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ラスボスの生け贄へ転生した私が足掻く話  作者: えっちゃん
2章 足掻いてみせます
23/99

13.認められたらしい

 鬼コーチことエルネストからしごかれる、もとい、鍛練を始めて早くも三ヶ月が経った。


 以前より体力はついたし中級魔法まで覚えた。剣を振るう姿は多少様になってきたと自分では思っているのに、悲しいかなエルネストに全く歯が立たない。

 ファンタジーゲームでは、エルフって魔法に長けていても、体力武力は程ほどじゃないのか?とゲーム製作者に問い詰めたくなるくらい強く、何度も私は悔し涙を流していた。


 朝から夕刻まで森の中で剣技と魔法の練習をして、屋敷へ戻る頃には魔力を使いきってフラフラ状態、身体中痣だらけの切り傷だらけ。

 夕食後はカイルハルトと一緒に、魔力理論や薬学、兵法などの座学を習う。


 イシュバーン王国の離宮で、ヴァルとメリッサに守られてのほほんと暮らしていた半年前が、遠い昔の事みたいに感じる。




(今日こそは、一泡ふかしてやりたい)


 今日も朝から始まった鍛練という名のしごき。

 私ばかり息を切らしていて、エルネストは余裕の笑みを浮かべゆったりと片手で剣を構えた。


 昨日剣を交えた時と同じ構えなのに、私が何かをやらかす気でいると気付いたらしく、彼の身に纏う雰囲気が全く異なる。


 余裕綽々な笑みが苛々するが、洗練された構えには全く打ち込む隙がなくて、私は内心舌打ちした。

 どこから攻撃を仕掛けたとしても反撃は避けられない。


 エルネストは、黒騎士になる前のヴァルンレッドと一緒に冒険していた仲間だと、以前話していた。

 エルフだし300年以上は生きているだろう彼と、いくら竜王の血を継いでいるとはいえ最近鍛え始めたばかり、一般人に毛が生えた程度の自分との差は明白で…こうなったら反撃は覚悟の上。



 覚悟を決めて、私は思いっきり地を蹴った。


 キィン!


 動きを読まれていたようで、初撃はあっさりかわされてしまう。


「くっ」


 エルネストからの斬撃を受け止める度に太刀を握る両手が痺れる。

 まともに受けていたら力で押し切られてしまうため、後退しながら何とか受け流す。


 一太刀目を何とかかわしても直ぐに二太刀目がやってくる。

 打ち合う度、確実に私の体には細かい傷が刻まれていく。


 それでも、彼が手加減していると感じて悔しくなる。

 イシュバーン王国アレクシス王子の片割れで、竜王の血を継いでいる私は魔力量が多くて、人族の同年齢の娘よりは多少身体能力が高くて頑丈。それだけだ。

 これがチートと言えるものかは分からない。


 関わる者達を魅了して、強制力によって都合の良い展開にするような、恋愛ゲームのヒロイン補正など私には無いもの。



「くくくっこんなものか? これでは何時までも私には勝てない」


「絶対に負けない!」


 声を張り上げれば、エルネストの嘲笑が深くなる。

 完全に面白がっている様子に、かっと頭に血が上った。

 悔しい。

 でも、普通に戦っていたら絶対に勝てない。


(やってやろうじゃない!)


 剣の柄を強く握り、ぎりっと奥歯を噛み締めた。



 一太刀目を刀身で受けながらエルネストに近付く、二太刀目は…


 ざくり、皮膚を肉を切り裂く嫌な音がして血しぶきが上がる。



「何!?」


「ぐぅ! いぃっ」


 左手首を切り裂かれたことによる叫びたくなる程の激痛は下唇をきつく噛み、泣き叫ぶのを堪えた。

 ようやく出来た一瞬の隙、これを逃す訳にはいかない。


「たぁっ!」


 動きに反応されるより早く、私は手首を返して剣を振るう。


 ザッ


 エルネストが避けるより僅かに速い動きになり、剣の切っ先が左肩を掠める。


「なにっ!?」


 冷笑嘲笑以外に表情を動かさないんじゃないか、というくらい鍛練中は表情を変えなかったエルネストは、驚き目を見開く。


「やった! かすったぁー!」


 膝が震え足の踏ん張りがきかず、雑草で滑った私は尻餅を突いてしまった。


「肉を切らせて骨を断つ! 作戦成功っ」


 明るい口調で言いつつも、私は苦痛で顔を歪ませる。

 全身から脂汗が吹き出て、痛みで気を抜くと意識が飛びそうだ。

 左腕の傷は、かなり深いもので骨までザックリ斬れてる。

 切断を免れただけ上出来かもしれないが、私は出血だけでも止めようと傷を直接手で押さえて回復魔法をかけた。




「ふっ、くくくくっ」


 ラクジットの剣先が掠めた肩口を見て、エルネスト込み上げるままに笑う。

 浅い斬撃は服しか掠められなかったが、ここまで来るのにあと半年はかかると予測していたのに。


 どうにか傷の止血をしようと、回復魔法をかけているラクジットの姿に、エルネストは新しい玩具を見付けた子どもみたいに嬉しくなり笑う。

 正直、自分の片腕を犠牲にしてまで攻撃を仕掛けてきたラクジットに、意表をつかれたのだ。


「まったく、とんでもない娘だな」


 長命のエルフ故か、元々の性格からか、エルネストは他者に対して魔道具研究以上の興味を持てなかった。気紛れで冒険者として旅をしていた時に仲間になった者達以外は。

 ヴァルンレッドが連れてこなければ、イシュバーン王国の王女だというこの娘にも特に関わる気にもなれなかった。


 ただ境遇を悲観し、ヴァルンレッドの甘言に踊らされているまま、足掻いているだけだと思っていた姫君が、まさかここまでやってくれるとは感嘆してしまう。

 何て、面白い娘。



「だが、こんな戦い方をしたら死ぬぞ」


「知ってる! でもこれしか浮かばなかったの! エルネストの鼻っ柱をへし折ってやりたかったもの! どうだっ、」


 言いかけて疲労と出血から目眩がして、ぐらりと傾ぐ身体。


 とす......


 地に崩れ落ちそうになる私の体を、エルネストが片手で抱き止める。

 ポタポタと、腕の傷口から鮮血が流れ落ちた。


「痛ぅ......」


 回復魔法によって斬られた骨は繋がったけれど、皮膚と血管はまだ完全には治癒出来なかった。

 流れ落ちる腕からの出血が、地面を赤く染めていく。


 回復魔法をかけたのにこの出血量じゃあ、このままだと出血多量で倒れるかな、ぼんやりそんなことを思っていた私の腕をエルネストの大きな手のひらが傷口ごと握った。


「いっ......!?」


 あまりの痛みに、潤んでいた瞳から涙が零れ落ちた。


「......泣くな」


 頬を伝う涙を、エルネストは人差し指でそっと払う。


 鬼畜な男の意外な行動と、労るような指先の動きに、私は一瞬痛みを忘れて彼の翡翠色の瞳を見詰めてしまった。


 ふと、私から視線を外したエルネストは背後を振り向き口角を上げる。



「フンッ、血の臭いを嗅ぎ付けて、来たか」


 言い終わらないうちに、すぐ横の地面に転移陣の模様が浮かび上がる。



「ラクジット様!」


 青白い光が集束し、転移陣から現れた人物は苦痛を含んだ声を似た声を上げた。


「ヴァル?」


「やれやれ、過保護な保護者に見つかったか」


 クツリ、喉を鳴らして、エルネストは私の腕の傷に高レベルの回復魔法をかけていく。

 黄緑色の光が腕の傷を包み込み、斬り裂かれた血管や腱を繋げていく。同時に、痛みも和らいでいった。


 血の気の失せた私の顔色と、地面に出来た血溜まりで何があったのか、瞬時に判断したヴァルは視線だけで相手を殺せそうな、抜き身の刃を彷彿させる殺気をエルネストへ向けた。


「エルネスト......貴様......」


 強烈な殺気を放ちヴァルの手が腰の剣へと伸び、私は慌てて腕を掴むエルネストを振り払う。


「ち、違うよ。私が避けないで突っ込んだから、エルネストのせいじゃなくて、ケガは自業自得って、痛いぃ!」


 治癒途中で完全に塞がりきっていない腕の傷。

 眉間に皺を寄せたヴァルに手首を引っ張られた私は、傷がひきつる痛みに呻く。


「貴女は、どれだけ私を心配させるのですか......」


「ヴァルのばかぁ」


 引っ張られたせいで、傷口が二度開いてしまったじゃないか。

 情けないことに、ヴァルの顔を真っ直ぐ見てしまった私は堪えていた痛みと気の緩みから、うえーっ、と声を出して泣き出してしまった。


「......治しますから、じっとしていてくださいね」


 すぐにヴァルは回復魔法をかけてくれたけれど、ありがとうを伝える前に、私が行った捨て身の攻撃を知って溜め息を吐く彼と、その後ろで愉しそうにニヤニヤ笑うエルネストを涙目で睨んでしまった。


ヴァルはお母さん的存在で、安心感があるみたいです。

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