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05.学園生活の始まり

 トルメニア帝国帝都には、皇族、貴族の子供は登校義務があり、入学試験に合格した庶民も通える学校、帝国立カトレア学園がある。


 五百年もの長い歴史がある学園は、13歳から入学し前後期制で成績が付けられる。満18歳になると卒業、留年しても20歳まで所属することが出来る。

 現在、この学園に通う生徒のうち皇族はレオンハルト皇太子のみ。生徒の半数は貴族、残り半数は入学試験を合格した一般市民だ。

 学園の自治は、基本的に生徒会を筆頭にした各種専門委員会で行っており、学園内はさながら小国家。

 生徒会のメンバーは、貴族の子息でも成績優秀品行方正な生徒が選挙によって選ばれ、彼らの卒業後は帝国を支える者となっている。

 現在の生徒会メンバーは言わずもなく学園ものの定番、攻略対象者達で固められており、皇太子の婚約者で悪役令嬢となる侯爵令嬢は書記を務めているらしい。

 因みに生徒会長は、レオンハルト皇太子。

 レオンハルト皇太子は、外見は皇帝である父親より明るめの金髪に瞳の色は濃い青色で、顔立ちは母親である現皇后によく似た甘い顔立ちの黙っていれば正統派王子様。

 中身は俺様で強引だが、レオンハルト皇太子は周りに分け隔て無く接し、成績は上の中でなかなか優秀な人物と今のところ評価されている。



「広ーい」


 カトレア学園の鉄門をくぐり、私は感嘆の息を吐いた。

 門から真っ直ぐに伸びる道の左右には庭園が広がり、道の先に煉瓦造りのお洒落な建物が建ち並んでいる。

 今日は休日だから生徒の姿はほぼ無い。


 これだけ広いと迷子になりそうだと、地図とにらめっこしている私の脇から現れたカイルハルトは、見ていた地図を奪う。


「地図、逆さまだぞ。寮はこっちだな」


 然り気無く私が手に持っていた荷物も奪い、スタスタ歩き出したカイルハルトをポカンと見送っているとメリッサに肩を叩かれる。


「ラクジット様、行きましょう。先に行ったジョシュアとユリアが、荷物を運び入れてくれていますから」


「あ、うん」


 呆けている場合ではなかったと、小走りで私はカイルハルトの後を追った。



 女子寮に着き、入寮手続きを済ませたメリッサと共に寮母さんに挨拶をして、私は用意されていた部屋へと入る。


 建前上、隣国オディールからの留学生として編入した私に用意されたのは高位貴族用の一室。

 広い部屋にふかふかなベッド、風呂にトイレ、給湯設備まで付いていて、侍女の部屋まであるから厚待遇と言えよう。

 荷解きをするメリッサとユリアを見ながら、私は学園の見取り図と寮の規則が書かれた紙を読み込む。


(カイルは大丈夫かな......)


 当然ながら寮は男女別で、カイルハルトは男子寮へ向かった。ジョシュアが侍従としと一緒に行ったのだが、二人が仲良くやれるのか心配になる。

 しかもこの後、学園長に会いに行かなければならないのだ。

 ゲームだと数秒の手続きなのに、現実だとこうも面倒臭いのか。思わず渋面になってしまった。





 職員室で仕事をしていた男性教師が軽くノックをし、「どうぞ」という返事を聞いてから扉を明ける。

 緊張した面持ちで、私とカイルハルトは室内へ入った。


「やあ、初めまして」


 通された学園長室で待っていたのは、キューティクルばっちりな艶やかな肩までの黒髪、黒曜石の瞳をした私と同年代にしか見えない色白の美少年だった。

 男装した美少女かと悩むくらい中性的な外見だが、声は少年のものだし性別は男子でいいだろう。

 学園長を訪ねて行き、重厚な扉の向こう側の椅子に座って居たのは、想像していた渋い壮年の男性ではなく美少年だったとは。

 想定外だった私とカイルハルトは、たっぷり数十秒固まってしまった。


「どうしたの? 僕の容姿がいたいけな少年だったから戸惑っているのかい?」


 少年は黒曜石の瞳を細めてクスクス笑う。


「人は外見で相手を判断するからねぇ。僕はこう見えて魔族の端くれでね、まぁ見かけ通りじゃないってことさ」


「へっ魔族?」


「そうそう」


 阿呆みたいに目を見開いた私の反応に満足したのか、唇の端を上げた少年こと学園長は、口の隙間から赤い舌をチロリと覗かせる。


「ああ、君も少々毛色が違うのだったね。竜王の血を継ぐお姫様?」


「......何で?」


「何でって?学園長だから皇帝陛下から事前に聞いていたし、僕は見た目よりずっと長く生きているから、色を変えても魔力を抑えていても分かるんだよ。だけど、面倒だね」


「え?」


「これ以上、問題を増やすのは面倒だ」


 急に吐き捨てる様に言うと、彼は作り物じみた笑みを消した。

 俯いて考え込んでいるのか、表情を消した顔は陶磁器みたいな白い肌と相俟って人形みたいに見える。


「異世界からの迷い子が入ってきて楽しいことになっているのに、イシュバーンのお姫様が加わったら更に愉快なことになるな。何故、皇帝陛下は受け入れたのか。ああそうか、見極めるためか」


「学園長......? あの?」


 ぶつぶつ呟く学園長に戸惑う私の二の腕を、カイルハルトが軽く掴む。

 ふぅ、と息を吐いて顔を上げた学園長の無表情は、にこやかで人懐っこいものへ変わっていた。


「結界を張ってあるから、その魔道具を外してくれないかい? 君が本当に竜のお姫様かどうかの確認をしたい」


 魔道具を外したら抑えていた魔力も溢れ出てしまうため、私は迷ってカイルハルトを見合げる。


「大丈夫だ」


「うん......」


 魔力が制御する手間より、これから過ごす学園生活のためには彼に逆らうのは得策ではない。

 意を決して私は魔力制御と色合いを変える、頭にぐるりと巻いたカチュームと両耳に着けたカフスを取り外す。


 後頭部で一纏めにお団子にして一部を垂らしていた黒髪は、一気に色素が抜けて元の銀髪へと戻る。焦げ茶色にしていた瞳も蒼色へと変化していく。

 容姿が戻ると同時に、抑えていた魔力も解放されていき、急激に戻った魔力のせいで目眩がして、ふらついた私はカイルハルトの腕にしがみついてしまった。


「確かに、イシュバーンのお姫様だね。竜王の血を継ぐ者にしか出ない色だし、君の魔力は竜王と成れるくらい強いね。もしも、人でいるのが嫌になったら中央大陸にあるエレクトロス山脈の頂、竜の巣へ行けば歓迎されるんじゃないかな?」


 学園長の視線は、魔力を抑えようと四苦八苦している私から隣に立つカイルハルトへ移る。


「それから......カイル君、だっけ? 君もその変装を解いてくれないかな」


 学園長の言葉でカイルハルトの体に力が入り、彼から殺気に近い圧力が放たれていく。


「さっきも言ったけど、結界を張ってあるから誰にも漏れない。安心しなよ」


「カイル駄目」


 腰に挿した剣の柄へ伸びたカイルハルトの手を私は掴む。

 見上げる私と数秒間見詰め合った後、諦めたように息を吐いたカイルハルトは左耳に着けているカフスを外した。


「やはり、君は......久しぶり、いや、お帰りなさいかな。カイルハルト皇子」


 黒髪から色素の薄い金髪へと変化したカイルハルトに向けて、作り物の笑みじゃなく心底嬉しそうに学園長は笑った。

 正体を言い当てられたカイルハルトは、キッと目前の学園長を睨み付ける。


「俺のことを、知っているのか......?」


「こう見えて僕は長く生きている。君の事は生まれた時から知っているよ。カイルハルト皇子が、身分を伏せたままでいたければそうすればいい。問題無ければ僕が皇帝陛下に伝えることもないからね。兎に角、君たちの学園学園への編入を歓迎しよう。困ったことがあればいつでも言ってくれたまえ」


 そう言い立ち上がると、張りつめていた部屋の空気が和らいでいく。

 学園長は私とカイルハルトの片手を取り、ぎゅうっと握り締めた。




 ***




 学園指定のワンピース型の制服に着替え、ユリアによって編み込みにした髪が崩れていないか鏡でチェックする。


 今日は待ちに待った初登校の日。

 同じ寮のご令嬢達へは昨日のうちに挨拶を済ませたが、会うのが楽しみだった皇太子の婚約者である侯爵令嬢には会えなかった。

 侯爵令嬢、ゲームの悪役令嬢だった彼女と同じクラスだったらいいなと、私の胸は高鳴る。




「此方よ」


「ありがとうございます」


 廊下を先導して歩く担任女性教師は、所属する教室の扉を指差した。


「はい! 皆さんお静かに! 今日から皆さんと共に学ぶため、この学園へ留学してきた子を紹介するわよ! ラクジットさん入ってきて!」


 教室へ入る私へと、生徒達の視線が一気に集中する。

 担任教師の隣に立つと、私はやわらかく見えるよう研究した笑みを作りゆっくりと口を開いた。


「ラクジット=ローラントです。オディール国から留学生として参りました。不馴れな点が多いと思いますが、よろしくお願いします」


 「人は第一印象で親しくなれるか決める。最初の挨拶を友好的にするといい」という学園長からのアドバイスに従い、私は出来るだけ友好的に自己紹介をした。




学園生活が始まりました。

偽称出身地のオディール国にはちゃんと許可をもらっています。

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