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第 20 話 《 世間知らず 》

 少し時間をさかのぼり今朝の話……。


「申し訳ありません。お嬢様……」

「えー! イラもですかー?」


 イラが本当に申し訳なさそうに何度も頭を下げるので、ルカもそれ以上不満を口にすることができなかった。

 アスカも朝早くから出掛けていて宿にはもういない。だから今日はイラと観光に行くとばかり思っていたルカは、急な用事が出来て出掛けると聞き不満の声をあげたのだ。


 だって二人とも昨日の夜はなにも言ってくれなかった。なのに朝起きたら一人で留守番していろと言うのだ。唇をとがらせてしまうも仕方がないだろう。


「本当に申し訳ありません。それで、その……夕食までに戻れるかどうかわかりませんので……これを」


 ルカの小さな手に金貨が握らされる。倹約家のイラにしては珍しい配慮だった。


 イラは最後にもう一度深く頭を下げると宿を出て行った。


 ルカのポケットにはもう一枚金貨が入っている。今朝アスカに謝罪として渡されたお金だ。ルカはポケットから金貨を取り出すと、小さな両手にのせて見つめた。


『大人は汚いですね。ぷんぷんッ!』

「…………」

『お金でなんでも解決しようだなんて酷い!』

「…………」

『ルカちゃん?』


 気をつけていたのに唇の端がつり上がる。


『ルカちゃん、まさか……』

「……はい」

『お金持ちさんですか!』

「はい!」

『バンザーイ! バンザーイ!』

「ばんざーい! ばんざーい!」


 金貨を落とさないように握りしめたルカは例の声と一緒に喜び合った。今日は豪遊だ!


 まだ日が昇って間もないというのに街はにぎやかだった。金貨を巾着袋に入れて首からさげる。スリ対策も万全だ。


『ルカちゃん偉い!』


 大切なお小遣いなのだから当然の配慮だ。


「世間知らずだなんていわせませんよー!」


 だから一人でも買い物ができる。ルカは意気揚々と露店へくり出した。

 ほどなくして甘い匂いを感知する。小さな体で人混みをすり抜けると、お目当ての店をみつけた。


「らっしゃい!」


 威勢の良いおじさんが売っていたのは甘い豆のお菓子だ。煮た豆を乾燥させて砂糖をまぶしたものらしい。色とりどりの豆は宝石のように輝いて見えた。


「お嬢ちゃん、どれにする?」

「……全部」

「へ?」

「あるだけ全部下さい!」


 ルカは胸元から巾着袋を取り出すと、中をあけて金貨を取り出しおじさんに見せつけた。


「ま、まいどありーーーー!!!!!!!!」




 露店を離れたルカは豆の入った袋に手を突っこみながら歩いていた。イラがいたら叱らせそうだが、歩きながらお菓子を食べるという行為はいつもよりおいしく感じられる。こぼしても怒られないので気にせずムシャムシャ食べていた。


 結局金貨2枚で全部は買えなかった。おじさんもノリが良かったので付き合ってくれただけらしい、と例の声がおしえてくれた。銀貨1枚分のお菓子とオマケをもらい、ルカも満足している。まだお金はあるし次はなにを買おうかと露店を物色していると――。


「やあ、お嬢ちゃん。見つかってよかった……」


 振り返ると見覚えある三人組が立っていた。しかしあのときのような威圧感はない。猫なで声で話しかけてくると――。


「お嬢ちゃんの連れのお兄ちゃんが君のことを探してたよ」

「提督ですか!」

「そうそう、テ、テイトク? さんにね、お嬢ちゃんを見つけたら連れてきてくれって頼まれたんだ」

「提督どこですか?」

「あっちの方だよ。連れてってあげるからついてきてくれるかい?」

「わかりましたー!」

『ルカちゃん!』


 耳の奥にキーンとくる声に思わず顔をしかめる。


「なんですかー?」

『罠ですよ! ついっていっちゃダメ!』

「罠なんですかー?」


 男たちに尋ねるとそんなことはないと大袈裟に首を振る。そしてルカの持つ袋に目を落とすと――。


「そうだ、お嬢ちゃん甘いお菓子好きなんだろ?」

「はい!」

「よしよし、ならテイトクを待っている間にいっぱい食べさせてあげるよ」

「タダですか!」

「もちろんさ!」

「やったー!」

『ルカちゃんチョロい!』


 例の声が色々と警告してくれているのだが、お菓子を奢ってくれる親切な人の好意をむげに断るのは失礼というものだ。


『ルカちゃんの世間知らず! もう知りませんからね!』


 聞き捨てならないセリフを残して例の声は聞こえなくなった。


「失礼しちゃいます」

「ん? なんか言ったか?」

「なんでもありませんよー」


 親切な人たちに連れられて来た場所は、忘れられたかのような古びた聖堂だった。アース教会のものとはどこか違う作りの建物だ。


 中にはいるとそこはすでに聖堂としての役割を果たしておらず、テーブルやら椅子やらが散乱していた。床に座って酒を飲んでいた男たちがルカの姿をみつけると、慌てた様子で壁にはりついた。一様に顔を青ざめているのはなぜだろう?


 疑問は氷解することなく祭壇の奥の部屋へと連れていかれる。そこに待っていたのはカッコイイ提督ではなく、毛むくじゃらの大男だった。


 その白いたてがみの獣人にはルカも見覚えがあった。イラの険しい表情が思い出される。ここにきてようやく自分の状況を自覚した。


 誘拐されちゃいました……。


次回 第 21 話 《 大帝の憂鬱 》


次回はジャングル大――森林大帝の人の話。ただの噛ませじゃない!

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