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01.注目株の冒険者

前話から二年半程時間が経過しました。

 エディオン国、国境の防衛の要となっていた砦がゴブリンの盗賊団に襲撃されたのは、もう五年前の事。


 たかがゴブリン、すぐに制圧して砦を取り返せる。そう高を括ったドルマン辺境伯は、私兵を砦へ送り込んだ。

 しかし、数日後、辺境伯が知らされたのは送り込んだ私兵が全滅したという知らせだった。

 盗賊団の頭は高レベルの魔法を繰り出す、ボブゴブリンだったのだ。

 その後、幾度と無く砦の奪回と盗賊団の殲滅のため領主は私兵を送り込むも失敗に終わる。

 冒険者ギルドの力を借りるも、冒険達もまさか盗賊団の頭が魔力吸収魔法の使い手で、手下のゴブリンに強化魔法をかけて戦闘を行うとは思わず、何人もの冒険者達が命を失った。

 難攻不落の盗賊砦の攻略は、今や難易度Aに近いBとなっていた。




「えっ、嘘、攻略したの!?」


 茶色の巻き髪と濃い化粧、胸元の空いたワンピースという派手な外見をした受付嬢は、目の前に立つ若い冒険者が持ってきたボスゴブリンを倒した証拠を確認して、濃いアイシャドウに彩られた目を丸くした。


 興奮を抑えつつ、証拠の品を念写で作られた照会資料と鑑定魔法を照らし合わせる。

 確かに、砦の奥で司令官の椅子に座ってふんぞり返っていたボスゴブリンの身に付けていた装飾品、砦の司令官が愛用していた名前入りの短剣、倒された魔術師の身に付けていた魔法の指輪に間違いない。


「本当にあの盗賊砦を3日で攻略しちまうとはなぁ」


 腕を組んでやり取りを見ていた金髪を短く刈り込んでタンクトップにハーフパンツという、如何にもファイターという筋骨粒々のギルドマスターの男性は、感嘆の声を漏らした。


「流石、陽光のお嬢と氷の王子だな」


 ギルドマスターから陽光のお嬢と評されたらしい私、ことラクジットはプッと笑う。


「何それ?」


 相方であるカイルハルトは、薄い金髪にアイスブルーの瞳を持った美少年。

 例え、某冒険ゲームの旅人の服みたいな簡素な装備でも、この一年で随分背も伸びて大人びてきたし生まれもった気品もあって氷の王子と評されても納得するが、ギルドマスターの目には私は太陽の様に光輝いて見えているのか。


「お前さん達のギルド内での愛称だよ」


 がはははっ、腕組みしながら豪快に笑うギルドマスターの笑い声がギルド一階の酒場に響く。

 派手な受付嬢も「そうそう」と頷いた。


「二年前突然現れた、どんな高難度依頼も引き受け、必ず達成させる可愛らしい少年少女だもんね」


「お前たちは瞬く間に冒険者ランクを上げていって、もうじきBランクになるだろ?」


 近くで酒を飲んでいた赤銅色の胸当てを纏った戦士が、グラス片手に上機嫌で会話に加わる。


「有名冒険者パーティーの引き抜きにも全く靡かないし、今やお前さん達はギルド一の働き頭だよ。この前なんか辺境伯の使いを氷の王子は追い払ったし、今やこのギルドの注目株なんだよ」


「カイル? 追い払ったの?」


 辺境伯の使いが訪ねてきただなんて知らなかった。

 隣に並ぶカイルハルトを見上げてみても、彼はそ知らぬ顔で僅かに眉を動かすのみ。


「今の辺境伯は若くてイイ男って聞くわ。気に入られるかもしれないチャンスだったのに、勿体無いわねぇ」


 心底そう思っているらしい受付嬢に、私は苦笑いを返す。


「私達が冒険者をしているのは修行のためだからね。何れ、実家に戻らなきゃならないもの。辺境伯の御抱えにはなれないよ」


「えー!? 何れラクジュちゃんはいなくなっちゃうのか? 俺の癒しなのになぁ」


 言い切る前に勢い良くグラスをギルドマスターへ押し付けた戦士は、がばっと筋肉質の両腕を開き私に抱き付こうとした。


「ラクジュちゃーっ!?」


 戦士が抱き締める直前、彼は笑顔を貼り付けたままの表情で後方へと吹っ飛んだ。


 ドカッバキィッ!


 派手な音を立てて吹っ飛んだ戦士はテーブルと椅子を薙ぎ倒し、そのまま仰向けに昏倒する。

 戦士の左肩を掴む前に、後頭部へ手刀の一撃を落とし後方へ投げ飛ばすという、やり過ぎな攻撃をしたカイルハルトへ私は困惑混じりで見てしまった。

 自分で対処出来たのに。最近の彼は、思春期男子のせいか口数は少ないのに過保護な気がする。


「......報酬を受け取って帰るぞ」


「カイル、やり過ぎだよ」


「あれくらいじゃ死なないだろ」


 昏倒している戦士を周りに居る仲間達は面白がって小突く。中には軽く蹴っている男もいる。

 ギルドマスター曰く、王都のお上品なギルドより治安が悪いミンシアのギルドには、下品で豪快な冒険者が多いらしい。

 カイルハルトが吹き飛ばした程度では、日常茶飯事な事で揉め事にも入らないという。


「王子っていうよりはお姫様を護る騎士みたいだなぁ。ラクジュちゃんに求婚まがいな告白した奴も沈められていたし。カイルは騎士より番犬か?」


 がはがは笑うギルドマスターにバンバン背中を叩かれたカイルハルトは、殺気を込めた瞳で冷たく睨む。


「ああっと、悪い悪い」


 流石ギルドマスター、低レベルの者は身がすくむくらい強烈なカイルハルトの殺気を軽く受け流す。



「無愛想でごめんなさい」


 ギルドマスターに頭を下げて、私は受付嬢から報酬金を受け取った。

 硬貨がいっぱい入った重たい麻の袋を手にして、メリッサへのお土産に何を買おうかと私は考えを巡らす。


「ラクジットはもう少し......自覚してくれ」


「うーん? 何を?」


 受け取った報酬金を上着の内ポケットへしまったカイルハルトは、私を見下ろして残念な物を見る様に溜め息を吐いた。



 ギルドから出ると、吹き抜けた乾燥した風によって肩上で切り揃えたで黒髪が舞う。

 魔道具で魔力を抑え、染色した黒髪にはもう慣れてしまった。

 隣を歩くカイルハルトの手が、乱れた私の髪を手櫛で整える。


 私より半年早い誕生日のカイルハルトは、もう15歳。

 出会った頃は同じくらいだった身長はとっくに追い抜かされ、横に並ばれると彼の顔を見るためには首を傾けて見上げなければならない。


 二年前からギルドに冒険者として登録し、私とカイルハルトは魔物退治を請け負っている。

 冒険者として実戦経験を積むように指示を出したのは、鬼教官ことエルネスト。

 何だかんだ言っても甘いヴァルとメリッサは大反対したが、結局は力を付けたいという私の意思を二人は尊重してくれたのだ。

 ギルドからの高難度の依頼をあえて受けている内に、いつの間にか冒険者のランクは上がっていただけ。

 あくまでも責任感や報酬金のために依頼を受けているのではなく、力試しのつもりだった。注目株と言われても、ヴァルとエルネストより強い魔物が存在しないだけで、改めてヴァルとエルネストの強さは規格外なんだと実感した。


 私が与えられた自由は15歳の誕生日まで。

 以前は必死だったけれど、このまま冒険者として生活していけば何とかなるんじゃないか。

 なんて、今の私は楽天的に思ってしまっていた。


ギルドの一階が酒場なのは、某冒険ゲームのるいーださんの酒場から。

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