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ラスボスの生け贄へ転生した私が足掻く話  作者: えっちゃん
2章 足掻いてみせます
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09.新しい仲間

 ボボンッ!


 空中に出現させた四本の光の矢は、魔力で作られた四つの的のうち二つの的の中心を貫いた。

 残りの二本矢は、二つの的のギリギリ外側をかすって地面に突き刺さる。


 マジックアローを四本出現させるのに集中し過ぎた私は、緊張感から解放された気の緩みから、がくりと地面に膝を突く。


 膝を突いた時に、舞い上がる砂埃でむせてしまい咳き込んだ。



 肩で息をする私の側まで歩み寄ったヴァルは、光の矢の的とした魔力の塊を腕を軽く振って掻き消した。


「集中力が足りない。魔力を練る時に余計な事は考えない事」


「う~」


 気持ちにムラがあるのは認めるが、ヴァルにハッキリ言われると少し落ち込む。


 しゃがんだまま頭を抱える私へ変態親父から救出した後、成り行きで数日前から一緒に行動をする事になった、カイルハルトが手を差し伸べた。


「イメージを頭の中で思い描けば簡単だよ」


「むぅ、イメージするのも簡単じゃないって」


 差し伸べられた手に掴まって立ち上がった私は、つい唇を尖らしてしまたった。


 トルメニア帝国第一皇子として生まれ育ったカイルハルトは、魔法も剣技も幼少時より一流の師から教授されていて、双方ともかなりの腕前だ。

 最近、魔法と剣術の練習を開始した私との差は歴然なのは当たり前。




「皆さま、そろそろ昼食にしましょう。ラクジット様、カイルハルト様、手伝ってくださいね」


 馬車の方からお玉片手に顔を出したメリッサに声をかけられ、私とカイルハルトは顔を見合わせた。


「「はーい」」


 揃った返事に、メリッサは嬉しそうに笑うと、煮込み料理中の鍋の側へと戻った。



 ラクジットに続いて、メリッサの方へ行こうとするカイルハルトの頭を大きな手のひらがガッシリ掴み、動きを停止させる。



「小僧」


 頭を鷲掴みする指には、力がこもっていきギリギリと握りつぶさんばかりに頭を締め上げる。


「はな、せ」


 どうにか頭を鷲掴みするヴァルの指を剥がそうと、カイルハルトは両手で手首を抑えるがビクともしない。


「お前はまだだ」


 カチャッ


 片手でカイルハルトの頭を鷲掴みにし、ヴァルのもう片方の手は腰に挿した剣の柄へと伸びる。


 形のよい唇を吊り上げたヴァルに見下ろされて、カイルハルトの顔色から一気に血の気が引いた。






 折り畳み簡易テーブルの上に、昼食のスープと干し肉、甘くないパンケーキを並べて待っていた私とメリッサは、やっと戻って来たヴァルとカイルハルトの姿を見てギョッとする。


 綺麗なカイルハルトの頬が真横にザックリ切られていて、「ひぃっ顔が!」と私は悲鳴を上げてしまった。

 頬だけでなく、両肩両腕に無数の切り傷を作った彼とヴァルは、一体何をやっていたのか。



「出血は止まったから......」


 刃物で切られてボロボロになった服の腕の部分は、血が滲んで悲惨な事になっていて。

 傷が痛むのだろう、カイルハルトは動く度に顔を歪めている。


「カイル、大丈夫? ちょっとヴァル! ご飯前にやり過ぎだ、よ」


「......回復魔法の練習に丁度良いでしょう?」


 冷笑を返すヴァルが怖すぎて、私の台詞は尻窄みになってしまう。


 まさかとは思うが......回復魔法の練習のために、わざとカイルハルトを傷だらけにしたのか。

 そんな馬鹿な、それだったら怖すぎる。


 頬を引きつらせた私は、一歩後退ってしまった。




 回復魔法特有の、淡い黄緑色の光がカイルハルトの傷だらけの腕を包み込む。


 淡い黄緑色の光が、切り刻まれた腕の細胞を活性化させていき、傷の回復を促していく。


「どう? 治った?」


 傷が全て塞がり、見た目は治ったように見えるカイルハルトの色白の腕を、私は指先で撫でる。


「ちょっ、擽ったい」


 顔を赤くして、身をよじって私の手から逃れたカイルハルトの腕を、今度は横から伸びてきた手ががしっと掴む。



「ギリギリ及第点、といったところでしょうかね」


 僅かに傷痕が赤く残った部位を、ヴァルの長い指が擦った。


「魔力量が少々多かったですよ。回復魔法でも、魔法量が多すぎれば回復どころか傷が悪化しますから。今のは傷が裂ける危険がありました」


「うう、ごめんね」


 下手したら大惨事、大変なことになっていたのか。

 早く昼食を食べたくて集中力を欠いていた私は、青ざめながらカイルハルトに謝り倒したのだった。




 ***




 草木が全く生えず、剥き出しの茶色い地肌と大きな岩が転がる荒れ野を馬車で走ること一週間。


 荒れ野に点在する小さな集落へ、食材購入のため二回寄った以外は馬車で過ごす生活と、ずっと続いている赤茶けた大地に飽きてきた頃、岩山に囲まれた黒く濁った沼地へと辿り着いた。


 透明度は全く無い濁った沼地なのに、ヘドロ臭や腐臭は全くしない、むしろ清らかな空気がするというちぐはぐな土地。



 御者台に座るヴァルが、後ろを振り向き「着きました」と微笑んだ。


 馬車から降りた私に、ヴァルは広がる沼地を指差す。


「私の友人の住み処はこの先です」


 指差す方には、濁った沼地しか見えない。


「沼しか無いよ?」


 人が住む建物など見受けられず、私は眉間に皺を寄せて沼を見る。まさか、沼の中に住んでいるわけではあるまい。


 馬型魔獣に水を飲ませていたカイルハルトが、メリッサと一緒に荷物を持ってやって来る。

 私の隣まで来たカイルハルトが何かに気付いて顔を上げた。


「結界が、ある?」


「結界?」


 目を細めて見ても、ただ沼地が広がっているように見える。

 残念ながら、私の目には結界とやらは全く分からない。

 私には見えないのにカイルハルトには見えるのは、悲しいかな実力の差なのか。


 どうにか結界が見えないものか。目を細めたり見開いたりと、一人百面相をしている私を見たヴァルは、クククッと肩を震わせて笑う。

 つられた様にカイルハルトも小刻みに肩を震わせた。


「ぷっくくっ、その通り。俗世との関わりは最小限にして、屋敷に引きこもり趣味に興じる変わり者ですよ」


「笑うこと無いじゃないっ」


 頬を膨らませる私の頭を、ヴァルの大きな手のひらが撫でる。


「ラクジット様、結界を解除しますからメリッサの側にいてくださいね」


「うん」


 唇を尖らせつつ頷いて、未だに笑っている失礼なカイルハルトを引っ張ってメリッサの側まで行く。


 

 側から私が離れたのを確認して、ヴァルは腰に挿した剣を抜き呪文詠唱と共に刀身に魔力を込め始めた。


 シャッ


 何らかの魔法を込めたのだろう、白い光を纏った刀身を真横に薙いだ。


 パキィーン!


 空間に張られていた結界がまるで薄い硝子が割れた様に、バラバラと破片になって沼に落ちていく。


 全ての破片が沼の中へと落ちた瞬間、辺り一面が白い強烈な光に包まれた。


「うわっ」


「ラクジット様っ」


 驚いた私は、ぎゅうっとメリッサの腰にしがみつく。



 たっぷり数十秒程経った後、メリッサの息を飲む音が聞こえ、私はゆるゆると閉じていた目蓋を開いた。



「凄い......」


 先程まで、沼地特有の湿った風が吹き抜けていた場所とは思えないくらい爽やかな空気、岩山に囲まれていた筈なのに草木が生えた森へと変わっていた。

 そして何より変化したのは、黒く濁った沼が清らかな透き通る水を湛えた湖となっていたのだ。


 湖の対岸に、ヴァルが言う変わり者の友人とやらの住み処であろう、白壁の屋敷が建っていた。


カイルハルトが仲間になりました。

因みに彼は、ラクジットと同い年です。

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