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ラスボスの生け贄へ転生した私が足掻く話  作者: えっちゃん
2章 足掻いてみせます
16/99

06.ラスボスとなる彼

説明文が多いです。

 “カイルハルト=ディレイ=トルメニア”


 昼間広場で見掛けた、奴隷として競りにかけられていた少年の名前を思い出した私は、ベッドで横になりながら悶々と前世の記憶を思い出し、頭の中で整理してきた。



 少年、カイルハルトは、恋と駆け引きの方程式~魔術師女子高生~1に出てくる重要なキャラである。


 攻略対象キャラではないのに重要なキャラだというのは、カイルハルトがゲームのメインヒーローであるレオンハルト皇太子ルート、無印ルート、逆ハーレムルートにおけるラスボスだからだ。


 名前に“トルメニア”と入っているからして、カイルハルトはトルメニア帝国の皇族、それもゲームの舞台となるトルメニア帝国皇太子レオンハルトの兄。

 正確には、カイルハルトは正妃から生まれた第一皇子で、レオンハルトは側妃から生まれた第二皇子である。


 二人は同い歳で、容姿は母親違いのためあまり似ていないのもあるが、自信満々俺様といった性格が全面に出ているレオンハルトに比べ、カイルハルトは感情を表に出さず冷たい印象を与える。

 一ヶ月早く生まれたカイルハルトが第一皇子となっため、レオンハルトの母である側妃は実家の公爵家の力を使い、幾度となく正妃とカイルハルトを亡き者にしようと動いていたのだ。


 前世の私が画面越しで見たのは、側妃の放った暗殺者に追われたカイルハルトが、庭園奥の森の中まで逃げていた場面だった。


 ゲームのラストバトル前に彼の口から語られた話では、幼い頃、側妃の刺客に母を殺害され自身も命の危機に襲われ逃げている途中、奴隷商人に捕まり奴隷の身分まで堕とされた。

 奴隷商人に連れられてエディオン国へ流れたカイルハルトは、母を暗殺して皇帝の正妃の座を得た側妃と、ぬるま湯に浸って我が儘な皇太子として生きているレオンハルトに復讐することを糧に、死と隣り合わせの過酷な日々を生きてきたという。

 カイルハルトの回想シーンで、エディオン国のミンシアへ送られた彼は、裏社会のドンに買われ犯されかけるといった場面があった。

 ......ドンは小肥りの脂でギラギラした爺だった筈。そんなのに襲われるなんて可哀想だ。


 復讐の思いからか生来の才能か、武と魔法に長けたカイルハルトは強く、長期戦を強いられたと記憶している。


 ラスボス戦後のレオンハルトルートのハッピーエンドは、ラスボスのカイルハルトを倒した後、彼がリーダーとなって起こした内乱を終息させたヒロインは、目出度くレオンハルトと婚約して未来の皇太子妃となる。

 無印エンドではヒロインは元の世界へ戻り、逆ハーレムエンドでは、カイルハルトを倒して帝国に平和をもたらしたヒロインの功績は皇帝に認められて、学園卒業後、宮廷魔術師としてこの世界での身分を得て「私、この世界で頑張る」みたいな終わりだった。


 今の私からしたら、思いっきりヒロイン、ヒーローだけはハッピーで終わる、そんな結末だと思う。



「これじゃあ、カイルハルトは何にも救われて無いじゃない」


 帝位継承権の陰謀に巻き込まれ暗殺されかけた上に、奴隷に堕とされて地を這いずるような生活を送らされた挙げ句、反乱を起こした反逆者として処分される運命だなんてあんまりじゃないか。


 我が儘俺様甘ったれ皇子レオンハルトより、苦労して反乱軍のリーダーまで上り詰めたカイルハルトの方が民を重んじる皇帝に成れるんじゃないか、とすら思ってしまう。

 というか、ヒロイン、もっと頑張ってくれなきゃ駄目じゃないか。


 全てのルートでカイルハルトはヒロインに倒されて終わるのではなく、何故、国外脱出させるとか救いの道を残さないのかとか、反乱を起こす前にカイルハルトに出会うルートもあるのに彼を止めろよとか、ゲームをやっている間も、色々疑問に思っていた気もする。

 まぁ、実際問題として、カイルハルトを生かしていたら彼の強大な魔力とカリスマに魅せられた貴族によって、レオンハルトより皇帝に相応しいと騒ぐ者もいるだろうから無理なのだろう。



 檻に収容されていても、生を諦めきれないといった強い光を宿す、綺麗なアイスブルーの瞳が脳裏に甦る。


「助けなきゃ」


 なるべく音をたてないように、私は上半身を起こした。

 ラスボスであろうと反逆者であろうと、今の彼は、私と変わらない年頃の子ども。


 あれだけ綺麗な男の子なら、ナニ目的の奴隷として買われるのかなんて分かりきっている。

 気持ち悪い......そんなおぞましいことをされるのは、あまりにも可哀想だ。


 この感情は、同情じゃない。

 ただ、彼の存在を、待ち受けるだろう未来を知っている私が耐えられないだけ。



「ごめん、行ってくるね」


 隣のベッドで眠るメリッサに強制睡眠魔法をかけて、寝巻きの上に上着を羽織った私は慎重にドアを開けて灯りが落とされた暗い廊下へ出た。





(よし、いない)


 周囲の様子を伺いながら歩みを進め、角を曲がれば階段へ続く廊下へ出るところまで歩みを進めた。


「......何処へ行くつもりですか?」


 突然、背後から低い声が聞こえて、私は盛大に体をびくつかせた。


 ひっ!と上げそうになった悲鳴は何とか喉の奥へと押し込める。

 声をかけた人物が誰かなんて、振り返らなくても分かるし、振り返りたくない。

 抑揚を消した声色の時は、彼が静かに怒っている時だから。


「ヴ、ヴァル」


 恐る恐る振り返れば、やはり壁に背をもたれ掛けて腕組みをして立っているのは、黒い服に身を包んだヴァルだった。


「奴隷の少年を助けに行くつもりですか?」


 私が抜け出すことはあらかじめ予想していたのだろう、無表情のままヴァルは問う。


「奴隷達の収容場所も、奴隷商の屋敷も分かっていないのに?こんな夜更けに外へ出たら、ラクジット様が誘拐されるだけですよ」


 薄い唇が作ったような嘲笑を浮かべる。


「それに、あの少年は直ぐ買い手がついたようでしたから、今頃は変態爺の餌食になっているでしょうね」


 何時もは優しい濃紺の瞳が、今は冷たく射るような視線となって私を見下ろす。


「そんなっ......それでも、助けてあげたいの」


 たとえ、カイルハルトの貞操を守れなくても全く救いの無い彼の未来を少しでも光が見出だせるものにしてあげたい。

 救いの無い未来は、私も一緒だから。


 涙目になりながらヴァルを見上げれば、彼はフッと笑ってから視線を逸らした。



「......仕方ないな」


 諦めたような愉しんでいるような、複雑な笑みを浮かべてヴァルはもたれ掛かっていた壁から背を離した。


「駄目だと止めたら、私の可愛い姫は自力で何とかしようと、無茶をしでかすでしょうね。仕方がありません。貴女の望みを叶えましょう」


 不本意だ、とばかりに溜め息を吐いてから、ヴァルは身を屈めて私と目線を合わせる。


「私が戻るまで、部屋から出てはいけませんよ」


「うんっ」


 ありがとうの想いを込めて、私はヴァルの首に抱き付いた。




 ***




 懐中時計の微かな秒針が響く静かな部屋で、私はソファーで膝を抱えていた。


 時刻は既に深夜。


 ヴァルが宿屋を出てから、早くも一時間半近い時間が経過していた。

 まさかヴァルに何かあるとは思えないが、カイルハルトが襲われて悲惨なことになってはいないだろうか。


 気持ち悪い金持ち親父に、ナニされてしまった少年の姿を想像して、私は顔色を青くする。


 襲いくる眠気に負けそうになりながら、私は眠らずにヴァルの帰りを待ちつつ、カイルハルトにどんな言葉をかければいいのか苦悩していた。




 カチャリッ


 ドアノブを手で押す音が聞こえて、私はソファーから勢い良く飛び降りた。


「ただ今戻りました」


 特に、疲弊した様子も無く戻ってきたヴァルが肩に担いでいたのは、ぐったりと意識を失っている色白の少年だった。

 彼の羽織る、ガウンに似た簡素な服は乱れてはいたが、目立った傷は無さそうだ。


「少々汚れてしまったため彼を清拭したいのですが、メリッサは......」


「強制睡眠魔法をかけちゃったから朝まで起きないと思う」


 ぐっすりと眠るメリッサは、これだけ私が騒いでいても起きることはない。たまには朝までゆっくり寝てほしい。


「あっ、でも、お風呂は沸かしてあるよ」


「おや、準備が良いですね」


 ソファーまで大股で歩いて、ヴァルは肩に担いでいたカイルハルトをソファーへ下ろす。


「何があるか分からないから......」


 モゴモゴ言って、顔を赤く染めた私の意図するものに気付いたヴァルは、プッと吹き出した。


「ラクジット様ご安心ください。彼は貞操を自力で守っていましたよ。汚れているのは全て返り血です」


 チラッと見たカイルハルトの肌には、返り血だという血液以外の気持ち悪い液体とか鬱血した痕とか見当たらず、私は胸を撫で下ろす。


「本当!良かったぁ」


 ずっと彼への慰めの言葉を考えていた私は、安堵のあまり瞳からボロボロと涙が零れ落ちた。



ヒロインは、カイルハルトが変態爺にナニされていたらどうしようと、悶々と悩んでいたみたい。

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