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ラスボスの生け贄へ転生した私が足掻く話  作者: えっちゃん
4章 生き延びるための戦い
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06.生誕祭当日

「わあああああ!」


「アレクシス王子、おめでとうございます!」


「万歳! 万歳―!」


 人々が上げる歓声は、まるで祝砲のように王都中にあふれていた。


 その歓声の向かう先は、宮廷のテラスから姿を表したアレクシス王子。

 軍服の正装を着て青いマントを羽織り、銀髪を後ろへ撫で付けた彼は実年齢より凛々しく、物語の正統派王子の顔で群衆の前に立っていた。

 王子の背後には騎士の正装を身に纏った三人の黒騎士が並ぶ。



「凄い人......」


 次期国王であるアレクシス王子の姿を見るために集まった群衆の多さに、私は感嘆の息を吐いた。


 立場は前国王の息子だが、表向き病弱な現国王の代理として政務を行っている王子の生誕祭。

 今日だけは、宮廷前の広場が一般人に解放されているのだ。

 入り口で入念な持ち物検査を受けて、武器の不所持を確認された一般人の入場が許される特別な日。

 王都の全ての店は今日一日は完全休業日とさせ、各地区にある広場では王城から派遣された調理人が、パンと酒、ローストした肉や焼き菓子を市民へと提供していた。

 祭りで使用される材料や費用は宮廷からすべて支給されるとなれば、王都中はお祭り騒ぎになるのは当然で、民達は「慈悲深い陛下と殿下のおかげで祭りを楽しめる」と歌や躍りをして楽しんでいるという。


 テラスの脇から白いドレスを着た幼い少女達が現れ、広場に集った人々から歓声が上がる。

 少女達は、小さな手に持った藤製の籠から色とりどりの花びらを周りへ撒き散らしながら、妖精のように可愛らしく踊り微笑む。

 まるで映画のワンシーンを見ているような気分で、私は重たいカーテンの隙間からテラスに立つアレクシスをこっそり見詰めていた。


 “アレクシス王子の婚約者候補”と正式に発表されていない私は、彼の隣に立つことや公の場所には姿を現すことは出来ない。

 輝く王子様スマイルを振り撒くアレクシスは見知らぬ王子様に見えて、私は眉尻を下げる。


 王子に双子の妹がいるのを知っているのは限られた者だけ。

 隠された存在でなければ、アレクシスの横に立ち、王女として民から誕生日を祝福されていたのだろうか。

 離宮で大人しくしているのも何だか寂しくて、「式典を見てみたい」と我が儘を言った結果が、カーテン越しの観察だった。

 落ち込むだろうと分かっていたのに、自分が惨めで可哀想だと悲劇のヒロインぶった思いを抱いてしまうなら、離宮で過ごしていた方が良かったかもしれない。


 つい俯いてしまった私は、視界に入った黒色に気付いて目を大きく開けた。

 一瞬、ほんの一瞬だけアレクシス王子の後ろを固める黒騎士達、端に立つヴァルンレッドが動いた気がしたのだ。


 一歩下がったヴァルンレッドは、私が姿を隠しているカーテンが引かれた窓へ視線を向けた。

 黒い騎士装束をきっちり着込んだヴァルンレッドは無表情なまま。

 しかし、僅かに唇を笑みの形にして此方を見ていた気がして......私は潤む目元に力を入れてぎゅっと唇を噛み締めた。




「姫様、そろそろお時間でございます」


 侍女に声をかけられ、振り向く前に素早く目元を拭う。

 深窓の令嬢という仮面を貼り付けた私は、歓声が止まない窓辺を一度だけ振り返る。



「此方へ」


 侍女に促されて廊下へ出て、連れられた先は王宮に用意された客間だった。

 部屋の周囲の気配を確認してから侍女は慎重に扉を開ける。

 私が室内へ入り扉を閉めたと同時に、侍女は防音と遮蔽の結界を展開した。


 一人掛けソファーに腰掛けていた人物は立ち上がると、私へ向けて自身の胸に手を当てて臣下の礼をとる。


「王女殿下。ご足労をありがとうございます」


 私が王女と知り、人の良さそうな笑みを向けてくるのは、この国の宰相カルストだった。




 ***




 遡ること数時間前。


 王宮に漂う生誕祭当日の慌ただしい雰囲気とは無縁の離宮へ、とある訪問者が訪れた。

 侍女が下がったタイミングで現れ、侍従を一人だけ連れた訪問者は、何も喋らず長いローブを羽織り頭と顔を隠すフードを被っており、その怪しさに不審者ではないかと私は身構えた。


「お静かに。王女様が騒いだら我等が侵入したのを感付かれてしまいます」


「貴方は......」


 私が黙ったのを確認してから訪問者は被っていたフードを外した。

 茶色の短髪をオールバックにした渋味と貫禄を備えた壮年男性。

 穏やかな表情とは真逆の眼光の鋭さから、彼が只者ではないことは分かる。


「お初にお目にかかります。宰相を任されております、カルストと申します」


 一礼したカルストは、私を上から下まで眺めて茶色の目を細めた。


「ご立派になられましたね、ラクジット王女殿下」


「何故......?」


 つい聞き返してしまった。

 宰相の立場で私のことは知っていたとは思うが、彼の言葉と瞳には慈しみの感情が混じっていたからだ。


「アレクシス王子と貴女が誕生された時より、立場上手を差し伸べることは出来ませんでしたが、陰ながら成長を見守っていました。もう少し早くお訪ねしたかったのですが、すぐに動けず今となってしまいました。申し訳ありません。......この度は、ラクジット王女様に御願いしたいことがあり此方へ参りました」


 カルストからの“御願い”に、私は唇に手を当てて考えてしまった。

 彼の言う事は、実現可能なのだろうか。



「......それが、アレクシスの為になると?」


「アレクシス王子、そして貴女の為、イシュバーンの為となります。ラクジット様は国王陛下について......全てご存知ですね」


「はい」


 頷いた私の目を見詰め、カルストは 徐に口を開く。


「三百年もの間、陛下は肉体の器を替え存在し続けました。本来の陛下は竜の荒い気性とは相容れないくらいのお優しい方でした。そのため、竜王と化した時より、陛下の精神は狂っていってしまった。色濃い竜王の血を持つアレクシス王子の体を手に入れてしまったら、貴女の力の取り込んでしまったら、陛下は狂気と破壊衝動のまま全てを破壊し尽くす暗黒竜と化すでしょう。あの方がこれ以上堕ちていくのを見たくありませんし、私はこの国と民を守りたいのです。是非とも私に御協力していただけませんか。ラクジット王女様の御身は、我等が御護りいたします」


 国王に対する裏切りともとられる計画を話すカルストは真剣で、私を騙すために偽りを言っているようには見えなかった。


「それは、黒騎士達も納得しているのですか?」


「ヴァルンレッドとダリルは私の良き協力者です。リズリスは陛下を盲信していますから、この事は知りません。リズリスと一部の老害共は、計画を知れば阻止しようと動くでしょうが、そちらはヴァルンレッドとダリルが抑えるでしょう」


 成る程。ヴァルンレッドとダリルが協力しているのなら、カルストがリズリスの張った結界に邪魔されず離宮へ入れたのか。

 先日、ヴァルが離宮へ侵入したのは、カルストのためでもあったのだろう。

 それでも私は彼に問うてしまった。


「貴方達は、それでいいのですか?」


 国王が倒れたら、魂の忠誠を誓ったカルストも黒騎士達と同じく滅びるのではないか。

 私の言いたいことを理解したらしいカルストは、真剣な表情を崩して柔らかな笑みを浮かべた。


「アレクシス王子とラクジット王女、御二人が誕生された時より我々は変革を望み動き出してきたのです。陛下に忠誠を誓った我等は、人の理から外れ長く生きすぎました。この国の為に、三百年間止まったままの時を動かさなければなりません。残念ながら人ではそれは為し得ない。ラクジット様、よろしいですね?」


 穏やかな口調ながら、断ることは許さないと言外に滲ませられ、私はカルストが持ち掛けた計画を了承するしかなかった。


次話は急展開、になります。

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