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ラスボスの生け贄へ転生した私が足掻く話  作者: えっちゃん
2章 足掻いてみせます
27/99

17.誕生日プレゼント

もう12歳になります。

 雲一つ無い晴天の下、芝生に敷いた敷布の上で寝間着姿の私は足を伸ばして座る。


 暖かな陽気の、頬を撫でる風が心地よくて目を細めて自然と笑みを浮かべた。


 寝間着姿の上に、素足を晒すだなんて現実世界だったらメリッサかヴァルに叱れていただろう。

 だが、此処は現実ではなく夢の中、精神干渉魔法で繋げた意識の世界。咎める者は誰も居ない。


 私の隣に胡座をかいて座るのは、同じく寝間着姿のアレクシス。

 双子の利点、よく似た波長を繋げて二人だけの精神世界を作り出し、私達は互いの近況報告をしていた。



「カイルハルト?」


 私からの報告に、アレクシスはキョトンと聞き返す。

 自分とよく似た顔立ちなのに、男の子のアレクシスが可愛く見えて私は内心悶えてしまう。


「この世界と似たゲーム、“恋と駆け引きの方程式~魔術師女子高生~”学園編でのラスボスで、トルメニア帝国の第一皇子でもあるんだ」


「帝国の第一皇子って、病気療養中とか言われてる? ラスボス? カイルハルトって確か......妹が「氷の皇子様っ」って叫んでいたような......ラクジットの側に男がいるの? よくヴァルンレッドが許したね」


 困惑した表情を浮かべたアレクシスはうーん、と唸る。


「カイルとは偶然立ち寄った町で出会ってね。放っておけなかったって言うか、気にしていたらヴァルが鍛えるって連れてきてくれたの。ラスボス戦でのカイルハルトは強かったし、陛下と一緒に戦う味方は多い方がいいかと思って旅の仲間になって貰ったのだけど......」


 話しながら、私の視線は下を向き眉尻も下がっていく。


「最近のカイルはまともに顔を合わせて話してくれないし、急に話し掛けると慌て出すし、すぐに目も逸らされるし......私の都合に付き合わせられてもう嫌になっちゃったのかな? そりゃそうだよね、ゲーム沿いなら近い将来反乱を起こす皇子様が自分の復讐を果たせないとか、ヴァルからイジメに近い鍛練をされるとか、不満だよね。カイルハルトとして、自由になりたいのかなぁ」


 出会いから数ヶ月、可愛い弟、幼馴染みみたいに思えてきたカイルハルトは、実は自分の存在を疎ましいと感じているのかもしれない。

 自分で言ってみて、ちょっと悲しくなる。


「嫌になったというか、気になる女の子に戸惑う思春期男子の正常な反応じゃないかな?」


「そうなの?」


 俯いていた顔を上げると、苦笑するアレクシスと視線が合った。


「ラクジットって自分のことには鈍いよな。明らかにカイルハルトは......ってこと、だろ?」


「ん? なーに?」


 クッキーをもごもご咀嚼していた私の耳には、アレクシスの言葉は最後まで入ってこず、何?と首を傾げる。


「あー、何でもないよ。しかし、エルネストってどっかで聞いたことがある名前なんだよなぁ。どこでだっけか?」


 腕組みをしたアレクシスは、ぽいっとクッキーを口の中へと放り込む。


「そうだ、ヴァルは元気? 他の黒騎士達と仲良くやってる?」


「仲良く、ではないな。嫌味を言ったリズリスとは一触即発になってたし。明らかに不機嫌な顔でいるものだから、周りの者達は怖がっちゃって近付けないみたいよ」


 アレクシスが王宮内で見知っているヴァルンレッドの様子は、貼り付けた無表情の鉄仮面は動かず冷静沈着な態度のままの黒騎士。

 だが、時折隠しきれない苛立ちを放ち舌打ちをするものだから、ヴァルンレッドの部下達を震え上がらせていた。


 アレクシス第一王子の生誕祝賀会出席は黒騎士の責務だと割り切ってはいても、ヴァルンレッドは“ヴァル”としてラクジットの傍へ早く戻りたいのだろう。

 鉄仮面の表情は変化に乏しく分かりにくいが、アレクシスの側仕えの黒騎士ダリルは苛立つヴァルンレッドの様子を面白半分気持ち悪がっていた。

 ここまで溺愛され、執着されているのに気付かない鈍い双子の片割れの今後と、巻き込まれたカイルハルト皇子が心配になる。


 それに、ラクジットが隠された立場で無ければ王女として臣下や国民達から祝われ、美しく着飾った姿で自分の隣に並んだのに。

 やるせない気持ちになって、肩までの長さに切り揃えられた銀髪へアレクシスは指を伸ばす。

 同じ色なのに、自分より細くサラサラとした銀糸は、指の間を簡単にすり抜けていった。





「ヴァルとリズリスって仲悪いんだね。......あっ」


 懐中時計の針が12を指しているのに気付き、勢いよく私の髪を弄るアレクシスの手を握った。


 日付が変わった今日は彼と私の特別な日なのだ。


「はっぴばーすでー♪ とぅゆー♪ はっぴばーすでー自分~♪」


「「12歳の誕生日おめでとう!」」


 両手を握りながら向き合った私達はにっこりと笑い合った。


 いつか、夢の中ではなく現実世界で祝えるようになればいいのに。




 ***




 シャランッ


 鏡を見ながら、頭をぐるっと一周させた輝きを抑えた銀色の鎖を触れると、鎖はシャラシャラ金属音をたてる。


 銀髪でも今の色でも、この魔道具は控え目で目立たない。細い鎖に施された然り気無い細工から、エルネストのセンスの良さが分かる。

 見目麗しく実力もあり魔道具も作れるエルネスト、これで性格も良ければ完璧で極上な男なのに。


(エルネストって、ヴァルと並んでも遜色無い美形で強いし魔力だけならヴァル以上だろうな。意地悪な鬼畜エルフじゃなきゃ惚れてたかもな~。いや......この世界の美形って癖がありすぎて惚れるとか無理だわ。鬼畜エルフと鬼畜暗黒竜は対象外だな。死亡フラグしか思い浮かばない)


 溜め息を吐いた時、鏡越しに鬼畜エルフことエルネストの姿が見えて、心の声が聞こえてしまったのかと私はびくっと肩を揺らした。


 動揺して引きつりかけているが、何とか笑みを形作ってなるべく平静を装り振り向く。


「ほぉ、その色にしたのか」


 上から下まで私を見下ろしてから、エルネストは意味深に呟いて口の端を吊り上げる。


「金髪や茶髪は私らしくないし、この色が自分の中で一番しっくりくるんだよ」


 頭を軽く振ると魔道具の力によって色を変えた“黒髪”がフワリと揺れる。


 銀髪は黒髪へ、瞳は蒼色から焦げ茶色へと変化させていた。

 日本人だった前世を思い出した私には、黒髪と黒に近い瞳の色は懐かしく親しみあるものだからだ。


「素敵な誕生日プレゼントをありがとう」


 これで、町へ行くのにも人目を気を使わないですむ。

 素直に感謝を伝えれば、エルネストの大きな手のひらが頭を一撫でした。


「戻ってきたヴァルンレッドがどんな顔をするか......ふっ見ものだな」


「何で?」


 まさか、ヴァルは黒髪を嫌がるのだろうか。

 不安になりエルネストに訊いても、大丈夫だ、と軽く流されるものだから少しだけ気持ちが落ち込んでしまった。






「ヴァル! お帰りなさい!」


 扉を開けて玄関ホールへ入ったヴァルは、出迎えの声に顔を上げてから......動きを止めた。


 何時も冷静で、あまり感情を表さない藍色の瞳が大きく見開かれる。


「ラクジット、さま?」


 ぽかんと、口を半開きにしたままのヴァルの表情を見た私は、にんまりと満面の笑みを浮かべた。


「見て見て、エルネストが色を変える魔道具を作ってくれたの」


 三歩ヴァルの方へ歩いて、彼との距離をほぼ0にする。

 固まるヴァルを見上げて微笑んでから、自分の髪に指を絡めた。


「髪の色はね黒にしてみたんだ。ヴァルとお揃いになったね」


 一瞬、驚いたようにハッとした後、ヴァルは片手で自分の顔を覆った。


「貴女という方は......」


 甘さを含んだような溜め息に似た息を吐いて、ゆっくりと顔を覆う手のひらを外す。

 目元をほんのりと赤く染めて、熱のこもった藍色の瞳が私を見詰める。

 ゆっくりと膝を折り、跪くヴァルに私の胸は高鳴ってしまった。


「お誕生日おめでとうございます。私の可愛い姫君」


 物語のお姫様にするみたいに恭しく私の手を取り、そっとヴァルは手の甲へと口付けを落とす。


 いきなりの甘い展開に、ついていけなくなった私の脳内は沸騰寸前になり、頬がボフンッと音をたてて真っ赤に染まった。


一方その頃...

隠れて二人のやり取りを見ていたエルネストは「このロリコン、何て顔してやがる」と笑いを堪えてプルプルしていて、エルネストに道連れにされてやり取りを見たカイルハルトも、見たことがないヴァルンレッドのデレデレ姿に「うわぁ」と引いていたとかいないとか。


次から三章になります。

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