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ラスボスの生け贄へ転生した私が足掻く話  作者: えっちゃん
2章 足掻いてみせます
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07.黒い悪魔との契約

前半は、少年視点。後半はヴァル視点となります

 ランプの灯りが妖しく照らす、天蓋付きのキングサイズベッドしか置かれていない部屋で、ベッドに腰掛けた淡い金髪の少年は目の前の半裸の中年男を睨みつけていた。


 裸にガウンを羽織っただけの少年の色白の肌が、ランプの光に照らされている様はやけに艶めかしく見えて、奴隷商人から少年を買ったこの街を裏から支配している小肥りの男、ドン・パルマーは舌舐めずりをする。


「本当に運がいい。こんな美しい少年を手に入れられるとは」


 くくくっ、ドン・パルマーは厭らしい笑みを浮かべて肩を震わす。


「だが、目付きが気に入らないなぁ。これからお前を私好みに調教してやるよ。自ら「ご主人様お願いします」と、腰を揺らしてねだるようにな」


 抵抗をしたくとも、魔力封じの手枷をはめられた少年は何もできやしないだろう。


 助けを呼び泣き叫んだとしても、地下にあるこの部屋の前には警備兵を配置していて、誰も助けには来ない。

 鞭と性道具で白い肌を痛め付けて、媚薬でドロドロに蕩けさせてから快感を教え込む。

 生意気な少年が調教によって快楽に染まりよがる姿を想像して、ドン・パルマーは恍惚な表情で身震いした。


「この白い肌に赤い痕を残したら、堪らないだろうなぁ」


 厭らしい笑みを浮かべたまま、ドン・パルマーは肥えて浮腫んだ手を少年に伸ばした。


 バチイッ!


 強烈な電流が流れたような音が響き、伸ばした右の手のひらと右半身に強烈な痛みが走る。


「ぎゃあっ!?」


 悲鳴を上げたドン・パルマーの右手は焼け爛れ、白い煙が立ち上る。

 痛みと衝撃に、ドスンッと尻餅を突く。


 その隙を逃さず、少年はベッドから飛び下り、尻餅を突くドン・パルマーの脇をすり抜けた。


「ぐっ、はぁ! きっさま、なぜ、魔法を......まてっ誰か! 誰か!」


 尻餅を突いたままのたうち回るドン・パルマーに振り返る事無く、少年は足首に鎖を付けたまま扉へ向かって走った。



 バタンッ


 少年が手枷を付けられた両手をドアノブへと伸ばした時、扉が勢いよく開かれる。


「くそっ!」


 身構えた少年のアイスブルーの瞳が大きく見開かれた。


 警備兵とは異なる、異様な雰囲気を放つ黒尽くめの男が其処に立っていたからだ。


「ほぉ......」


 開け放った扉から室内へ入った男は、瞬時に状況を察して愉しそうに嗤う。


「魔力封じの手枷をはめられているのに抵抗したか。くくくっ面白い」


 男の放つ圧倒的な魔力に、気圧されてしまった少年の膝がガクガクと震える。



「おいっ! さっさとコイツを捕らえぬかっ!?」


 尻餅を突いたからか腰が抜けてしまったらしい、ドン・パルマーは尻で這いずりながら黒尽くめの男へ近付く。


 黒尽くめの男は、近付くドン・パルマーに侮蔑の眼差しで見下ろすと、片手に持つ抜き身の剣を素早く振るった。


「がぁっ!?」


 丁度、中心から真っ二つに割られたドン・パルマーの体は、どしゃっどしゃっと嫌な音をたてて床へ倒れた。


 少年の体にも飛び散った脂と血液が降りかかる。

 同時に、震えていた膝が限界となり少年はガクリッと床に膝を突いた。


「気色悪い。私に近付くな」


 吐き捨てるように男が言えば、ドン・パルマーの肉体は斬り口から真っ黒に炭化していき、ボロボロと崩れ落ちていく。



(魔剣だ。コイツは、魔剣使い......否、悪魔か。俺はこんな所で、まだ、死ねないのに)


 どうにか立ち上がろうと少年は脚に力を込めるが、魔力封じの手枷を付けられたまま魔法を無理矢理発動した反動から、身体中の筋肉から力が抜けてしまい動けない。

 途切れそうになる意識は、下唇を噛んで何とか引き留める。



「小僧、生きたいか?」


 少年の首筋に、男の持つ剣の鋭い切っ先が触れる。


「俺は、死ねない。あの女に復讐するまでは」


 吐き出した台詞は紛れもない少年の本心。


 意識を保つために噛んでいた下唇は、力が入りすぎて噛み切ってしまい血が滲んでいた。


「ならば、此処から連れ出してやる」


 黒尽くめの男は満足そうに口の端を吊り上げ、少年の首筋から剣を退ける。


「小僧、復讐するための力を、戦い方を貴様に教えてやろう。その対価は......私の主を守ることだ」


「何、だと?」


 思いがけない対価に、少年の瞳が大きく見開かれる。


「小僧、貴様の命は私が握っていると覚えておけ」


 この黒尽くめの男は、本当に悪魔なのかもしれない。


 それでも、母親も、約束されていた地位も、全てを失った自分の願いが叶うのならば、命を懸けた契約を悪魔と結ぶのも悪くはない。

 命以外を奪われた自分には、失うものなど無いのだから。


 微かに頷いた少年の意識は限界を迎え、ぐらりっと傾ぐ体を支えることは出来ずに意識を失った。




 ***




 この変化に気付いたのは、いつからだろうか。


「ヴァル」


 蒼色の瞳が真っ直ぐに見上げてくるのが、くしゃりと笑った頬にえくぼが出来るのが堪らなく可愛らしい。

 私の姿を見つけ、満面の笑みを浮かべて走って来る様は、そのまま抱き付かれると愛しくて堪らなくなる。


 多くの命を葬り、罪を抱えた私が彼女と一緒に居れば赦されるのではないかと、勘違いしてしまうくらい、愛しい姫君。


 この小さな命を、剣と命を捧げた主の命令の範囲外でも守りたいと思ったのは、あの方の最後の願いだったからか。


 11歳になり、陛下に謁見してから姫は変わった。

 受け身だった性格が行動的なものへと一変したのだ。


 結界を掻い潜ってきた片割れの王子と共に、何かを企んでいたのは分かっていた。

 二人を暫く放っておいたのは、私もダリルも陛下の案件の方が重要だったのだが、まさか書き置きと可愛らしい贈り物を残して家出するとは。


「国王の花嫁になんかなりたくない」と泣いた姫を、我が儘だと切り捨て捕らえなかった理由は......理解していた。




「あっ」


 広場を通りかかった時、足を止めた姫の視線の先、鉄格子がはめられた檻に収容された色白で淡い金髪の少年を見た瞬間、私の背筋がゾワリと粟立つ。


 この少年はただの奴隷ではない。


 強大な魔力を内に秘め、今にも爆発しそうな激情を抑える精神力を持つ者が、ただの奴隷でも平民でも無いだろう。

 何故、奴隷に堕とされたのかは分からないが、彼は高貴な血を持つ者だということは分かる。


 知らず、私は笑っていた。

 やっと、探していた者を見付けたからだ。


 この少年を上手く使えば、呪いから解放できるやも知れぬ。


 陛下が目覚めるまでの期限付きとはいえ、姫の我が儘に付き合っているのは任務の一環......真の主は陛下だと理解している。

 理解はしているが、赤子の頃より傍らにいる彼女を、陛下の花嫁という名の贄にしたくないと苦しむ、人らしい気持ちを切り捨てられなかった。

 生きて、幸せに笑っていて欲しい。

 だが、陛下に命を捧げた私では王命には逆らえない。王命に背いて動くには、優秀な駒が必要だ。



「小僧、貴様の命は私が握っていると思え」


「何、だと?」


 床に這いつくばりながら、睨み付けてくる少年の視線が心地好い。


「全ては、我が姫を守るために」


 その為に、限りある時間を使い足掻いてみせよう。





 守るべき姫とよく似た女性の幻影が、幾度となく私に話し掛ける。


『お願いよ、ヴァルンレッド』


 逆行になっているせいで、彼女の表情は見えない。


『私の代わりに......守って』


 ただ、彼女の頬を伝う涙は見えた気がした。






幼い姫君に絆されて、苦しいヴァルの想いです。

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