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ささくれ黙示録 ~ショートショート集・ソノ1~

ショートショート021 最後の……

作者: 笹石穂西
掲載日:2017/04/24

 私の仲間が全員死んだ。




 仲間といっても、仲のいいとか、身近なとか、そういう意味ではない。そんなレベルではない。

 父が死んだ。母も死んだ。

 祖父母も両方死んだ。

 兄弟も死んだし、子供もみんな死んだ。

 幼いころからずっと一緒だった仲間も死んだし、その親も兄弟も残らず死んだ。

 たまに見かける程度の知り合いも死んだ。

 会ったこともない者もたくさんいるが、それもことごとく死んだようだ。


 つまり、局所的な、ごく限られた地域でのはやり病とか、そういうものではない。

 私たちが生きているこの世界全体、そういう規模で、仲間が死に絶えたのだ。

 仲間というのは、そういう意味だ。


 そして私が最後だ。

 私たちが必死に生きてきたこの世界で、最後に死ぬ。

 そういう存在に、私はなったのだ。




 何かがおかしい。

 そう思ったときには、もう手遅れだった。みんなバタバタ倒れていった。


 原因は、はっきりとは分からなかった。分からなかったが、おおよその見当はすぐについた。

 奴らだ。

 奴らがいったい、どんな方法で私たちをここまで追い込んだのか。

 もちろんその方法は気になったが、気にしたところでどうしようもなかった。

 あとには、遺体すら残らなかったのだから。

 遺体はみな、とけるように消えた。まるで、この世界の中にとけていったかのようだった。

 

 まわりの仲間がどんどん死んでいって、私は怖くなった。

 だから私は、私の家族が全員死んだあと、旅に出た。

 住み慣れた土地を離れた。

 ひょっとすると、少しくらい、生き残っている誰かがいるんじゃないだろうか。

 そんなかすかな希望を抱いて、私は旅を始めた。


 外の世界は厳しかった。故郷とくらべてすごく寒いし、やたらと風も強い。

 それでも私は旅を続けた。

 ときおり、故郷と同じような環境のところを見つけた。そのたびに、生きている仲間がいないか、調べて回った。


 だが、どこへ行っても、どれだけ行っても、仲間は一人も見つからなかった。

 哀しいことに、この世界に残っているのはもう私だけなのだということは、確かな事実のようだった。




 いったい、どうして、こんなことになったのだろう。

 私たちは、ただ、あるべきように生きてきただけなのに。




 私が生まれ育った土地にご先祖さまたちがやってきたのは、ずっと昔のことらしい。

 いつのころの話か、はっきりとは分からない。祖父母もよく知らないようだったから、かなり昔のことなのだろう。

 言い伝えによると、ご先祖さまは、相当苦労したらしい。

 そのころは今とは違って、あのあたりの土地はまずしかった。

 敵も多かった。何度も何度も襲われて、おおぜいが殺された。

 それでもご先祖さまは、せいいっぱい生きた。

 敵と戦い、居場所を守った。まずしい土地を切り開き、生活の基盤をつくった。いっぱい頑張って、たくさん食べて、どんどんと子供を生んだ。

 大きな災害もたまにあったらしいが、何とかふんばって生き延びた。

 そうして、やがて私が生まれた。あの頃は平和だったなあ。仲間もおおぜいいた。




 そして私もまた、あのときまでずっと、あの場所で生きてきた。私だけではない。みんなそうだ。

 この世に生まれ、食事をしっかり摂ってすくすくと育ち、子供を生み、次の世代にバトンを渡して死ぬ。

 あるべきように行動し、あるべきように生きてきた。

 これからもそうして生きて、最後もあるべきように死んでいくはずだった。




 なのに、それなのに。




 なぜ、こうなったのだろう。

 どうして、こんなことになったのだろう。




 なあ、さっきから私の話を聞いてくれている、どこかの誰かよ。

 もしも知っていたら、教えてほしい。

 どうして、こんなことになったんだ?

 私たちは、私たちなりに、ごく普通の暮らしをしていただけなんだ。

 何も悪いことなんかしちゃいない。私たちは、私たちが生きるための、最低限のことをしていたに過ぎないんだ。

 それなのに、その私たちがなぜ、家族を奪われ、友を奪われ、あまつさえ私たち全ての命を奪われなければならないのか。

 おかしいではないか。理不尽ではないか。




 そりゃあ私たちだって、まったく悪さをしなかったわけではない。しかし、それを悪さと言ってはいけないだろう。

 私たちは、他の生き物を傷つけた。苦しませた。

 でもそれは、ありとあらゆる生き物がやっていることだろう。

 自分以外の生き物を苦しませたり、殺したりして、食べて栄養にする。自分が生きていくための血肉に換える。

 それは、生き物の宿命のはずだ。

 それともあなたは、まったく他の生き物を苦しませることなく、これまで生きてきたとでも言うのだろうか。




 なあ、どこかの誰かよ。

 私たちは、この世に存在するあらゆる生き物と同じように、多くの命を殺めてきた。

 でもそれは、必要なことでもあるはずだ。

 もしも、生きるために他者を殺して食べるという、そういうシステムが存在しなかったら、いったいこの世界はどうなるか、あなたは考えたことがあるだろうか。

 きっとこの世は、生き物であふれかえってしまう。

 ぎゅうぎゅう詰めだ。

 だから、他者を殺して食べるということは、必要なことなんだ。

 そうでなければ、本来食べられるべきだった他者は、無制限に増え続けるだろう。

 そうならないために、誰かが、たとえば私たちが、他者をきちんと殺す役割を担っているんだろうと、私はそう思うんだよ。




 なあ、どこかの誰かよ。

 きっと私の話を聞いてくれているであろう、どこかの誰かよ。

 この世で最後に死んでいく私の、死に際の最後のお願いを、どうか聞いてはもらえないだろうか。




 どうして私たちは、世界のことわりではなく、人間の都合で全滅させられなければならなかったのだ?


 私たちだって、人口調整という形で、それなりに人間の生存に役立ってきたはずだ。


 もしもあなたがその理由を知っているのならば、天然痘の最後の一個体たる私が死ぬ前に、ぜひ教えてくれないだろうか?

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