表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
58/99

*縛られているのは(カイルハルト)

カイルハルト視点、独白。

ヴァルンレッドとの出会いから。

 あれは絶望と復讐心を支えに生にしがみついていた頃。

 嫉妬と権力欲に狂った女の策略に嵌められ、皇子から奴隷の身分へと落とされた自分を救ったのは、抜き身の刃の様な鋭く恐ろしい威圧感を放っていた黒い男。


「小僧、復讐するための力を、戦い方を貴様に教えてやろう。その対価は......私の主を守ることだ」


 黒い男は、漆黒の魔剣の切っ先を俺の首へと突き付ける。

 取引、と男は言っていても、最初から拒否権など用意されて無かった。



「あっ、起きた?」


 黒い男に助けられたらしい俺は、鈴の音みたいな少女の声に反応して意識を覚醒させる。


(うっ......!?)


 無理矢理目蓋を開いた視界には、眩し過ぎる陽光が入り込み、俺は反射的に目を閉じてしまった。

 目蓋を閉じてから、可愛らしくて弾んだ声の主であろう少女の姿が、一瞬見えた事に気が付いた。そして、少女が自分の手を握っている事に頬に熱が集まる。


「痛いところとか無い?」


 二度、ゆっくりと目蓋を開いた視界に飛び込んで来たのは、心配そうに覗き込んでいる少女の顔。

 煌めく銀糸の髪、蒼い瞳をした可愛いより綺麗な顔立ちの彼女は、見覚えがあった。


「もう大丈夫だからね」


 彼女がにっこり笑えば、太陽の光をいっぱい受けた柑橘系の香りがした。


「てん、し?」


 無意識に、自分の手を握る少女の小さな手を握り返した。

 呟きが聞こえた少女は、きょとんとした後に不思議そうに首を傾げた。


「私には、キミの方がよっぽど天使に見えるよ」


 クスクス笑いながら言う少女が眩しくて、目を細めた。


「あのね、私はラクジット。キミの名前は?」


 可愛いらしく小首を傾げる天使はラクジットと名乗った。

 その日から、天使、ラクジットは俺の存在理由、守るべき存在となった。


 黒い男、黒騎士ヴァルンレッドに殺されかける程鍛えられても、彼女の笑顔があれば耐えられる。

 強くなるための理由が、復讐からラクジットを守るためになっていくのにそう時間はかからなかった。

 この感情は、ヴァルンレッドによる刷り込みだろうとは薄々気付いてはいたが、帝国に父親にまで見捨てられた自分の存在理由がある方が、生きていく糧となるとあまり深く考えないようにしていたのだ。


 成長するにつれて、ラクジットは可愛いから綺麗な少女へと変わっていく。


 俺を疑うことなく、いつでも真っ直ぐなラクジットに見詰められると、心臓が早鐘を打ち苦しくなる。

 ヴァルンレッドの腕に抱かれて頬を赤らめる姿を目にした時は......腸が煮えくり返る感情を抱いた。

 刷り込みと恩義、存在理由を得るためだと思っていたラクジットへの想い。

 それが別の感情だと、彼女を見る度近づく度胸がざわつくのはこの複雑な感情の名前を気付いた。

 ラクジットの傍に居たいのに、すべてにおいてヴァルンレッドには敵わないのが悔しくて堪らない。



「カイルハルト、姫を、ラクジット様を守れ。私の代わりに......」


 暗黒竜を倒した後、二度言霊で俺を縛ったヴァルンレッドは灰塵と化していき......最後は確かに穏やかな笑みを浮かべていた。





「カイルはもう自由なんだよ。私を守らなくてもいいし、帝国へ戻ってもいいんだよ」


 暗黒竜を倒した後、倒れたラクジットは十日後にやっと意識を取り戻した。

 メリッサに支えられて起き上がったラクジットは弱々しく微笑む。

 泣き腫らして腫れぼったくなった目蓋が痛々しくて、ヴァルンレッドを想って泣いたのかと苦しくなった。


 王女の護衛騎士として傍に仕えると選択すれば、ラクジットはひどく驚いて何度も「いいの?」と問う。

 皇子に返り咲くのも、復讐も、俺にとっては彼女の傍に居ることの方が重要なのに。


 生来の銀髪と蒼い瞳に戻った王女としてのラクジットは、花の妖精みたいに可憐で傍に居ると、微笑まれると、ひどく落ち着かない気分にさせられた。

 アレクシスの国王即位式でラクジットが御披露目されてから、愚かにも近隣国の王族や貴族からの彼女との謁見や見合いの申し込みが増えていく。

 贈り物と釣書に姿絵、男達からラクジット宛に贈り物が届く度に、全て燃やし尽くしてやりたいくらい苛ついた。


 近隣諸国で注視されている“イシュバーンの王女”を、竜王の力を狙っていたトルメニア帝国が見逃すわけはなく、使節団が入国すると聞いた時は、皇帝の狙いがあからさま過ぎて呆れたものだ。




「カイルー! どう? 大人っぽく見えるかな?」


 警備の配置場所へ移動する俺を呼び止めたのは、肩と胸元、背中を広く露出したイブニングドレスを着たラクジットだった。


 化粧を施したラクジットは見知らぬ美しい大人の女性となり、ブルーのドレスによって白い肌が際立って見えて、ゴクリッ唾を飲み込む。

 こんなに綺麗な彼女を誰にも見せたくない。出来ることならば、部屋に閉じ込めて自分だけのモノにしてしまいたいのに、彼女は使節団を持て成すためにめかし込んだと言う。

 部屋に閉じ込めておけないのならば、彼女の隣に並びたいと思う。しかし、騎士という立場では王女の横に並ぶことは叶わない。

 ......帝国の皇子だったら、皇太子だったら、ラクジットの隣へ並べるだろうか。

 下らない考えに辿り着きかけて首を振る。皇子の地位など捨てたものだ。


 帝国からの使節団を遠目から確認し、舌打ちしてしまった。見覚えがある大使の男は、ダグラス=サリマン侯爵。

 凄腕の軍師で軍事と政務において父親の片腕として、汚い裏の仕事も平気で行う狸爺だ。


 謁見の間での爺は、アレクシスとラクジットの二人を見上げ、卑下た笑みを浮かべた。

 値踏みするような視線にその場で爺を斬りたくなったが、何とか理性で衝動を抑える。




「トルメニア帝国の帝都にある帝国立学園へ行くかもしれ「俺も一緒に行く」ないんだ」


 悶々とする中終わった晩餐会の翌日、アレクシスの執務室へ呼び出された俺は、ラクジットの言葉を最後まで言わせないように被せて言う。

 続く言葉が「無理してついてこなくてもいいよ」だろうことは聞かなくても分かっている。


「帝国の帝都だよ? いいの?」


「ラクジットが行くなら俺も行く」


「でも......」


 口ごもるラクジットが、俺のことを案じてくれているのに嬉しくなる。


「気になるなら外見を変える」


 渋々といった体で、わかったと小さな声で了承したラクジットは困ったように眉尻を下げた。


「う~、じゃあエルネストに外見を変える道具を頼まなきゃね。連絡してくる」


 パタパタと淑女とは程遠い足音をたてて、通信用水鏡の間へ走って行くラクジットの背中を見送った。



「何て言えばいいか......悪いな」


 扉が閉まると同時にアレクシスから苦笑いで言われ、俺は軽く首を振る。

 謝られても今さらだし、ラクジットの自由奔放さにはもう慣れた。


「わが妹ながら鈍すぎる」


 鈍いのには同意してしまう。

 隠すつもりも無かったが、出会った頃から抱いているラクジットへの恋心は、アレクシスやメリッサには気付かれているのに。

 否、俺が抱いている感情を勘違いしているのだろう。

 ずっと俺が抱いているラクジットへの恋心ではなく、ヴァルンレッドによる刷り込みだと。


「ラクジットは俺を縛っているのではと不安がるが、俺からしたら縛られているのはアイツの方だ」


 幼い頃からヴァルンレッドを依存するように刷り込まれたラクジット。俺よりもずっとヴァルンレッドに縛られている。

 未だにラクジットを縛るあの男は、彼女が自分のモノだと死してなお主張しているようで許せない。


「カイルハルト、もしもレオンハルト皇太子がラクジットにちょっかいをかけてきたら、お前はどうするんだ?」


 思ってもみなかったことを問われ、ハッとしてアレクシスの顔を見る。


 イシュバーン国内、王宮内ではラクジットに近付く男を警護の名目で威嚇しているが、帝国、帝都では動きにくい。

 帝国へラクジットが行くということは、皇帝やレオンハルトと必ず顔を合わせる。レオンハルトがラクジットを気に入るのは、有り得る話だ。


「俺は......」


 どうするのだろうか。

 皇太子の座を譲ることは出来ても、ラクジットの傍は譲れない。

 こんな時、ヴァルンレッドならどうするのだろう。

 邪魔な者を排除するか。

 彼女の心を離れられなくするか。


 自問自答を繰り返しても答えは出なかった。




全てがヒロインとは別視点の話は、これが初めてだったりします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ