれたのかもしれない。


「分かりました」


 この席は嫌だとは言えず、頷いた私が席へ向かおうとした時、空席の隣に座る女子生徒が手を上げた。


「カーラ先生、私が案内いたしますわ」


 その女子生徒の芯の強そうな声に聞き覚えがあった。


「そう? レイチェルさんなら安心ね」


 “レイチェル”の名前に驚いた私は、改めて手を上げた女子生徒を見る。

 腰までの長い金髪は毛先の方を巻いて、吊り目の碧眼を彩る睫毛は長く上を向き、白い肌に紅い唇が色っぽく見える。

 綺麗で艶やかな女子生徒には見覚えがあった。

 彼女は、ゲーム内でヒロインの恋の邪魔をする悪役令嬢とされる、レオンハルト皇太子の婚約者のレイチェル。


(ゲーム画面より実物の方が綺麗だなぁ......)


 気の強そうな印象を受けるものの、彼女は美少女より美女といった方がしっくりくる。

 綺麗な顔よりも、私はレイチェルの胸元に目がいってしまった。

 制服がはち切れそうなくらい盛り上がった胸元は、巨乳好きの双子の片割れだったら喜んでガン見しそうだ。

 ヒロインよりも会いたいと思っていた彼女が、進んで接点を持ってくれるとは。


 パンパンッ


 担任教師の手を叩く音で、レイチェルに見とれていた私は我に返った。


「ではラクジットさん、席に着いて。皆さんホームルームを始めるわよ~」


 慌てて私は小走りで空席まで行き、隣の席のレイチェルへ会釈してから座る。

 朝の挨拶と担任教師の話が終わり、休憩時間となるとレイチェルが「よろしいかしら」と私の方を向く。


「ラクジットさん? ですわよね。私、レイチェル=サリマンと申します。今日の休み時間と放課後に学園を案内しますわ」


「ありがとうございます。昨日帝都に来たばかりで、全く分からないからよろしくお願いします」


 “サリマン”の家名で、私はレイチェルが狸爺ことサリマン外務大臣の娘だと理解する。

 驚きを顔に出さないよう、にっこり笑って頭を下げたのを合図に、私は留学生に興味津々といったクラスメイト達に囲まれてしまい質問攻めにあうのだった。




 今世では初めて受ける授業は、幼い頃に離宮で一般教養を含めマナーや帝王学まで学ばせてくれた御爺さん先生と、鬼師匠エルネストのおかげで苦もなく参加することが出来た。


「やっと放課後......」


 三日間は頑張ろうと決めた愛想笑いに初日から疲れ果てて、私はボケーッと窓から見える日が傾きかけた空を眺める。


 折角、レイチェルが案内を買って出てくれたのに、授業後の休み時間は留学生を珍しがるクラスメイト達が入れ代わり立ち代わりやって来るものだから、学園内を案内してもらうタイミングを逃してしまった。

 昼食こそレイチェルと仲良くする!と意気込んでいたのに、またしてもクラスメイトに囲まれてしまい、もたもたしている間に彼女は取り巻きの女子生徒と教室を出ていってしまったのだ。

 窓の外を眺める私の上へ影が落ちる。


「これから校舎内を案内したいのですが、大丈夫かしら?」


「レイチェルさんっよろしくお願いします!」


 やっと巡ってきたレイチェルと仲良くするチャンス。逃すものかと、私は力一杯答えた。


 教室を出て先ずこの棟、高等部B棟を案内してもらう。

 カトレア学園高等部校舎は、三つの棟で構成されている。一つの棟の各階に一学年一クラスしか教室は無く、私が所属することになった二年B組の階は教室と学習室、多目的ホールしかない。

 一階は、昇降口と各棟の清掃や雑務をしてくれている用務員さんの部屋、資材室。各学年の教室は、二階が一年B組、三階が二年B組、四階が三年B組となっている。

 前世、生徒数が千人超のマンモス校で窮屈な生活をしていた私からみたら、一クラス二十人程で他のクラスを気にせず学べる環境は贅沢すぎると思った。


「そう言えば、留学生は二人と先生からお聞きしたのだけれど、もう一人は隣のクラスかしら?」


「ええ。私、昨日Aクラスのマーサ嬢から留学生の話を聞きましたわ」


 首を傾げるレイチェルに応えるのは、癖のある栗色の髪をハーフアップにして水色のリボンで結び、緑色のくりっとした大きな瞳が可愛い女子生徒。彼女はゲーム内で悪役令嬢レイチェルの片腕として登場している。名前は先程自己紹介してくれた、アマリス伯爵令嬢。

 レイチェルとアマリスの二人を見て、私は違和感に気付く。

 ゲームでのレイチェルは取り巻きが一人足りないのだ。キャラを色に分類したら、レイチェルが赤、アマリスが青、もう一人が黄色といった具合だったのに。


「クラスとクラスの間が離れているから、隣のクラスの様子が分からないのよね」


 高等部校舎は、各棟二階と四階だけ渡り廊下で繋がっている特殊な造りをしているため、同学年といえども他のクラスの様子が分からない。

 因みに、高等部の三つ棟は真上からだと真ん中が空いた円形となり、中央の校舎は食堂と特別教室が入っている。


「まぁ、学園側も同じ国から来た留学生を一緒にはしませんね」


 クラスの人数やバランスを考えて、私とカイルハルトの所属クラスを決めた、と普通は思うかも知れない。

 しかし、あの見た目詐欺の学園長が何か意図があってクラスを決めただろうことは分かる。

 私の呟きを聞き、アマリスは大きな瞳を輝かせた。


「まぁお知り合いですの? 私、Aクラスの友人から留学生は、とても素敵な男子だと聞きましたわ。知的で少し近寄りがたいけどとても格好いいって」


 うっとりと期待に満ちた瞳になるアマリスに、私は苦笑いを返してしまった。


「知り合いというか幼馴染みです。ただ、愛想良くないから上手く挨拶出来たか心配で。変に勘違いされてないかな」


 確かにカイルハルトは、背も高いしスタイルいいし顔は綺麗だし全体的に格好いい。今は魔具で黒髪にして眼鏡をかけてるのだけれど、眼鏡効果か知的でクールな美形に見える。

 大事に育てられたお嬢様だったら、無愛想で冷たくされるのが新鮮でキュンッとなる女子生徒もいるのだろう。

 ちょっとマニアックな女子生徒は良いとして、男子受けは大丈夫だろうか。質問攻撃を受けたら、カイルハルトは冷たく接してしまいそう。

 編入初日で塩対応はマズイって口を酸っぱくして言ってあるとはいえ、反感を抱かれていないだろうか心配だ。


「レイチェルさんみたいに、可愛いくて親切な方がいればいいんだけどな」


 溜め息を吐いた私の言葉に、レイチェルは目を丸くして狼狽えだす。


「か、可愛い? 私が?」


「ええ、レイチェルさんはとっても可愛いですよ」


「えっ、えっ?」と動揺して真っ赤になる様は可愛くて、悪役令嬢には見えない。

 ヒロインに対してツンツンしていた悪役令嬢は、表面上だけで実はとても可愛らしい女の子かもしれない。


「レイチェル様ったら~赤くなられたお姿も素敵ですわ」


 頬を染めるアマリスに少し引きつつ、私はギクシャクした動きのレイチェルに先導されてA組教室のある棟へ向かう。




 棟を繋ぐ通路を歩いていると男女の話し声が聞こえた。

 残っているA組の生徒なのか女の子の声は甲高く少々耳障りで、私は顔を顰める。


「あれは......またですか」


 カーブになっている通路を歩いていき、通路の先、A棟のホールで話をしている男女の姿が見えてくる。

 彼等の姿を確認して、レイチェルは露骨に嫌そうな表情となった。

 ホールの居たのは、金髪と赤髪と茶髪の男子と黒髪の女子、それと壁に背をつけるように立つ黒髪の男子。

 彼等は壁際の黒髪の男子を囲むようにしていた。否、黒髪の男子が女子に詰め寄られており、三人の男子生徒はその様子を見守っている、というところだ。



「......カイル?」


 これはどういう状況? 修羅場?と、つい私は詰め寄られている男子、カイルハルトに声をかけてしまった。


「ラクジット......」


 顔を上げたカイルハルトは、珍しく疲れて困った表情で私を見る。

 私達に気付いた黒髪の女子生徒と、周りを囲んでいた三人の男子も振り向いた。



悪役令嬢レイチェルはナイスバディの女の子です。

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