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ラスボスの生け贄へ転生した私が足掻く話  作者: えっちゃん
4章 生き延びるための戦い
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07.暗黒竜の覚醒

 王宮の地下にあるという目的地まで、カルストと侍従の青年に先導されて私は赤い絨毯が敷かれた通路を歩いていた。

 警備を広場の方へ集中させているため、城内の警備兵の数は少ないようで廊下で兵にすれ違っても、彼等は私よりも宰相へ頭を垂れる。


 謁見の間の玉座の後ろのスイッチを押し、出現した入った隠し通路から地下へと続く薄暗い階段を下りている途中、目眩に襲われた私は手摺に掴まり倒れるのを堪えた。


「姫様、大丈夫ですか?」


 侍従の青年が差し伸べてくれた手に掴まり、私は何とか立ち上がる。


「ありがとう」


 まだまだ続く階段を下りた先、おそらく目的地に居る存在から重たい圧力と魔力が私を絡み取ろうとしたのだ。

 先を歩くカルストと侍従は平然としていることから、恐らくは、この存在感と圧力は竜の血を持つ者しか感じ取れないのだろう。

 油断すれば意識を持っていかれてしまう。


(ドレスから動きやすいワンピースとブーツに替えていて良かった。ヒールのある靴だったら足首捻っただろうし)


 私は大きく息を吐くと、気を引き締めて歩き出した。



 永遠に続くかと錯覚するくらい長い階段を下りた後、円柱が並ぶ広い回廊を通り抜けた先、大きな石造りの扉の前へ辿り着いた。


「此処が......」


 物音一つしない地下に、靴音と私の声が響き渡る。


「ええ、国王陛下が眠る、揺りかごの間です」


 鏡のように磨かれた石造りの扉の中央には、炎を吐く巨大な竜と美しい女性のレリーフが刻まれており、いかにもな扉に私はゴクリと唾を飲み込んだ。


「解錠します」


 扉に右手をあてたカルストは、小さな声でぶつぶつと解錠の呪文を呟いた。


 ギギギギィ......


 両開きの扉の縁が赤く光り、重い軋み音を立てて自動で扉は開いていく。

 カルストと侍従の青年に続き私が入って直ぐ、バタンッと大きな音を立てて扉は閉まった。


 扉の先には広々としたホールになっており、四方の壁に設置された青白い魔法の明かりに照らされて、此処が地下空間とは思えないほど明るかった。



「ひっ」


 先を行くカルストを追いかけ、20段程の階段を駆け上がった私は小さく悲鳴を上げた。


 すり鉢状になっているホールの床の中心部分に、巨大な魔方陣が魔力により描かれており、その中央に漆黒の巨体が膝を抱えるように眠っていたのだ。

 魔方陣から伸びた複数の蔦が形成する、半透明の繭にくるまれて眠るのは漆黒の鱗と翼を持つ巨大な竜だった。

 記憶の中にある、艶やかな黒髪と真紅の瞳を持った国王の姿と、前世の私がやっていたゲーム画面内の暗黒竜の画像が重なる。


 眠る竜へ向かって恭しく一礼して、振り返ったカルストは固まる私を見詰めた。


「此方に居られます方が、国王陛下にございます。今は竜化しておられますが、ラクジット王女様のお父上です」


「これが、竜王......」


 ゲーム画面越しとは違う本物の竜の迫力と恐怖から、私の喉から上擦った声が出た。

 血を分けた父親だからか、恐怖畏怖と同時に懐かしさを感じて私は自身の腕で両肩を抱く。

 竜の血が、本能が暗黒竜を畏れているのが分かる。

 震え出しそうになる体に力を込めて、私はキッと前を見据えた。


「ラクジット様?」


「カルスト、騒ぎを起こせばいいんでしょう? 私が国王を叩き起こすから、貴方は広場に集まっている市民と城に居る人達を避難させて。アレクシスが来てくれるまで頑張ってみるから」


 眠る竜を睨む私に、カルストは首を横に振る。


「いえ、私はラクジット様の補助をいたします。王女一人で戦わせません」


「駄目、貴方は城にいる人々を避難させることを優先するの。被害を最小限に抑えるために動いて。助っ人はいるから大丈夫」


 ニッと口角を上げて、私は不敵に笑ってみせる。


「ヴァルから聞いているでしょ? 私の師匠と幼馴染みがきっと来てくれるから」


 意識を集中して左手を見れば、エルネストが渡してくれたパームカフの中央にある玉が輝いて見えた。


 暫時思案したカルストは、フッと息を吐いてから諦めたように頷く。


「分かりました。私は周囲の被害を抑える役目を担いましょう。既に、王都と広場へは兵達を配備済みですので、心配なさらないでください」


「ええ、分かった。遠慮なくやらせてもらう。幻夢!」


 パームカフの中央の玉へと魔力を集中させ、玉の中から出現した剣の柄を握って一気に引き抜いた。

 幻夢を引き抜くと、抑えられていた魔力が私の全身から煙のように噴き出す。


「この魔力は、陛下と同じ?」


「カルスト行って」


 目を見開いて唖然と呟くカルストの肩を叩き、ホールから出るように促す。

 彼の後ろ姿が扉の外へと消えたのを確認して、私は暗黒竜へ幻夢の切っ先を向けた。



「さぁ起きてください。父上!」


 言葉に魔力を乗せて、繭の中で眠る暗黒竜へぶつける。

 ぶつけた魔力は渦を巻き、繭を左右に激しく揺すぶった。

 竜巻状の魔力は繭へと吸収され、眠る暗黒竜へと流れ込んでいく。


 竜の気配が色濃い魔力が供給され、暗黒竜の長い鉤爪がピクリと動いた。



《......ぐ......何奴だ......我を起こす者は......この魔力は......》


 繭の中でうっすらと目蓋を開いた暗黒竜の瞳は、11歳の時に見た鮮血と似た真紅色。

 発せられた地の底から響くような低い声により、ホール中の空気がビリビリ振動した。

 竦み上がりそうになる体を叱咤し、私は両足を踏ん張って暗黒竜の目前へと立つ。


「国王陛下、お久し振りでございます。ラクジットです」


 チャキッ、右手で持つ幻夢の刀身へ魔力を流し込む。


「貴方を叩き起こしに参りました。だから、」


 魔力を帯びて輝きを増した幻夢を両手で握り直し、野球のバットをかまえるみたいに大きく振りかぶった。


「さっさと起きてください!」


 バキィ......ィン!


 幻夢から放たれた衝撃波が繭にぶつかり、暗黒竜を抱き込んでいた繭が赤紫色の魔力に包まれて、ほどけるように繭と蔦は崩壊していく。


《ぐあああぁ!!》


 咆哮を上げた暗黒竜が腕を伸ばし、赤紫色の魔力は掻き消されてしまった。

腕と尻尾を振り回し、ほとんど崩れた繭を引き千切りながら暗黒竜が這い出てくる。


 ズドンッ!


 繭から解放された巨体が床へ降り立つと、グラグラと床が揺れた。

 黒光りする鱗に覆われた巨体は、全身10メートル以上はあるだろうか。

 爬虫類じみた縦長の瞳孔がある真紅の瞳で私を見下ろし、暗黒竜は鋭い牙の生えた口を開いた。


《ラクジット、ラクジット......覚えている。次の贄となる我が娘か。我とよく似た魔力を持つとは、良い贄、器になりそうだな》


 にぃーと細められた瞳には、冬眠から覚めた解放感と私を弄ぼうとする嗜虐的な喜びに満ちていて、背筋が寒くなった。


 正直、気持ち悪いし恐い。

 けれども、滋養強壮剤代わりに喰われたくも無いし、体を乗っ取られて好き勝手されるのも御免だ。

 私の行動には国の為にとかいう大義名分もないし、宰相達の為に彼の計略に積極的に乗り国王に弓を引きたいのではない。


「私は贄にはなりませんよ。寝起きの父上には悪いですけど、足掻いてみせますから!」


 無念の思いの中、死を迎えた前世。

 せっかく転生出来たのだから、今世こそは長生きをしたいし好きな人と結婚して、今度こそ愛する我が子を抱き締めたい。

 その未来の為に、私は生き延びるのだ。


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