childhood friend
…幼なじみなんて、こんなもんですよね(笑)
今日は6時間授業。
しかも、かったるくて眠たい授業ばかり。
げっそりした顔でサラリーマンや大学生をかき分け改札を出る。
ウォークマンのボリュームをひとつ下げて家路につく。
と、こちらに歩いて来る学生服の青年に目を奪われた。
なんでこんな所にいるの!?
あなたの家は、全然違う方じゃない…
心臓が痛い。
体中が熱い。
緊張している。
ふと目があった。
…思い切りそらした。
背中を冷たい汗が流れる。
そのまま2人はすれ違った。
どちらも、何も言わないまま。
私は、振り返れなかった。
あなたが立ち止まり、振り向いたコトをわかっていたから…
ねぇ、私とあなたは、いつからこんな風になってしまったんだろう?
私とあなたは生まれた時から一緒だったけど、私は幼稚園、あなたは保育園だったし、小学校に上がってもクラスはずっと別だったし、運がなかったのかもね。
でも、私はあなたが好きだった。
ベテランの先生も手を焼く超問題児だったけど、本当は誰より優しいコト、私は知っていたから…
ちっちゃい頃はみんな怖がって近寄らなかったのに、高学年のあたりかな? かっこよくなってきたらいきなり手のひら返したように女の子がよって来て、『和弥の何を知ってるの!?』って思ってたけど、そんなコト口にする勇気はなかった。
そんなモテモテのあなたが私の所にチョコレートの催促に来て、どれだけ嬉しかったか、あなたは知らないでしょう?
でも、あれが悲劇の始まりね。
和弥にとっては、なんでもないかも知れないけど。
空も教室も茜色に染まる。
私は、帰り支度をしながら、同じクラスの女の子たちと他愛ない話をしていた。
オチもつき、帰ろうと鞄を持った時、その声は聞こえた。
「千春 ちょっといい?」
「? うん」
私は、和弥に呼ばれた。
何の用だろうとは思ったけど、別に普段と大差ない、日常の範囲だと、私は思っていた。
…でも、甘かった。
女の子たちが騒ぎ出す。
和弥が『千春』と呼んだのに過剰反応したらしい。
お願いだから、そんなに騒がないで と、心の底から思いながら、
「だって、幼なじみだし」
と言い、和弥の後を小走りで追った。
空き教室に入ると、和弥は私の手をとり、ポケットから取り出したあめ玉を2粒くれた。
なぜ急にあめ玉をくれるのかが不思議で、和弥を見ると、小さな声で、
「おかえし」
と、呟いた。
カレンダーを見て納得する。
3月14日。
今日は、ホワイトデーだ。
「ありがと」
私は、あめ玉を握りしめた。
本当に、本当に嬉しかった。
…でも、翌日から和弥は、私を『千春』と呼ばなくなった。
私は懲りずに『和弥』と呼び続けたけど。
私は、子供ながらに和弥との間に溝が出来たのを感じた。
きっと、彼女たちに悪気があった訳ではないと思う。
きっと、和弥も、恥ずかしかっただけだと、今なら思う。
…でも、小学生の私は、この溝が寂しかった。
小学生なんて、こんなもん。
初恋なんて、こんなもんだと自分に言い聞かせた。
でもね、飽きっぽい私なのに、なぜか和弥の事だけは諦められなかったの。
この時、思いを断ち切っていれば、更につらい思いはしなかったのに…
ねぇ、人生諦めが肝心って思っていた私だけど、大切な物や事についてはいつまでも粘り強く、…悪く言えばしつこく、追いかけていたと思うの。
和弥の中ではどうか知らないけど、私の中で『好きの定義』は、『どうしても諦められないコト』みたい。
私の中では、『好きだから諦めない』んじゃなく、『諦められないから好き』だった。
…そして、それは唯一、あなただった。
ねぇ、私たちの15年って、なんだったんだろうね?
昨日今日現れたような人に簡単に崩されちゃうくらい、脆く儚いものだったなんて、知りたくなかった。
あれから3年たつけど、未だにあの日ほどつらい出来事はない…
私の好きな和弥は、どこに行っちゃったんだろう。
…それとも、和弥は変わってなくて、私が本当の和弥を知らなかったのかな?
私を嫌いなあの子は、和弥と付き合っている。
「仲いいね〜 あの2人」
何も知らない友達は、私にそんな話を振ってくる。
「2人っともワガママだから、すぐわかれると思ってた」
「和弥はああ見えてつくすタイプだからね」
私は、笑いながら言った。
「そうなの!?」
彼女は、意外そうな顔で2人を見た。
「うん」
「詳しいね?」
…痛いなぁ
「…幼なじみだから」
楽しそうに話す和弥とあの子を見るのがつらくて、私はわざと時間をずらして登下校していた。
卒業も間近に迫ったある日、私はなぜか和弥に呼び出された。
人の事を呼び出しておきながら、和弥はなかなか話をしなかった。
「ずいぶんなご寵愛ぶりね」
「え?」
「有名だよ?」
わかっていること、わかっていたことが、口に出すことによって再確認される。
和弥に言っているんじゃない。
自分に言い聞かせてるの。
忘れなきゃいけない。
諦めなきゃいけない。
未だに諦めのつかない自分に。
「…アイツ、嫌いか?」
「へ?」
冗談だと思い、笑いながら返す。
「いきなり何? そんな…」
「無理に言わなくてもいいんだ」
「は?」
話が見えない。
和弥の顔は、いつになく真面目だった。
「誰にだって、嫌いなヤツはいるし、悪いとは言わない。」
「待って、何のはな…」
「ただ、」
和弥は、私の言う事なんて聞いちゃいない。
「ただ、あまりキツい事は勘弁してくれないかな… 見ててつらいんだ」
「…和、弥」
何の話?
誰がキツいの?
「オマエ、昔は自分が泣いてもみんなに幸せになってもらいたいってヤツだったじゃん…」
すぐにピンときた。
きっと、あの子が和弥にありもしない事を吹き込んだんだ。
私があの子からえげつない嫌がらせを受けている事なんて、女子はみんな知っていた。
和弥は、15年一緒だった私より、あの子を信じたんだ…
私は、否定も肯定もしなかった。
出来なかった。
和弥の前で、和弥の好きな人を結果的には悪く言うなんて、とても出来なかった。
吐き出す事を許されない私の思いは、涙になって溢れてきた。
「…千春?」
私は、教室を飛び出した。
悲しさも悔しさも抑えきれなかった。
高校に上がってすぐに、風の噂で2人が別れた事を聞いた。
あの子に別の男が出来たらしい。
私は、あの日以来和弥とは口も聞いていない。
私が、和弥をことごとく避けたからだ。
ねぇ、まだ立ち止まったままこっちを見ている事、知っているけど、絶対振り向いてあげない。
…好きだからこそ、許せなかった。
読んでいただき、ありがとうございますm(u_u)m
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