お姫様、これは馬鹿には見えない服でございます。
開いて頂きありがとうございました。
国の宰相が、お姫様に面会を求めてきた時の事。
「姫様にぴったりの服がございます」
箱から取り出すような動作をするが、宰相の手には何も無い。
「何も無いじゃない……」
そう言うと、宰相はニヤリと笑って言った。
「これは馬鹿には見えない服です」
「馬鹿には見えない服?」
首をかしげると、宰相はわざとらしく言う。
「ああ、もしや……姫様には見えなかったりしますかね……」
「ば、馬鹿にしないで下さい!見えます。きちんと見えてます!」
「そうですか!それは良かった。先日、この服を売りつけに来た商人がおりましてな。
姫様に似合いそうな色鮮やかな物でしたので、献上するために買ったのですよ。
姫様のいつもの藍色の着物も素敵ですが、たまには違った色の物をと思いまして」
「ええ、ありがとう……」
そう言って、無言で姫と宰相は見つめ合う。
「あの、お召しにならないのですか?」
「え……?」
着るの……?これを……?と何もない空間をスカスカさせて、姫様は宰相を見る。
「もしや、見えてないからお召しになられないのでございましょうか?」
不安そうに煽る宰相。
「解りました、着てきましょう……」
そう言って席を立つ姫様……。
「姫様、その服は着物ですので下は何も付けないようお願い致します」
「ええ、解っています……はぁ!?」
宰相はニヤニヤと笑いながら言った。
「楽しみですなぁ、姫様の美しい着物姿は」
「……くっ、宰相には本当に服が見えているのよね?」」
「もちろんですとも!」
目を逸らしながら、早口に答える宰相。
「(こいつ……!)」
一時間後、姫様は全く変わらない姿で出てきた。
「姫様……?」
「ありがとう宰相、素敵な色ね。気に入りましたわ」
「(下に何も付けないでくださいと言ったのに……)」
悲壮な表情を浮かべる宰相。
「(もし何かつっこまれたら、何で服の下が解るの?と言ってやるわ)」
宰相をじっと見つめる姫様。
「……ええ、お似合いですね」
乾いた笑いを浮かべる二人。
そこへ、一人の侍女がやってくる。
「あら、姫様。服をお着替えしたんですね。いつもの藍色ではなく、桜色の着物ですね」
「「……」」
侍女はそう言って、無言で部屋を出て行く。侍女の出て行く先を、二人の服を見えない物はじっと見送った。
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