表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ラスボスの生け贄へ転生した私が足掻く話  作者: えっちゃん
2章 足掻いてみせます
13/99

03.最初の目的地

 暖かくてふかふかな毛布にくるまって、私はぼんやりと目の前の映像を見ていた。


 目の前にあるのは、夫が冬のボーナスで買い換えた大型の薄型テレビ。

 大型画面に映し出されているゲームの画面を見ながら、半ば眠りの世界へ入りかけていた私は欠伸をする。


 もうそろそろ寝たいし、話をスキップするためにコントローラーのスキップボタンを押そうとした。その時、画面の中の少年と目があった。

 まだ幼さが残る11~12歳の、プラチナブロンドの髪にアイスブルーの瞳をした綺麗な男の子。

 視線を外せなかったのは、彼の瞳には見ているだけで胸が痛くなるような、絶望と悲痛な光が浮かんでいたから。


 ザッ!


 森の中で立ち尽くす少年の背後から、剣を持ち顔を黒い布で覆った男が現れる。


『危ない!』


 少年に斬りかかろうとした男に向かって、私は咄嗟に右手を突き出した。


 ゴウッ!


 巻き上がった風が男を吹き飛ばし、男の体は近くの木の幹に激突する。


『大丈夫?』


 つい、ゲーム画面に声を掛ければ、驚いた少年が顔を上げる。


『......天使、なのか?』


 呆然と掠れた声で呟く画面越しの少年。

 彼の顔は、何処かで見たことがある気がするのに思い出せず、私は首を傾げた。




 ***




「う......ごほっ!」


 口を開こうとして私は盛大に咳き込み、意識が一気に浮上する。



「お目覚めですか?」


 起きたのに気付いたメリッサが慌てて、咳き込む私の背中を擦る。

 一頻り咳をして、ベッドからゆっくりと上半身を起こした。


「わたし、寝ちゃったの?」


 窓から外を眺めていたのに、いつの間に眠ってしまったのだろうか。


「ずっと休む暇もありませんでしたから、お疲れだったのですよ」


 成る程、疲れていたし気が緩んで寝てしまったということか。


「寝かしてくれてありがとう」


 ベッドまで運んでくれた事の礼を伝えると、メリッサは嬉しそうに目を細める。


「ラクジット様、それはヴァルンレッド様にお伝えください。ベッドまでお連れしたのは、」


 コンコン、


 ノックの音に、メリッサは台詞を途中で中断して扉を開けた。



「ヴァル!」


 部屋へ入ってきたのは、何時もと変わらない笑みを浮かべたヴァル。珍しい白シャツと黒いズボンという服装に、私の頬は安堵と嬉しさで緩む。


 勢い良くベッドから飛び降りて裸足で駆け寄った私は、身を屈めたヴァルの広い胸へ飛び込んだ。



(こうやってヴァルに抱き付いても嫌な顔をされないって、子どもっていいなー)


 夢の中で少しだけ前世の自分、妊婦なのに夜更かししてゲームを楽しんでいた事を思い出した私は、内心ほくそ笑んだ。

 攻略対象の貴公子達より、敵役ヴァルンレッド推しだった前世の自分がこの場に居たら、涎を出して羨ましがるかもしれない。


「お土産です」


 身を屈めたヴァルは、私の手のひらの上に甘い香りがする紙袋を乗せる。


「わぁー! エッグタルト!」


 甘い香りがする紙袋の中を確認して、私は歓喜の声を上げた。



 椅子に座って、お土産のエッグタルトを頬張れば、甘すぎずまろやかな舌触りのクリームが絶妙に美味しくて、私は笑顔になる。


「そういえば、ヴァルとメリッサはどうして私の場所が分かったの?」


 椅子に座ってエッグタルトを食べる私は、しっかり咀嚼して飲み込んでから、向かいの椅子に座るヴァルへ疑問だった事を問う。


「ラクジット様が私を呼んでくれたから、危機的状況だと分かりました。貴女の魔力が暴発した気配で場所を把握して、メリッサと共に転移したのです」


「そうなの? 来てくれて嬉しかったよ。ありがとう」


 魔力で居場所を特定したのは分かるが、名前を呼んだだけで状況を把握するなど出来るのかと、私は内心首を傾げる。

 過保護なヴァルのことだから、知らぬ間に追跡魔法か関知魔法でもかけていたのだろう。


「それはそうと、ラクジット様には魔法を教えるよりも魔力コントロールを教える方が先でしたね。私が来るのが遅かったら、危うく街の一部を破壊するところだった」


 笑みを消したヴァルに淡々と言われて、私は眉尻を下げた。


「うう、ごめんなさい」


「いいえ。離宮では、貴女をアレクシス王子のように鍛えることは許されませんでしたから、私の責任でもあります。それに、同年代の少女よりも貴女は外見も魔力も気配も目立つのに、警戒を怠ってしまった。申し訳ありません」


 謝罪の言葉を口にするヴァルの、濃紺色の瞳からは感情は読み取れないが、僅かに表情が陰っているように見えた。

 私の前では、優しい護衛騎士の彼は、本来なら国王の黒騎士という立場というものがあって、黒騎士にとって王命は命よりも私よりも大事なもの。

 イシュバーン王国に居る限り、王命には逆らえない。謝らなくとも、そんなことは分かっている。


「謝ることはないよ? ヴァルはずっと私を守ってくれていたよ?」


 にっこり笑って伝えれば、ヴァルも微笑む。

 国を離れたからか、以前より表情がやわらかくなった気がする。


 じいっと、ヴァルの顔を見詰めていると、不意に彼は横を向いてしまった。



「......メリッサ、そちらの手配は終わったか?」


「はい、出来ております」


 急に問われたメリッサは、空になったカップへ紅茶を注ぐ手を止めて答える。


「手配って何?」


「馬車旅での消耗品等の手配ですよ。私がお側を離れたのは、馬車の手配のためです。転移陣で一気に移動したらラクジット様の鍛練にはなりません。乗り合い馬車だと、何かと危険ですしね。メリッサ」


 ヴァルの指示でテーブルからカップをどかし、メリッサは折り畳まれた紙をテーブルの上へ広げた。


「馬車で南方のエディオンへと向かいます」


 広げられたのは、イシュバーン王国がある大陸の地図。


 地図の上を、ヴァルの人差し指が滑り下りていき、荒野が広がる大陸南部の国、エディオンと表記された文字をなぞる。


「南方? トルメニア帝国に行くのかと思った」


 オディールから山脈を越えた先にある大陸一の大国、トルメニア帝国。

 乙女ゲーム、“恋と駆け引きの方程式~魔術師女子高生~”の舞台となる国であり、この世界屈指の軍事大国でイシュバーン王国と同じくらいの、歴史ある華やかな文化遺産を持つ国である。


 折角一時的とはいえ自由を得たのだし、ゲームの舞台となる帝国を観光したいと思っていたのだが......


「今のラクジット様を連れて帝国には入れませんよ。三百年前のトルメニア帝国との戦争はご存知でしょう。貴女の纏う色はイシュバーンの王族の、竜王の血を引いている証ですから、そのままの姿で帝国に入って気付かれたら騒ぎになります。帝国は大敗した歴史から、イシュバーンを、竜王に連なる者を脅威だと思っているらしいですからね。捕らえられて、無理矢理皇子の花嫁に据えられるか人質にされるか......」


「えー、それは嫌だなぁ」


 トルメニア帝国皇子で釣り合う年齢の相手は、恋と駆け引きの方程式~魔術師女子高生~1のメインヒーロー、レオンハルト皇太子か。

 金髪碧眼の王道王子様といった外見は完璧な彼は、性格は強引な俺様でメインヒーローだったがあまり好きにはなれなかった。

 あまり好きにはなれない相手でも、暗黒竜の生け贄になるよりはレオンハルト皇太子の嫁の方がマシか?


 うーん、と考えて私は首を横に振った。

 嫌だ。どうであれ、利用されるのは御免だ。



「ご存知の通り、ラクジット様はイシュバーン初代の王、竜王陛下の血を濃く継いでいらっしゃいます。その為に、染め粉や魔法では貴女の纏う色は誤魔化せない......先ずは、外見と魔力を目立たないようにしましょう」


「染め粉も魔法も駄目なら、どうするの? 剃る?私、頭の形が悪いからスキンヘッドはちょっと嫌だなぁ」


 唇を尖らした私に、一瞬ポカンと口を開けたヴァルはプッ、ククッと声を堪えつつ、笑う。

 横を向いたメリッサも、口元を押さえて肩を小刻みに震わす。


「くっ、剃らなくとも、私の、昔馴染みの、魔道具を研究している変わり者なら、ラクジット様にあった物を、作り出せる筈です」


 二人揃って笑いを堪える様に、変な事を言ってしまったのかと私は眉間に皺を寄せる。

 でも、純粋に笑いを堪えて苦しそうに話すヴァルは初めて見て、安心した。

 完璧な彼も、人間なんだって。


 ヴァルンレッドの意外な一面を見られたのが嬉しくて、私はニヤニヤ笑ってしまった。


最初の冒険、目的地が決まりました。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ