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第 19 話 《 それぞれの思惑 》

 ポルコの私室に戻るとご立腹の主がいた。


 戻ってきていたのは知っていたが、クーラとの話を打ち切るわけにもいかずに待たせていので素直に謝罪する。色々と文句を言われたものの、せっかく取り次いだタースをこれ以上待たせるわけにもいかないと、飛鳥は引っ張られるように連行された。


「いいですかな。くれぐれも失礼のないようにお願いしますぞ!」


 何度目かの忠告にうんざりしながら頷くと、ポルコがひときわ立派なドアを開けた。


 頭を垂れたポルコに習い、飛鳥も頭を下げると部屋の中へと入って行く。そこは大統領の執務室と言っても過言ではない様相の部屋だった。


 豪華な椅子に座り机に向かってなにやら作業をしていた男が顔をあげる。年の頃はクーラと変わらないように見えるが、白髪をなでつけたオールバックに衰えを見せない鋭い眼光が実年齢よりも若く感じさせた。


「遅れて申し訳ありません。どうも出歩いた客人が迷ったようで、急ぎ見つけて連れてまいりました」


 なんて小物だ。まさか堂々と言い訳の材料に差し出されるとは思ってもみなかった。ポルコは自分のミスを棚に上げて賞賛を浴びようとしている。しかしタースはなにも答えず、飛鳥に視線を向けるとペンを置いた。


「君かね。私に会いたいという商人は?」

「はい。アスカ・カミジョウと申します。急な願いを聞いて頂きありがとうございました。こうしてタース枢機卿にお目にかかれて光栄に存じます」


 タースは眉根すら動かさず、ポルコに顔を向けると――。


「ご苦労だった。君は下がりたまえ」

「は? し、しかしアスカ殿だけ残して――」

「下がりたまえ」


 有無を言わせぬその眼光に逆らうことができなかったポルコは、不安げな顔で飛鳥を見るとすごすごと部屋を出て行った。パトロンが取られるとでも思っているのかもしれない。想像ぐらいできただろうに本当に小物だ……。


 ポルコが去ると座るようにすすめられる。飛鳥は礼を言って豪華なソファーに腰を下ろした。


「それで……何者かね、君は?」

「……先ほども申し上げたとおり――ッ!」


 迂闊だった。ステータスのチェックはしていたが、身につけているマジックアイテムにまでは気が回らなかった。あの片眼鏡には見覚えがある。


『 調査鏡 』


 鑑定鏡のような外見だが、その性能は遙かに上回り物以外まで鑑定できるレアアイテムだった。いったいどれほどの情報が流れたのか見当がつかず、答えあぐねているとタースは調査鏡をはずした。


「これについても知っているようだな。失礼した」


 謝罪はするものの悪気があったとは思っていない口ぶりだった。


「悪く思わないでくれ。あれほどのミスリルを動かす駆け出しの商人が私に会いに来たと聞けば警戒もする」


 ポルコに駆け出しであることは伝えていない。となればこの男はギルドでの一件を知っているということだ。まだ丸一日も経っていないというのにすでに情報をつかんでいるのか……。油断ならない相手だ。


「ことミスリルに関してこの国の人間は敏感なのだよ。だから私の耳にも自然と入ってくる」

「……なるほど。恐れ入りました」

「ふっ、恐れ入ったのはこちらだよ。まさか調査鏡でも素性を見透かせない者がいるとはね。もう一度聞く……君は何者かね?」

「商人では納得して頂けませんか」

「商人の目ではないからな。私に近づこうとする商人は多い。何百人とそうい輩を見てきたが、例外なく同じ色をしていたよ……君とは大違いだ」


 調査鏡の話が本当なら誤魔化すことも可能だが、海千山千の枢機卿であるこの男に半端な嘘をついても見透かされそうな気がした。だからといって本当のことを話すわけにもいかない。ならばいっそのこと……。


「素性については明かせませんが、目的についてはお答えしましょう」

「ほう……」

「私は先頃おこった神災について調査に参りました」


 飛鳥はタースの顔にわずかに浮かんだ動揺の色を見逃さなかった。自国の軍艦が巻き込まれたのだから知らないはずがない。街の様子を見る限り情報規制がされているのだろう。なんせここはアース教会の総本山だ。まさか神災が迫っているとは発表できまい。今は原因の究明に躍起になっているのではなかろうか。


 そこにきて謎の調査員が現れたとなれば慎重に対応せざるをえないはずだ。飛鳥の狙いどおり、一方的に問われる立場から逆転する。とぼけるタースに正確な場所と日時を示してやると、ぐっと言葉をつまらせた。


「なぜ神災が起こったのか……心当たりはございませんか?」

「神のお考えになることだ。私には見当もつかんよ」

「巻き込まれた艦には最寿の女王が乗っていたそうで……」

「…………」

「現在ソニア・エム・リーヴス女王は裁判に出頭するために貴国におられると聞き及んでおりますが……」

「……なにが言いたい?」

「今回の神災の原因は彼女の神格に関わることなのではないかと、我々は考えているということです」


 タースは苦虫を噛み潰したような渋面をつくった。もはや隠すつもりはないのだろう。


「神格など言い伝えにすぎん。でなければ30年前にフィリラ王国を襲った神災の説明がつかぬ」

「ではなぜ?」

「わかるものか! 神格を汚せば災いが起こると脅える者もいるが証明した者は誰もいない。だからこそ私がやるのだよ!」


 神災のメカニズムを調べようとしているのか?


「今回の裁判はクーラ殿を蹴落とすために貴方がはかったことだと噂されておりましたが……」

「ふんッ、くだらん噂だ。そんな回りくどいことをせずとも勝算はある。教会が組織である以上はクーラのような敬虔な信者にはつとまらんよ」


 飛鳥もその考えには共感をおぼえた。クーラがフィリラ王国の復興に熱心だったのは神格のことがあったからこそだろう。そのような考え方が蔓延すれば巨大な組織である教会とて傾く。ここまで育て上げた幹部たちがそれを許すとは思えない。タースの自信も決して根拠のないものではないのだろう。


 タースの狙いはクーラをはじめとした敬虔な幹部の一掃だと思われる。飛鳥としても神格については確かめたくもあった。くしくもソニアの意思とも重なる。


「わかりました。タース様の意地……拝見させて頂きます。つきましてはお耳に挟んでおきたいことが――」


 飛鳥が知り得る情報を伝えると、タースも心得てるというように頷いた。互いの利害が一致したことで浅いが絆のようなものが生まれたようだ。


 飛鳥は最後まで謎の調査員として振る舞いタースの私室を出た。

 廊下で神経質にウロウロしていたポルコに礼を言って大聖堂を後にすると、ようやく解放的な気分でのびをした。


 落ち着いてみると結構ギリギリだったと反省する。


 よくもまあポンポンと口からでまかせを言えたものだと我ながら感心した。これも元の世界で培った経験のたまものなのか。何気にステータスをチェックしてみると、交渉スキルが1レベルアップしていた。ポイントを振り分けなくても上がるらしい。苦労のかいが目に見えて喜んでいた飛鳥の視界に、最近ご無沙汰だったアレが浮き上がった。


『 大変! 大変! 』


 なんだよ、藪から棒に――。


『 ルカちゃんがエロ同人みたいに乱暴されちゃうかも! 』


「はあッ?」


 いまいち緊迫感があるんだかないんだかわかりづらいメッセージを読んで飛鳥は困惑した。


次回 第 20 話 《 世間知らず 》


次回はルカの話。R15タグはついていますがエロ同人みたいなことにはなりませんよー!

「YES! ロリータ NO! タッチ」

でもハイエルフだから合――おや、誰か来たようだ……。

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