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ラスボスの生け贄へ転生した私が足掻く話  作者: えっちゃん
2章 足掻いてみせます
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12.各々の足掻き

 誰かに名前を呼ばれた気がして、顔を上げた私は「あれ?」と声を漏らした。


 エルネストの屋敷の与えられた部屋で眠ったはずなのに、ベッドではなくクリーム色の霧が立ち込める空間で、私は膝を抱えて座っていたのだ。


 クリーム色の霧以外は何も無い、四方全て真っ白な空間。


 着ているのは寝間着で裸足だし、寝ている間に連れて来られた?それともこれは夢?

 現実味が無い場所だから夢だと思うけれど、不思議と恐怖は無い。


 むしろ......此処は気持ちが落ち着く。



「......ジット」


 微かに誰かの声が聞こえて、私は目を凝らしてクリーム色の霧を見る。

 霧は、ぼんやりとしているけど、人の形に見えなくもない。


「ラクジッ......ト」


 今度は、ハッキリと声が聞こえた。

 聞き覚えのある声に、私は立ち上がって辺りを見渡す。


「アレクシス?」


 まだ声変わり途中の、幼さが残る少年の声。

 間違えようもない。これは、確かにアレクシスの声だ。


 目の前にあったクリーム色の霧が、一ヶ所に集まり人の形を形作る。


「やっと、繋がった」


 完全に人の形となった霧は、紛れもなく私の双子の片割れ、アレクシスで。

 光沢のある青いシルクの寝間着を着た彼は、嬉しそう頬をほんのり染めてニッコリ笑った。




 イシュバーン王国を出て約二ヶ月。


 成長期の少年だけあって、アレクシスは少しだけ引き締まった顔付きになっていて、私より大人びたように見えた。


「どうして此処に?あれ......」


 城に居るだろうアレクシスが現れたということは、此処は現実世界では無いのか。


「もしかして此処は、夢の中?」


「正解」


 悪戯が成功した子どもみたいに、アレクシスはニッと笑った。




 二人で密会していた離宮の庭園の端、敷いた敷布の上に私とアレクシスは並んで座る。


 再会した時に繋いで歩いた手は、完全に離すタイミングを逃してしまって、そのまま繋がれていた。

 夢の世界だから、状況と場面は好きに変えられるらしい。賑やかな場所より神秘的な場所よりも、私達は二人の秘密の場所を選んだ。



「わぁ!」


 ポンッと音をたてて、膝の上に思い描いた苺が乗ったショートケーキが出てきて、私は歓喜の声を上げた。

 前世で大好きだった、女の子がマスコットキャラのチェーン店のケーキが想像通りの形で出現してくれて、夢だと分かっていても懐かしさに涙が出てくる。


「このケーキ、懐かしいなー」


 前世は、ほぼ同じ時代を生きていたアレクシスも懐かしさに目を細めてケーキを頬張っていた。



「俺達は双子だから、精神感応魔法を使えば夢で繋がるかもって、何度か試していたんだ。今までヴァルンレッドが結界を張り巡らしていたから無理だったけど、急に違う結界になったからやっとラクジットと繋がった」


 やわらかく微笑むアレクシスに、私の胸がキュンッとなる。


 おかしい。自分とよく似た顔立ちなのに、彼の方が格好いい上に可愛く感じるだなんて。

 カイルハルトも同じくらい綺麗な少年だけど、彼の方が少年らしくて、アレクシスは中性的というか竜王の血を継いでいるからか、人外な美少年だと思う。

 さすが、幼くてもメインヒーロー。双子に生まれてなければ、年相応の精神年齢だったら惚れてしまったかもしれない。


「アレクシスは元気だった? そっちは大丈夫なの?」


 器となる彼は、危険な事はされないと分かっていても心配だった。

 私が逃げたせいで、彼は危ない目には合ってなかっただろうか。


「国王は“療養中”だからね。意識は時折覚醒しているけど、肉体が崩壊しないように眠っているんだよ。国王が動けない時は、代わりに公務をして官僚や軍部に信頼出来る人脈と体制を作っているところ」


「アレクシスが国王の代わり?」


 まだ幼いのに代理で国政に関わるとは、チート過ぎやしないか。


「ダリルや宰相に補佐してもらって何とかやっている。俺が全面に出て動いた方が、国王に体を乗っ取られてからは都合がいいみたいだから......周りも協力的だよ。俺達の今後を考えたら、味方は多い方がいいだろ」


 成る程、国王の正体を知っている側近中の側近としたら、有能な王子でいてくれた方が国王が体を乗っ取った時、周囲に違和感と不信感を抱かせない。

 それを逆手に取って、人脈や法令を整えているわけか。

 彼も生き延びるために必死だということだ。



「ラクジットは? 魔力が洗練されてきたね」


「私は......」


 アレクシスに比べたら、自分がやっていることが稚拙に感じてつい、彼から視線を逸らしてしまう。


「鬼教官にしごかれて、毎日ヘロヘロだよ」


 鬼畜な男の蔑んだ冷たい瞳を思い出して、私はブルリッと身震いした。




 ***




「おやおや、もう限界なのか?」


 無感情で冷酷な男の声に、私は腹が立ってきてキッ!と、彼を睨み付ける。

 周囲の木々の新緑と似た長い髪は、少しも乱れていないのが苛つく。


「まだまだいけるよっ!」


「威勢だけはいいようだが、もう疲労が足にきて立ち上がることも無理だろう。自分の限界を見極めるのも、退くのも、生き延びる術だぞ」


 両手で持った剣を支えに立ち上がろうとした私は、そのまま崩れ落ち派手な音を立てて顔から地面に倒れてしまった。


 倒れた拍子に、雑草で顔をざっと擦ってしまう。

 顔がひりひりするところをみると、擦過傷が出来てしまったのだろう。


 擦りむけた鼻と頬がジンジン痛くて、涙を浮かべて回復呪文を唱えるが集中力と魔力が足りないらしく発動しない。


「うーっ」


 魔法も剣も掠りもしないし、蔑んだ視線で見下ろされて悔しい。

 泣くもんか!と、私は涙が零れ落ちないように唇を噛み締める。


「泣いたところで、力が増すわけではない。不細工な顔は見苦しいだけだ」


 あっさりと私を下した男は鼻で嗤う。

 涙目で睨む私の側へ近づいて来る冷徹な男、エルネスト。


 見目麗しいエルフなのに、やたらと剣技に長けているし、エルフだからか魔力は飛び抜けている。

 彼が吐く辛辣な言葉は向かっ腹が立つし、ヴァルならこんなキツイ言葉は吐かないのに、と思ってしまいそうになる。

 でも、彼の言っていることはもっともなことなので、私は何も言い返せない。

 私を鍛えるのがヴァルだったら、きっと彼は情けをかけてしまうから鬼コーチはエルネストで良かったのだ。


 サラリとした翡翠色の髪が、泣きべそ顔の私の頬を撫でる。

 ほわっ、あたたかい黄緑色の光が私の擦りむけた鼻と頬を包んで傷を癒す。

 鬼畜な鬼コーチが回復魔法をかけてくれたのが意外で、私は内心首を傾げてしまった。



「ありがとう」


 戸惑い混じりでも素直に感謝を伝えれば、エルネストは綺麗な指を伸ばして親指と人差し指で私の顎を掴む。


「顔に傷をつけて戻ったらヴァルンレッドがうるさいからな」


 目が覚めるくらい綺麗な男に顎クイされている状況なのに、全くときめかないのは......鬼畜認定しているエルネストだからか。

 それとも、私を研究対象にしているような、異性、人扱いじゃなくモルモットを観察するような視線を向けるからか。


 感情が全く読めない硝子玉のような瞳に見下ろされ、固まっている私の腰へエルネストの腕が回される。


「わぁっ!?」


 理解する前に、私の視界は一気に高くなって体が反転する。

 何事かと横を向いて、真横にエルネストの横顔があったせいで、ビクッと体を揺らした。


「お前を担いで戻ったらヴァルンレッドがどんな顔をするか......くくくっ、見物だと思わないか?」


「思わない! おーろーせー!」


 肩に担がれたまま、私はジタバタ暴れてみるが腰に絡み付くエルネストの腕は外れてくれない。

 逆に腕の力が強くなっていき、ギリギリと腹部を圧迫するものだから私は危うく失神しかけた。


 しかし、屋敷へ戻った後の方が......ある意味修羅場だった......



 半泣きになった私を担いで戻ったエルネストに、ヴァルは問答無用で魔法剣をぶっぱなしたのだ。

 鬼畜なエルネストは、なんと私をヴァルの攻撃を防ぐ盾にしたものだから、本気で死ぬかと思った。


 直撃する寸前でエルネストが結界を張ったから助かったけど、私を攻撃してしまったと、ヴァルはかなり落ち込んでしまって、ちょっと可哀想だった。



「小娘一人で、ヴァルンレッドも変わるものだな」


 クツクツ笑うエルネストの表情は穏やかで、睨みつけてやろうと思っていたのに、私はつい彼を凝視してしまった。



エルネストは、完全にヒロインを研究対象として見ています。

鬼コーチ達にしごかれて、ヒロインとカイルハルトは日々ヘロヘロになっています。

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