表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ラスボスの生け贄へ転生した私が足掻く話  作者: えっちゃん
4章 生き延びるための戦い
54/99

15.新しい時代の幕開け

4章終話となります。

 ーラクジット様......どうか、私に縛られず御幸せになってくださいー


 そう言って微笑んだ彼は、私の手をすり抜けて光の粒子となって消え去ってしまった。


 来世の再会を誓ったとしても、なんて酷い人だろう。

 縛られないで、と言いつつも去り際に愛情と執着を感じさせる熱を与えて、私の心を“ヴァルンレッド”という存在に縛り付けるなんて。


 本当に酷い人、それでも私は、貴方と生きていきたかったのに......




「あ......」


 何かを掴もうと伸ばした手が空を切り、私は重たい目蓋を少しだけ開いた。

 何かを誰かを探している夢をみて泣いてしまったのか、顔中がぐしゃぐしゃに濡れている。

 緩慢な動作で上へと伸ばした腕を戻す。

 涙で濡れた顔は掛布でごしごし拭いてから気付いた。


 此処は何処だろう。

 瓦礫と化した広場に居たのに、何故ベッド、それも 天蓋付の立派なベッドに寝かされているのか。

 それに、ひどく体が怠くて重い。

 何とかして怠い体を動かそうと、私は横たわりながら身動いだ。


 パタパタと駆け寄ってくる足音が聞こえ、私は足音の方へ顔を動かし......目を見開いた。


「ラクジット様! お目覚めになりました!?」


 明らかに動揺した様子でベッドサイドへ駆け寄ってきたのは、侍女の服を着た私がよく知る彼女だった。


「メリッ、サ?」


 渇いた喉から絞り出した声は酷く掠れていて、私は乾燥してひきつる喉の違和感から咳き込んでしまった。

 ゴホゴホ咳き込む私の背中をメリッサが擦る。


「あぁっ無理に喋らないでください。今、水を持ってきますね」


 サイドテーブルに置かれた水差しから、メリッサは硝子のコップへ水を注ぐ。

 力が入らない私の体を支えたメリッサは、口元へコップを持ってくると慎重に傾けた。


「焦らずゆっくり飲んでください」


 丁寧にメリッサが飲ませてくれた水には、レモンの果汁が混ぜられているらしく、爽やかな風味があって渇いた喉が潤っていく。


「ありがとう......」


 喉が潤うと同時に霧がかった思考も覚醒してくる。

 ヘッドボードと背中の間へクッションを入れてもらい、上半身を起こして私は室内を見渡す。

 やはり此処は見知らぬ、離宮とは違う部屋だった。


「メリッサ此処は? 私、どれくらい寝てたの? お城は? みんなは無事なの?」


「皆様ご無事ですから落ち着いてください。此処は王宮の奥、その昔後宮と呼ばれていた場所です。離宮と王宮の一部は崩壊してしまったため、一時的に此方をラクジット様とアレクシス様のお住まいとしました」


「後宮......」


「アレクシス様は倒れられた翌日にはお目覚めになられましたが、ラクジット様は......十日間眠っていらっしゃいました。アレクシス様が臣下と民へ向けて、“城の地下に封じられていた暗黒竜が復活し、生き別れた双子の妹王女とともに倒した”と発表されまして、民達はラクジット様を英雄の様に讃え姫様のお目覚めを願い、教会で祈りを捧げていると聞いています」


 皆の無事と城は崩壊しても街への被害は無いと知り、私は安堵の息を吐く。

 英雄扱いはこそばゆい気もするが、私の、ラクジット王女の存在が認知されたのと、身を案じてもらっていたのは純粋に嬉しい。


「十日間も......ねぇ、ヴァルは?」


 十日も寝ていたら体力筋力が低下するか。倦怠感の原因が分かった私は、浮かんだ疑問を迷った末に口にする。

 ヴァルの名前を出した途端、メリッサは表情を曇らせた。


「ヴァルンレッド様は......」


 メリッサの重たい口調と顔色から、ヴァルンレッドが現世には居ないと察した。

 やはり、白い空間でのことはただの夢ではなかったのか。


「ヴァルはやっと解放されたのね」


「ラクジット様......」


 彼の望みは叶えられた。そう思うと、張り裂けそうな胸の痛みは軽くなっていく。

 今にも泣き出さんばかりのメリッサに「大丈夫」と言おうと首を振り、煌めく銀糸の束が肩を滑り掛布の上へと落ちた。


「あれ? 何これ?」


 軽く振り返って確認すると、肩までだったはずの髪が腰より長くなり敷布の上へ渦を巻いていたのだ。


「ラクジット様が眠りにつかれてから、どんどん伸びてきたのです。エルネスト様は、魔力を受け入れた影響だから心配ないと仰ってました」


 毛先まで魔力が浸透した伸びた髪を指で掬い上げる。

 暗黒竜の魔力を受け入れた時から、体中の細胞が変化したのは感じていた。

 背筋に寒気が走り、両手を両腕へ回し自身を抱き締める。

 想定していたとはいえ、実感すると動揺してしまうものだと嘲笑ってしまう。

 巨大な魔力を吸収したことによって人という枠より飛び出た存在、私の体は人よりも竜に近いモノになってしまったのだ。




 ***




 三百年もの間、妃候補とされた女性を閉じ込めていた離宮が建っていた場所は、季節の花が咲く小高い丘の庭園として整えられていた。


 丘の上に設置されているベンチに座り、私は吹き抜ける風が気持ちよくて目を細める。

 王宮が見下ろせる丘の上には三本の円柱形のモニュメントが建てられ、イシュバーン王国の英雄、三人の黒騎士を讃えた文が刻まれていた。

 戦乱の時代、国王を支え戦い暗黒竜の呪いで三百年間死ぬことを許されず、イシュバーンを護ってきた黒騎士の国民からの人気は絶大で、この場所は黒騎士の丘と呼ばれ一般に解放されている。

 黒騎士の墓標ともされているモニュメントの周りは、常に人々からの献花が絶えない。

 今日は国をあげての大イベントのため立ち入り禁止となっており、私は人目を気にすることなく黒騎士の丘へ訪れていた。


 ベンチに座って私は王宮を眺める。

 幼い頃、眺めていた王宮とは違う真新しい宮殿が陽光で輝いていた。

 暗黒竜との戦いで半壊してしまった王宮は、半年かけて補修されたのだ。白亜の城壁が青い空に映え、新国王の即位式という晴れの日に相応しく見えた。


「もう半年か」


 国王の崩御、国の重鎮達の入れ替わりに新体制の設立、様々な問題をアレクシスと共に片付けていってあっという間に時間は過ぎていった。

 あの戦いはたった半年前なのに、もう何年も前の出来事みたい感じているのは、今が平和だからか。


「早いなぁ......」


 生き延びたいと、強くならなければと足掻いていた頃と比べ、一気に自分を取り巻く環境が変化してからようやく立ち止まって考えられるようになってきた。


(私は、これから王女として王の妹として生きていけるのかな?それとも......)



 さくっ、芝生を踏む足音が聞こえ私は俯いていた顔を上げる。


 確認しなくても誰かなんて分かっていた。

 気配を辿れないように偽装工作したのに、やっぱり迎えに来たか。

 内心、溜め息を吐いて私はベンチから立ち上がって振り返る。


「ラクジット、メリッサが半泣きで探しているぞ」


 わざわざ迎えに来たカイルハルトは、吹き抜ける風に薄い金髪と騎士服を靡かせ無愛想に言う。

 彼を縛っていたヴァルンレッドはもう居ないのに、彼はイシュバーンに残ることを選択した。

「復讐などに興味はなくなった」と、彼は騎士として私に仕えるのだと宣ったのだ。


「戻るぞ。アレクシス新王が即位するのに、双子の片割れが不在なんて洒落にならないからな」


「分かってるって。朝から侍女の着せ替え人形にされていて、嫌になったの。ちょっとした息抜きだよ」


 口は悪いし無愛想なのにカイルハルトは過保護なのだ。

 朝から着せ替え人形扱いをされていた私はつい唇を尖らした。


「ラクジット王女の大々的な御披露目になるから、侍女達は気合いが入っているんだろ」


 ざぁー


 突然、強い風が吹き、私は捲れ上がったスカートの裾を慌てて押さえる。

 風が止んだと同時に、スカートを押さえていた手をカイルハルトが掴む。


「なに?」


 風で捲れたスカートの隙間から下着でも見えたのかと、焦った表情で手を掴んだカイルハルトを私はキョトンと見上げる。


「いや、何でもない」


 自分でも分からない咄嗟の行動だったのだろう、カイルハルトは困惑した表情で私を見下ろした。


「手を繋がなくても逃げないよ?」


 それでも掴んだ手を離さず、カイルハルトは視線を横へ逸らした。


「......部屋まで転移する」


 横を向いてしまったカイルハルトが転移魔法を発動させ、足元に転移陣が展開されていく。


 転移陣が光輝いた瞬間、私は背後を振り返った。


「ヴァル、行ってくるね」


 新国王の即位により、時の流れを取り戻したイシュバーン王国は新時代を迎える。

 大切な彼の墓標代わりになっているモニュメントへ向かって私は微笑んだ。


イシュバーン王国編はこれで終わり、次話からは新展開となる予定です。

因みにカイルハルトが焦って手を掴んだのは、下着が見えたわけではありません。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ