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ラスボスの生け贄へ転生した私が足掻く話  作者: えっちゃん
2章 足掻いてみせます
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04.襲撃

 軽快に白い幌付き馬車が草原を走る。


 御者として走る馬の手綱を持つのは、見目麗しい黒髪の青年。

 青年、御者をしているヴァルの背後から私はひょっこりと顔を出す。


「ラクジット様、中に入っていてください」


「嫌、外を見たいもん。それに馬君の走りも見たいし。馬君頑張れー」


 私の声に応えるように、荷台を引く馬がヒヒーンと嘶く。


「返事してくれたよっ」


「仕方無いですね」


 大喜びで隣に座る私に、ヴァルは苦笑を返して視線を前方へ戻した。


 風のような速度で荷台を引く赤い目をした馬は、一見すれば大型の普通の馬に見えるが、実は炎の鬣と炎の蹄を持つ魔獣だ。

 何処からか、この馬の姿をした魔獣を連れてきたヴァルは、しれっと「捕らえて服従させました」何て言って私とメリッサを絶句させた。



 風に煽られた髪を押さえながら、私は隣に座るヴァルの顔を見上げた。


(やっぱり格好いいなぁ......)


 風に煽られて舞う黒髪、すっと通った鼻筋に濃紺色の瞳と涼しげな目元、薄い唇。

 細身ながら筋肉質で背も高い大人の色気を感じさせる美丈夫で、黒騎士一の実力を持つ彼が攻略対象だったら、美形揃いのゲーム内でもトップクラスの人気が出たと思う。


 敵である黒騎士ヴァルンレッドと異世界少女の禁断の恋......前世の私だったら身悶えする設定だ。

 今の私は子どもだし、保護者代わりの彼は残念ながら恋愛対象には当てはまらない。

 もしも恋愛対象になったら、冷静沈着な黒騎士ヴァルンレッドはロリコンキャラになってしまうし。


 でも、ヴァルが誰かと恋をしたら......例えば、ゲームのヒロインみたいなイケメン達を惹き付ける女の子を好きになって、私の側から離れてしまったら......


(ヴァルが居なくなったら、私以外の女の子の側に行ったら......嫌だなぁ。でも、嫌だって引き留めるのはヴァルを縛るみたいでそれも嫌だなぁ)


 ゲームのヒロインとヴァルンレッドが寄り添う姿を想像してみて、私は思わず溜め息を吐いた。




「どうされましたか?」


 前方へ向いていたヴァルは、私の方へ視線を動かして、一瞬だけ真顔になると舌打ちした。


 ヴァルの左手が私の肩を押さえ、右手でグイッと手綱を引く。


 ヒヒーン!


 手綱の動きで御者の意思を察した馬は嘶き、走る速度を緩める。


「どうしたの?」


「魔獣です」


 もしや、ヴァルを見て色々考えていた心の声が聞こえてしまったのかと、内心焦っていた私は、きょとんと言われた台詞を暗唱してから漸く意味を理解した。


「魔獣? 見えないよ?」


 目を凝らして辺りを見渡しても、身を隠す物が無い草原で魔獣らしきモノは見当たらない。


 私がキョロキョロしている間に、魔法を組み立てていたヴァルは馬車の周囲に強固な結界を張る。



「空から来ます」


 短く言って、私の肩を押さえていたヴァルの手が守るように自身の方へ抱き寄せる。


 バチチチチッ!


 結界の上方に鋭利な物が連続して当たる音が響く。

 体を縮込ませる私の頭を撫で、腕の中から解放すると、ヴァルは御者台から飛び降りた。


「ヴァル!」


「この結界から出ないでくださいね。メリッサ」


「ええ、ラクジット様、中へお入りください」


 トレーラーの中から顔を出したメリッサが、飛び降りようとした私の手を掴む。


「でも......」


「言う通りにしてくださらないと、ラクジット様が心配でヴァルンレッド様が戦えません。ヴァルンレッド様の足を引っ張ってはいけません」


 言い切られてしまい私は何も言えなくなった。


 ろくに戦えない私は足手まといにしかならないし、ヴァルンレッドは手助けを必要としないくらい強いのだ。

 ぎゅっと唇をへの時に結んで、私はメリッサに従い御者台からトレーラーの中へと戻った。




 腰に挿した剣を右手で抜いたヴァルは、既にヴァルンレッドの顔に変わっており、剣の刀身に埋め込まれている魔石に魔力を込める。


 ゴウッ


 刀身が炎に包まれ、ヴァルンレッドは口の端を吊り上げて不敵に笑う。


「この種族は、この辺りでは居ない筈だが......舐めた真似を」


 笑みを浮かべたヴァルンレッドは、クツリッと喉を鳴らす。

 ただしそれは口元だけの笑みで、鋭い視線は襲撃してきた巨大な怪鳥へ向けられていた。


 赤紫色の羽と長い尾、首から上は七面鳥と似た怪鳥は三つある血走った目をギョロギョロ動かし、標的を結界で隠したヴァルンレッドを敵と認識して睨み付ける。


 バサッバサッ!


 怪鳥が両翼を羽ばたかせ、ヴァルンレッド目掛けて勢いよく無数の羽を、雨のように降り落とした。


 バチチッ!!


 空から降り注ぐ羽を斬り落としたヴァルンレッドは、御返しに魔力を込めた剣を振るった。

 剣に纏わした紅蓮の炎を衝撃波として一気に放出する。


「ぐきゃああー!」


 ドスンッ!


 炎の衝撃波に片翼を根元から斬り落とされた怪鳥が、甲高い声を上げて草原へ落下した。


 砂埃を巻き上げ、怒りと痛みに残った片翼を滅茶苦茶に振り回して暴れる怪鳥の上へヴァルンレッドは飛び乗る。

 二度、剣に魔力を込めて、風魔法を纏わせた青白く輝く刃を心臓へ狙いを定めて一閃させた。


「ギャー!!」


 怪鳥が上げた断末魔の声が空気を揺らし、私は思わずメリッサにしがみつく。



 水魔法を発動して剣に付着した血液を流したヴァルンレッドは、剣を一振りして水滴を落としてから鞘に納めた。


 馬型魔獣の側まで歩み、魔獣を繋いでいた綱を外したヴァルンレッドは、魔獣の顔を撫でる。


「喰っていいぞ」


 ヒンー!


 歓喜の嘶きを上げて、馬型魔獣は心臓を貫かれてもまだ完全に事切れておらず、小刻みに痙攣をしている怪鳥の元へ走っていった。




 黒騎士ヴァルンレッドの圧倒的な強さ、“ヴァル”とは違って好戦的な顔をする彼が“ヴァルンレッド”本来の姿。それらを目の当たりにした私は、しがみつくメリッサの服をぎゅっとを握り締める。


「ラクジット様」


 馬型魔獣が大きく口を開けた瞬間、視界を覆うようにメリッサが私を抱き締める。


 バキッぐちゃっ、と馬型魔獣がお食事をする音が聞こえて、私は込み上げてくる吐き気に顔を歪めた。




「終わりました」


 馬車へと戻ったヴァルは先程まで放っていた殺気を消して、何時も通りのやわらかい笑みを私へ向けた。


「ヴァルは、怪我して無い大丈夫?」


「ええ、大丈夫ですよ。あの程度の魔獣では、私に傷一つけられませんからね」


 さらりと、ヴァルは雑魚だったと言ってのける。

 確かに圧倒的強さを見せつけた彼は、涼しい顔で息切れ一つしていない。


(......良かった。いつものヴァルに戻ってる)


 ヴァルンレッドモードだったら嫌だと心配だった私は、安堵からへにゃりと笑った。





 お腹が一杯になった馬型魔獣は快調に速度を増して走る。


 日が傾く頃には、馬車の外の景色が草原から徐々に剥き出しの土や大きな石が転がる、荒れ野へと変化していく。

 吹き抜ける風も、温く乾燥したものへと変化していた。



「ラクジット様、これよりエディオンへ入ります。荒野を走る準備のため、この先のミンシアで宿を取りましょう」


 御者台に座るヴァルが、振り返って国境を越えた事を告げる。


「エディオン国のミンシア......?」


 何処かで聞いたことがある街の名前。でも、何処で聞いたのかが思い出せず、私は首を傾げた。


「国境近くの大きな街ですよ。治安はあまり良くないので、くれぐれも! 一人で行動しないでくださいね」


 地図を広げて街の場所を指で示すメリッサに、くれぐれも、を強調して言われてしまい、前科がある私は何も言い返せず頷いた。


戦いの描写は難しいです。

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