第 13 話 《 商人とチンピラ 》
扉の奥の通路はかなりの広さを有していた。幅も広く天井も高い。
異世界だし巨人なども利用するならこれぐらいは必要なのかもしれない。
お姉さんの後をついて進んでいくと他の商人や職員らしき人たちとすれ違った。
派手な服を身につけ歩き方からして偉そうな商人もいれば、地味な格好をした腰の低い商人もいた。しかし総じて瞳の奥には商魂をたぎらせているのが一目でわかる。
あらためて自分が場違いなところにいると思った。
「これからご案内させて頂くところは希少な品を取り扱うところですのでむやみやたらに触れないようにお願いしますね」
今のはルカへの忠告なのだろう。きょろきょろしっぱなしの本人に伝わったかどうか怪しいので監視していよう。それにしても……。
「結構な量を捌きたいのですが、そんなデリケートなところで鉱物の取引なんてして大丈夫なのですか?」
「え?」
お姉さんが立ち止まる。そして怖々した声で量について聞いてきた。
「えっと……」
格納庫に入れておいたぶんをさばくつもりでいるのだが、何トンあるのかわからない。それにいま、お姉さんは聞き慣れない単位で聞いてきた。通貨や長さと同様に重さも翻訳がきかないようだ。これは困った……。
「いーぱいですよ!」
飛鳥が答えに窮しているとルカが答えた。助け船のつもりだったのだろうが、お姉さんの顔を見るかぎり逆効果だったようだ。
「コアトルス級の格納庫に満載ですか……」
「いーぱいです!」
ルカちゃんもうやめて!
同意を求める視線を送ってこないで!
苦笑したお姉さんは、あらためて別の部屋へ案内すると言って、緊張した足取りで進んでいった。
ひときわ大きな扉を抜けると、そこはだだっ広い格納庫のような場所だった。
なにやらよくわらない大きな荷物がいたるところに置いてある。魔眼で調べてみると飛空船の部品やら、大型の魔物の死骸やら、建築資材やら多種多様なものが搬入あるいは出荷されているようだった。
「少々お待ち下さい」
お姉さんはカウンターらしいところに行って何やら説明すると、つなぎのうえにローブを着たような格好のスタッフを三人つれて足早に戻ってきた。
「お待たせしました。ではこちらへ」
気のせいかスタッフの視線を感じる。なんだか品定めされているような気がしてならなかった。
他の荷物からだいぶ離れた場所にあった巨大な魔法陣の前に案内される。
いぜんイラが話してくれたトランスポートなる魔術を使うためのものなのだろう。
「それでは駐船位置番号の確認と船長の承認をお願いします」
そういえば空港の受付で入国証明書と一緒に番号の書かれたカードを渡されていたことを思い出してお姉さんに渡した。あとは船長の承認が必要らしいのだが……すでにうちの艦長はやる気満々で前に出ていた。当然のように困惑するお姉さんに間違いないことを告げる。
だってしかたないだろ。本当のことだし……。
「お嬢さんが……船長を?」
「リンスはわたしのお家です!」
少女は腕を組み胸を反らして威厳ある艦長をアピールしていた。ごっこ遊びの弊害か……。
これ以上不審がられては困るのでお姉さんに先を即した。
お姉さんはテキパキとスタッフを魔法陣の前に配置させる。しかしその指示が突然止まった。カードと空港の地図らしいものを見比べて苦い表情を浮かべる。
「どうかしましたか?」
「いえ、その……船の位置が少々遠すぎるようで」
そういえば転移させられる距離に制限があったことを思い出した。なるほど、どおりで近くに商船が一隻もなかったわけだ。
「わかりました。すぐに移動して――」
「ご心配には及びません!」
ずっと後ろにひかえていたイラが、ここに来てはじめて口を開いたかと思うと堂々たる姿で飛鳥の前に進み出た。
「この程度の距離ならわたくしの魔法で難なく転移させられます。ここはイラにお任せ下さい」
恭しく礼をしたイラは、お姉さんに向かってぞんざいにスタッフを退かすように言った。
戸惑うお姉さんに飛鳥からも口添えをする。イラの腕は神造艦の残骸を回収したときに確認しているので問題はないだろう。それよりも……。
魔法陣の前に進み出ようとするイラにそれとなく加減しろと忠告しておく。格納庫に入れておいた全てのマテリアルを搬出するのは量的にもまずい。この魔法陣の大きさからしてあれだけの量は想定されていないのだろう。
「とりあえずほんの一部だけ転移さて様子をみたい」
「かしこまりました」
魔法陣の前に立ったイラが片手を突き出して詠唱をはじめる。言語の聞き分けができない飛鳥にも、スタッフの動揺からイラが妖精語で魔法を行使していると気づいた。
魔術は奇術で魔法は奇跡、メイドの正体がこの国では珍しい妖精族だとアピールしているようなものだ。案の定、お姉さんの視線が痛かったがそしらぬふりをしておいた。
しかしその飛鳥の苦労もたったいま水泡に帰する。
目の前に転移した光り輝くマテリアルの塊はいったい何十トンあるのだろうか?
お姉さんやスタッフはもちろんのこと、離れた場所で取引をしていた商人やスタッフたちも、その神々しい光を放つ鉱物にくぎづけとなっていた。
イラを見るとミスリルの塊をバックにして誇らしげな顔つきをしていた。あれだけ言っておいたのに……。
飛鳥が今後の対応に頭を悩ませていると、お姉さんが恐る恐る振り返った。
「駆け出し……でしたよね?」
「ええ、まあ……」
「どこかの貴族か大商人のご子息とか?」
「知り合いすらいませんよ」
「そうですか……」
「なんか驚かせてしまってすいません」
こんなはずじゃなかったんだがもはや後の祭りだ。スタッフたちが「大商いだ!」と騒いでるいまとなっては、こっそりアイテムストレージにしまうこともできそうにない。
「あの、これで全部……ですよね?」
「もちろんです!」
本当はこれでも格納庫に入れておいた一部だし、ストレージには数量不明のマテリアルがごろごろしているがもちろん内緒だ。
お姉さんはホッとしつつも目の前のマテリアルを見上げて途方にくれていた。
それからしばらくしてスタッフたちと話し込んでいたお姉さんは、戻ってくるなり頭を下げて恐縮する。
「まことに申し訳ありませんが、これほどの量となるとおいそれと換金ができません。つきましてはしばらく預からせて頂く形にして、厳選なる調査後に相場と照らし合わせて買い取らせて頂きたいのですが……いかがでしょうか?」
「お任せします」
飛鳥のあっさりした返答にお姉さんの方が困惑していたが、ともかく商談がまとまったことに胸をなで下ろしたようだ。
調査には2、3日かかるそうなので、後日訪れるということで話をまとめて飛鳥たちは商業ギルドを後にした。
「さて、これからどうしようか?」
くしくもしばらく滞在しなくてはならなくなったわけで、観光するのもやぶさかではない。買い出しをするにしても金が入ってからの方がいいだろう。
「お腹ぺこぺこです!」
我が家のエンゲル係数が騒ぎ出したので、話の続きは食事をしながら決めることにした。
さて、どこに行こうか。常駐させておいたセカイレンズにいくつか飲食店のタグが残っているので、この中から魔眼で良さそうな店を探すか、と考えた矢先に思考が中断された。
「どこの目つけてんだ! くそガキ!」
少々はしゃぎすぎたルカが道行く人にぶつかったらしい。がらの悪そうな三人組が立ち止まり脅えた少女を睨みつけていた。
「どうもすみません。うちの子がぶつかってしまったようで」
飛鳥は急いでルカの側まで寄ると謝罪した。子供相手に大人げないと思いつつも、ルカの保護を優先する。
「どうもすいませんじゃねえよ、兄ちゃんよお!」
「兄貴のシルクが汚れちまったじゃねえか! どうしてくれんだ!」
なんの冗談だ?
どう見ても山賊が着てそうな毛皮のチュニックにボロ布のズボンじゃないか。絹がどんな素材かしらないのではなかろうか?
一番がたいのいい兄貴と呼ばれたおっさんは無言で威嚇しているのだが、飛鳥はあまり脅えを感じなかった。けっこう迫力はあると思うのだがなぜだろう?
「おい、聞いてんのかてめえ!」
今にも掴み掛かろうとする男についたタグを見て違和感をおぼえた。こいつだけ名前が表示されている。他の二人がアンノウンだというのにどういうことなのだろう……。
「おう、兄さん、事務所で話しをつけようか」
おっさんがドスのきいた声で唐突に戯言を口にした。そこでようやく意図に気がついた。
なるほど。最初から狙いは自分なのだと……。
さて、どうしたものかと考えていると、業を煮やした下っ端がルカの腕を掴もうとした。
瞬間――。
下っ端の腕がねじ曲げられて悲鳴が上がる。気づけばいつの間にか背後に立っていたはずのイラが、ルカを守るように割り込み男の腕をねじ曲げていた。
「汚い手でお嬢様にふれるな下郎」
「てっめえッッッッッッ!!!!!!!!」
もう一人の腰巾着がイラに殴りかかろうとするが、簡単にかわされたかと思うと首筋に肘鉄をくらいあっさり昏倒する。腕をねじ曲げられていた男も顔面に膝蹴りをうめこまれてその場に倒れた。
一瞬で二人を倒したイラを前にして、焦りの表情を浮かべたおっさんが腰の剣に手を伸ばす。
刹那――。
長いスカートがめくれ上がり、褐色の素足が見えた。その足がスカートの奥に隠れたときには既に決着はついていた。男が剣を抜くよりも早く、その首筋には鈍い光を放つショートソードが突きつけられていたのだ。
「死にたければ……抜け」
殺気の込められたイラの言葉に脅えた男は剣の柄から手を離した。
「フン……とっとと失せろ!」
イラが一喝するとおっさんは情けない顔をして、起き上がった下っ端と共に昏倒した仲間を担いで逃げていた行った。
遠巻きに見物していたギャラリーから歓声がわく。げんきんな人々に呆れていると衛兵が走ってきた。ちゃんと通報はしてくれたらしい。しかし当事者不在で逆に注意されてしまった。
まったく……今日は誤解されてばかりだ。
ともかく嫌なことを忘れるためにも、近くの飲食店へと入った。
食事を終えるころには落ち込んでいたルカも元気になり、興奮していたイラも落ち着いてた。立ち回りをべた褒めしたのがよかったのだろう。ルカもイラの強さを目の当たりにして安心したようだった。
さあ、今度こそ観光だと思ったのだが、イラの立ち回りを見たルカが冒険者というものに強い関心を抱いたようで、冒険者ギルドに行きたがった。
「冒険者かっこいいです!」
イラもまんざらでもない顔をする。飛鳥も冒険者には興味どころか憧れを抱いていたほどなので望むところだ。
そんなわけで、イラの案内で冒険者ギルドへとやってきた。第一印象としては……。
「……ボロいです」
子供は正直だ。ずいぶんと年季のはいった建物だった。商業ギルドと比べると、そのみすぼらしい姿に同情すら抱く。規模はともかく外観は商業ギルドに似た感じなのだが、白かったであろう壁は茶色くくすみ、所々にヒビまで見てとれる。
メインストリートから大きく外れているせいか、出入りする人々もまばらで寂しい雰囲気だった。
「以前立ち寄ったときはもう少し活気があったのですが……」
「いつ頃の話?」
「150年ほど前の話です」
昔話か!
まったく参考にならないはずなのだがルカは……。
「うー。もう少し早く来ればよかったですね」
同意を求められても困る。まだ祖父母すら生まれてませんよ……。
「せっかく来たんだし中に入ってみようか」
「賛成です。ぴしッ」
ルカのテンションも完全に戻ってきたようなので、おなじ轍を踏まぬように手を繋いでから中へと入った。
これまた中も寂れた雰囲気が漂っていた。人の数はそこそこいるものの活気がないうえ、広すぎるロビーを持て余しているようだ。
子供とメイドを引き連れている場違いな飛鳥を気にとめるそぶりもない。荒くれ者の冒険者にからかわれる的なイベントはどう見ても発生しなさそうだった。
それでもルカが物珍しげに冒険者たちの姿を見渡しているのでよしとしよう。せっかく来たのだから冒険者登録をしてクエストを受けてみるのもいいかもしれない。この様子ならあまり危険もなさそうだし、冒険者気分を味わえればルカもきっと喜ぶだろう。もちろん自分も。そんな妄想にふけっていたら――。
「ここですぜ! 御頭!」
なんか聞き覚えのあるだみ声だと思って振り返ると、開きっぱなしの扉から先ほど痛い目をみせられたはずのチンピラが入って来た。
「やっと見つけぞ。へっへっへっ、どこに逃げても無駄だぜッ!」
逃げ出したのはお前たちの方だろうに。
イラの視線に気づいたチンピラが利き手を守るように後退った。
「へっへっへっ、ギルドに逃げ込んだって無駄だ。うちの親分は元冒険者だからな。この辺りで御頭の強さをしらねえ奴なんていねえんだよ!」
加勢はないと言いたいようだ。たしかに魔眼で確認したかぎりだとレベル10前後の戦士や魔術師しか見当たらない。いきがるチンピラよりは強いものの、ぞろぞろと増えていく悪党を前にすると尻込みするレベルのようだ。
ん? 一人そうでもないのがいるが――。
「どうした? ビビって声もでねえのか! 情けねえ野郎だぜ!」
考え事をしていただけなのだが、バカが増長するきっかけを与えてしまったようだ。
それにしても――増えたな。
チンピラが増長する気持ちもわかる。今や20人ほどまでに膨らんだ、がらの悪い連中に取り囲まれていた。だがそれでも不安はない。なぜならイラの実力は――。
『 Lv:36 』
『 ノーマルスキル:剣術 Lv.5 』
『 ノーマルスキル:魔法 Lv.6 』
あいにくと剣術スキルも魔法スキルも持ち合わせていないので、実力のほどはハッキリとしないが、白兵戦スキルと比べれば、剣術がエースクラスで魔法は達人クラスだ。レベルに関しても妖精族は人族よりも上がりずらいようなので、同じレベルであっても人族より練度が高いという話しだし、レベル一桁台のチンピラなど物の数ではないだろう。
イラも熟知しているため、その表情はまったく気負っていなかった。が――。
「貴様等か、俺様の部下に恥をかかせた連中は」
悪党共の人波が割れると、その道に巨漢の獣人が現れた。それなりにでかい扉の入り口であるはずなのに、その大男が通ると玩具の家にでも入り込んできたような錯覚をおぼえた。見た目どおり只者ではないらしい……。
『 名前:森林大帝レオルグ 』
『 種族:獣人族(猫科)♂ 』
『 Lv:38 』
なんだこれ? あだ名か?
白いたてがみはたしかに立派なのだが、大帝なんて名乗れるほど身分が高いとは思えない。なぜならチンピラですら服を着ていたというのに、この大男はこしみのをつけているだけなのだ。
ほぼ全裸ではないか……。
しかしよくよく考えてみると毛皮が毛皮を着るというのもおかしな気がするし、この人はこれでいいのかもしれない。
飛鳥がそんな分析をしていた横では、いつの間にか臨戦態勢のイラが身構えていた。
その横顔には先ほどまでの余裕がない。むしろ焦りすら感じられた。
裸の王様のスキルと見比べた感じでは、物理戦闘ではわずかに劣るようだが、イラには魔法がある。勝てない相手ではないと思うのだが……この焦った表情はなにを意味するのか?
取得している魔法を確認してみると……なるほど、どれもこれも威力がありすぎてこんな密集した場所では使えそうにない。ましてや自分やルカが側にいてはなおさらだろう。
物理でガチンコとなればイラの方が分が悪い。喧嘩とはいえ怪我ではすまないかもしれない。飛鳥はステータスを開くと使えそうなスキルをチョイスしてイラを下がらせた。
「提督様、そのお心遣いだけでけっこうです。ここはわたくしが――」
「いいんだ、イラ。こいつらの目的は俺だからね。これで三度目だ。偶然じゃないんだろ?」
チンピラを見据えると舌打ちした。やはりか。
からまれたときには魔眼を使用していなかった。なのにこいつだけタグに名前が出ていたのはおかしいと思っていたのだ。この国に来て広範囲に魔眼を使用したのは、商業ギルドで案内板を探していたときだけだ。そこでひっかかった場違いなチンピラが駆け出しの商人に近づいた理由はすぐに見当がつく。おおかたミスリルのサンプルを見かけたのだろう。だから因縁をつけて事務所に引っ張っていこうとしたわけだ。
レオルグが部下をひとにらみする。縮こまったチンピラは御頭のためにやったことだと必死に弁解した。どうも雑魚共が手柄をたてたくてはりきって失敗したようだ。いい迷惑である。
ともすれ、誤解がとければ丸く収まる……そんなふうに考えていた時期が自分にもありました。
「悪いな兄さん。だが俺様たちにも面子がある。だから……」
「だから?」
「身包みをおいていけ。それで勘弁してやる」
レオルグの殺気に周囲の空気が一変した。足下の部下ですらたじろぎ、冒険者たちも身の危険を感じて立ち上がる。これがレベル38の殺気か……。
「どおってことないな」
飛鳥はつぶやきと共にステータスに表示されていたスペシャルスキルを選択した。
『 ドラゴンの対話 発動 』
刹那――レオルグの放った殺気が霧散する。
飛鳥の気迫が大地を揺るがし、途方もない殺気が場を支配した。白目をむいてバタバタと倒れるチンピラもいれば、辛うじて意識を保った者も腰を抜かして尻餅をつく。魔物と戦ってきた冒険者たちですら膝をつき絶望に顔を歪ませていた。
あれ?
おかしい。こんな威力のあるスキルではないはずだ。なぜなら……。
『 ドラゴンの対話 』
『 竜との対話はメンチの切りあい。先に目をそらした方が負け 』
おそらく順番からしてドラゴンスレイヤーになったときにおぼえたスキルなのだろうが、こんなふざけた説明のスキルにたいした威力はないだろうと考えていた。
時間稼ぎ程度のつもりで選んだ結果……。
この世の終わりでもおとずれたかのような惨状になってしまった。
誰よりも一番びっくりしたのは自分です。さらに気づけば森林大帝が足下で土下座していた。
「か、かかか勘弁してくれ。い、いいいやして下さい。お願いします!」
もはや威厳もへったくれもないが一人で逃げ出さないだけましか。というか殺気は出してるが殺す気なんてさらさらないのだが……。
「旦那、そのへんにしてやれよ」
誰もが動けないなかでたった一人だけ飛鳥に近づき制した冒険者がいた。冒険者にしては小綺麗でおまけに面構えもいい。見た目は若いが熟練の兵士を感じさせる雰囲気の男だった。ただその端正な顔も青ざめている。
「お連れさんも……驚いてるぜ」
男の視線は飛鳥の左右に向けられた。左を見ると青ざめたイラが何か言おうと口を開きかけては閉じている。右を見ると飛鳥の手にしがみついていたルカが両目をぎゅっと閉じていた。ようやく事態を理解した飛鳥はすぐさまスキルを停止した。
けんのんとした空気が一瞬にして消えるとルカがそっと目蓋を開けた。
「ごめん。驚かせちゃったな」
「びっくりしました!」
ルカは怖がっている様子がなかったが、チンピラ共は我先にと逃げ出して行った。大帝も平謝りで部下を連れて出て行った。冒険者たちは目を合わせてくれない……。
そこでようやく衛兵さんたちがやって来てくれたのだが、飛鳥の顔を見るとまたお前かという顔をされて本日二度目の注意をされた。
次回 第 14 話 《 儲け話 》




