プロローグ ~誕生、出会い~
初めて書いてみた小説です。お楽しみ頂ければ幸いでございます。
ゆっくりと青い空に浮かぶ雲を眺めながら、心地良い馬車、もとい荷馬車の荷車の揺れと共に体を揺らす。
本来なら隣に敷かれているレールの上を走る汽車で悠々自適かつ快適な旅をしていた筈だったのだけど、あろう事か汽車に乗る為の切符を無くすという惨事に見舞われ、自分の目的地と同じ場所に行くと言う荷馬車の主人に話をつけ乗せてもらっている。というのが現状だ。
この辺りは木々も鬱蒼としており、時折盗賊等も出るので荷馬車で街から街へと移動する商人等は護衛を雇って付けたりと自衛をしている為運ばれる分には、汽車程と言わずとも快適だったりする。あ、因みに私は護衛としてこの馬車に同行した訳ではない。どちらかと言うと荷物側だ。
まぁ、荷馬車の主人に金を払って乗っているんだから当然だろう。……何かあれば、自衛程度ならするつもりでは居るが。
現にこの荷馬車にも次の街までということで護衛の戦士が同行している。が、腕はいかがなものだろうか? 見たところまだ若い青年だ、駆け出し戦士と言ったところだろうか。
「あ、あのぅ……」
「ん? どうかしたかい?」
「あなたはその、『運び屋』さん、なんですか?」
荷車に乗ってるだけというのも退屈だし、丁度隣に誰か居るのだから話しかけてくるのは当然か。別に付き合うのも悪くないか。
「どうしてそう思ったんだい?」
「い、いえ、その大きな包みが気になってそうなのかなぁと思っただけなんですけど……」
良い着眼点だ。この荷台から商人の物ではない物を見抜くとはな、駆け出しそうだと言ったのは訂正すべきかな。
そう、私は一つの荷物をクライアントに運ぶのを生業としている『運び屋』という者だ。それ専用に設立されている集団、運び屋ギルドとやらにも所属している。
今回私が運んでいるのは一つの包みだ。大きさは……まぁ、抱えて持ち運ぶ程度と言ったところだろうか? それで想定して頂けるとありがたい。
「正解だ。私は運び屋で、これは私の運んでいる物という事さ」
「あ、やっぱりそうなんですね。あ、僕は退治屋の見習いでニュアスって言います」
「ニュアスか、よろしく」
……そうだな、ここで名乗らないのは失礼だし、被っているフードも一時外すべきだろう。目立つゆえ、あまり外したい物ではないのだがな。
マントと繋がっているフードを捲り上げ、ニュアスと名乗った青年にすっと手を差し出す。一時とはいえ護衛をしてくれるんだ、これくらいしてもいいだろう。
「トゥアン、トゥアン・ソフィエルだ」
「……え!? じ、女性だったんですか!?」
「そうだが? まぁ、身なりや生業から勘違いされるのはしょっちゅうだがね」
「し、失礼しました! あ、す、すいません!」
慌てた様子で私の手を取り、握手と相成った。女性と分かった途端緊張されると、こっちとしても反応に困るのだがな。
さて、このまま無事に済めば穏やかなまま仕事を終えられそうだったが、そうも行きそうには無さそうだ。どれ、どのタイミングで仕掛けてくるか、見ものだと言っておこうか。
「はぁ~、綺麗な赤い髪ですね、トゥアンさん」
「ん? そうかい? 少々目立つので普段は先程のようにフードを被っているのだよ。君のようなブロンド等ならこんな苦労はしなくていいのだがね」
私の髪の毛は彼が言った通り赤、いや、朱と言ってもいいかもしれないな。赤よりも少しくすんでいるだろう。
……この分だと、ニュアスはあまり戦力としておけるか微妙だな。退治屋というのなら、もう少し周りの気配に配慮して頂きたいところではある。見習いと自分で言ってるものにそれを求めるのは酷と言うものか。
荷馬車を追従するように……五人程か。森の中を進んでくる者が居るな。やれやれ、困った者だ。
「時にニュアス、君は腕に自信はあるのかい?」
「うっ、その……まだ低級な魔物くらいしか退治出来ないんです……ただ! 下手な盗賊なんかには負けません!」
「それは頼もしいところだ。が、魔物よりも時として知恵を働かせる人間の方が厄介である事は多々ある。用心に越した事は無いよ」
隣には汽車のレール、その横に今我々が居る馬車道がある訳だが、そこまで人通りが多い道ではない。だからこそ、追従してきているような連中からすれば縄張りにしやすかったのだろうな。
ん、道の先に誰か倒れているな。罠、か。
「ん? どぉ! どぉー!」
「あれ? どうしたんでしょう?」
「あれを見れば分かると思うが?」
「! だ、誰か倒れてますよ!」
「そのようだな」
さて、荷馬車の主人も馬車を止めて様子を見に行った。……ここで命を落とされるのも厄介だし、何より後味が悪い。得物は用意しておくとしよう。
私が立ち上がったのを、ニュアスは不思議そうな面持ちで見てきている。ふむ、倒れていたのは女性か。同性を手に掛けたくはないが、致し方無い事もあるか。
馬車の主人が声を掛けた。……はぁ、抱きつくと同時に刺されなかったのは幸運からか、それとも相手の詰めが甘かったからか。どうやら私の介入も間に合いそうだな。
馬車主人の肩口から覗いた抱きついた女性の手にはしっかりとナイフが握られている。大方、体で隠していて主人には見えなかったんだろう。それを持つ腕に目掛けて、こちらが持つナイフを投げつけてやればどうなるだろうか?
普通なら主人に当たる事を避ける為に躊躇するだろう。が、これでも投げナイフには自信があってね。腰のホルダーから提げている一本が、女性の腕に命中だ。
「ぎゃああああ!?」
「な!?」
「戻れ! 殺されるぞ!」
「えっ? えっ!?」
私が馬車から飛び降りると共に、横の森に隠れていた者達も飛び出してきた。作戦が失敗したんだ、そうして当然だろう。
ナイフをもう一本取り出しつつ、馬車主人を狙っている者に向けて、放つ。まず優先すべきはあの男の保護だ。
よし、ナイフは盗賊の肩に刺さり、主人を狙っている者は止めた。ならば、こちらも本格的に得物を抜かせてもらおう。
私の得物は二本のダガーだ。利き手である右手の物を普通に持って、左手を逆手に持つのが私のスタイルだ。ただ単に、その方が使いやすかったというだけだがね。
「なっ、貴様ぁ!」
「遅い」
持っていた剣を弾いて、鳩尾に蹴りをくれてやった。ふむ、動きとしては素人だな。
悶絶して倒れた奴を除けばあと四人……いや、こいつも居たか。
腰を抜かしている主人の横の女を、申し訳ないが蹴り飛ばさせてもらった。でないと、この主人を殺されてしまうのでね。
「急ぎ馬車に戻るんだ。でないと、ここで命を取られるぞ」
「は、はいぃ!」
「う、うわぁ! このぉ!」
どうやらニュアスの居る馬車に他の四人は行ったか。ほう、相手にしてなんとか防戦出来ているとは、なかなかやるじゃないか。
だがそれもそう保つまい。加勢するとしよう。
手近に居た一人に狙いを定め、斧を持つ腕を切りつける。得物を落としたら、そのまま顔面に目掛けて蹴りをお見舞いしてやろう。
「がはぁ!?」
「何!?」
「余所見をしている暇は無いぞ」
どいつも持っているのが近接用の武器で助かった。大方、どこぞで拾ったか襲って得た武器だろうが、殆どが剣なら臆する事もない。
三人目の足を払い、その回転を生かしたまま相手の持つ剣にダガーを叩きつける。武器を弾けば……そのまま殴りつけるだけだ。
「ぶぎぇぁ!?」
ふん、豚のように鳴くとはこの事か。無様なものだな。
どうやら主人の馬車の用意も出来たようだ。ならば後は、ニュアスの相手している二人を動けなくすればいいだけだな。
安物とはいえ消耗品はあまり使いたくないが、ダガーをホルダーに戻しナイフを二本引き抜く。
「でやぁ!」
「ぐぉ!? このガキが!」
「え、うわぁぁ!?」
「まったく……」
剣を振るい、油断して体の流れたニュアスに盗賊の一撃が……当たる事はない。
私の投げたそれぞれのナイフが二人の盗賊を捉え、それぞれの男が剣を持つ手に突き刺さる。そうして武器を落とし隙だらけになれば、後は如何様にも出来る。
一人の男に膝蹴りをくれてやり、ナイフの刺さった手を押さえるもう一人を流れのままに蹴り抜いた。後ろの木に叩きつけられればもう動けまい。
よし、これで進路は確保した。後は荷台に乗って……。
「ニュアス!」
「あ、はい!」
「よし、主人出せ!」
「お任せを!」
ニュアスの手を取り荷台に乗せ、馬車はまた動き出す。……ふぅ、私の荷物も無事だし、結果は重畳と言ったところだな。
一応追ってくる者が居ればナイフをくれてやろうと思ったが、その心配は無さそうだ。すごすごと森の中へ逃げ隠れていく。
はぁ、汽車で行っていればナイフの浪費も無かったと思うと、やはり損だな、これは。
「び、ビックリしたぁ……まさか本当に盗賊が襲ってくるなんて……」
「あのなぁ、君はその為に雇われたのだろう? もっとしっかりして欲しいものだよ」
「うっ、すいません」
「し、しかし助かりました……あなたが居なかったらどうなっていたか」
「まぁ、荒らされた馬車と斬殺された死体と刺殺された死体が一つずつ出来上がっていたと言うところかな?」
荷台の淵に身を預ける形で座り、また空を眺める。今正に、馬車主人とニュアスは顔を青くしていることだろう。
そんな青い物を見るより、私は青空を見る方が好きだ。うむ、一仕事してから見る青空はまた格別だな。
「で、でもあの人数をあっという間に倒しちゃうなんて、トゥアンさんって……何者なんですか?」
「さっきも言ったと思うが? ただの、しがない運び屋さ」
そう、私は運び屋だ。それ以上でも以下でもない。
任された荷物を、正確かつ安全に受け取り手に運ぶ者。荷物次第では常に命を狙われる事すらある……そんな仕事を馬鹿の一つ覚えのように続ける大馬鹿者さ。
その後、馬車は何事も無く目的の街、フェルガドと呼ばれているそこに着いた。と言っても、私の荷物の受け取り手はここには居ないらしいが。
これは、今私が所属している運び屋ギルドに着いて知らされた事だ。どうやら、汽車に乗れなかったのがかなり裏目に出てしまったらしい。
突きつけられた事実は、受け取り手は急用でここを離れるしかなくなり、今度はこの荷物をこの世界で王都と呼ばれている場所まで運んで来いという指示だった。それも、自腹か自力で、だ。
正直、これには参った。ここフェルガドから王都までは運河や山麓を幾つかと、何より海を超えなければならないのだ。はっきり行って何日、何十日掛かるか分かったものじゃない。
「はぁ……」
溜め息を一つ吐いて、座り込んだ広場の階段に、現在の私の相棒である包みを置いてそれに肘を置く。 何が入ってるか知らないが、こんな物を持ってそんな長旅をさせられるのは正直勘弁願いたいところだ。
王都へ行く方法は二つ。一つは先に行った通り険しい道を自力で進んでいくルート。もう一つは、街から街へ人や物を運ぶ転送魔法、それを行使する事を生業とし、その魔法を行使する為の魔法陣を扱っている店舗に赴き転送をしてもらうと言うものだ。
これを使えば、一瞬でここから王都へと行く事は出来る。が……この方法はとんでもなく所持金に重い。なんせ、利用するのは所謂貴族と呼ばれる者達が殆ど。まず一般人には支払えない額だ。
その一般人に漏れる事なく、当然私の所持金でそんな事が出来る事も無し。いや、正確には支払えるが……しばらく草でも食べて生き長らえなければならなくなるのは間違い無いだろう。
故に、ギルドには自力のルートで行くと伝えてきた。伝えてきたが……途方に暮れているのが現状だ。
私が運び屋である以上、この荷物は運ぶ。が、この荷物は旅をするにはあまりにも、はっきり言って邪魔だ。せめて、自力で動いてくれれば幾分マシなのだが、荷物が勝手に動くなんてそれこそ夢物語だ。
王都に着いたら、この受け取り手であるドラゴン保護協会とやらに文句の一つでも言ってやろう。あんな馬鹿デカイトカゲを保護してなんとするものか、とな。
「黄昏ていても事態は好転しない、か。旅支度でもするかな」
そう、基本的に私は荷物運びをその日の内に終わらせ、宿を取って日を終えるという生活をしていた。荷物を運ぶ際に、自分の荷物まで持っているのは邪魔になるのでな。
でも話は変わった以上、最低限以上の荷物は必要になる。今日はとにかく旅支度をして、この街で宿を取るとしよう。
溜め息は吐きたくないが、この包みを持ち上げる度に吐きたくなる。何が入ってるのかはたはた疑問だ。別に中を暴く気は無いが。
ドラゴン保護協会が絡んでる以上、そのドラゴンに関係ある物であるのは間違い無い。でなければ肩透かしも甚だしい。
……ドラゴン、この世界最強の生物にして世界の力の化身と呼ばれる存在。ただし、その力が有り過ぎる故に命を狙われ、今はその頭数を著しく減らしている存在でもある。
まさかこの荷物、ドラゴンの卵だったなんてオチでは無いだろうな? いや、そんな物なら受け取りを疎かにする筈も無し、か。
「やれやれ……本当に、お前はなんなんだ?」
なんて、荷物に話しかけても返事をする事も無し。馬鹿な事をしてないで行くとするか。
――誰?
「ん?」
今、声がしたような?
――そこに居るのは、誰?
「また……?」
な、なんなんだこの声は? 周りを歩いてる者が反応しないという事は、聞こえてないという事か?
周囲を見回しても、私に話しかけてきた様子がある者は居ない。なら、何が?
――温かい……温かい力を感じる
「温かい力?」
これは……念話か? 確か、他者に自分の思念を直接送り会話をする魔法があったと思う。それだろうか。
だとすると、相手はここに居ないのか? なら、何処から私に念を送っている?
――手を
「手?」
――僕を、開放して。君ならきっと……
!? な、持っていた包みが熱を!? 熱っ!
……熱の所為なのか、荷物を包んでいた紙が燃えていく。中から出てきたのは、何か光る紋章の浮かんだ丸い物だった。
一体私が運んでいた物はなんなんだ!? と、とにかく持って移動しないと、ここは目立ち過ぎる!
宙に浮いてる事にも疑問はあるが、この場を離れる事が先決だ。くっ、凄い熱量だ。
「こ、の! !? ぐぁぁぁ!?」
球体に先に触れた右手に、尋常じゃない熱と痛みが走った。危うく意識を手放すかと思ったぞ。
だが、痛みを気にしている暇は無い。球体を抱え込んで、急いでこの広場から立ち去る。こんな発光する物をそのままにしておける訳が無い。
とりあえず家々の間の路地に身を隠した。私の抱えている球体の発光は、どうやら収まりつつあるようだ。
「くそ、なんなんだ一体」
唐突に発光するなんて、そんな物を運ぶのは初めてだ。慌てて持ってきたが、この珠は一体なんな……んだ?
「クルルルゥ……」
「!?」
咄嗟の事で、私は抱えていた物を放り出してダガーを構えていた。無意識に、これは危険だと感じたのかもしれない。
だって、抱えた私の中にあった、いや、居たのは珠なんかではなかった。
まだ薄い、美しく極め細かい青い鱗に覆われた肌。放り出された所為か、パタパタと動き出した小さな翼。空中で制止してこちらを見つめる目はクリクリとして、見方に寄っては可愛い部類に入るのかもしれない。
「ぷぁ、びっくりしたなぁ。急に放り出す事無いでしょ?」
「な、なんだ……お前は……」
「んー、よく分かんない! けど、君が僕を出してくれたって言うのは分かるよ」
分からないって……いや、それよりも私が目の前のこれを出したって? どういう事だ?
私が抱えていたのは荷物の珠だった筈だ。それがなんでこんなものになるって言うんだ?
「ねーねーその持ってるの何!? なんかピカピカしてるね!」
「! い、いや、気にしなくていい」
……この様子からして、ダガーは必要無いだろう。こちらに害意は無いと見える。
腰のホルダーにダガーを戻して、一先ず落ち着く事にした。私が落ち着かないと、何も分からなそうだからな。
「へー、君が僕のマスターかー。真っ赤な髪って綺麗だなー。後ろで纏めてて馬の尻尾みたーい」
「ま、待て待て。周りを飛ぶな、じっとしてくれ」
「はーい」
よ、よし、とりあえず素直なようだな。目の前に止まったそれは、言ってみると翼の生えたトカゲだな。
私の記憶の中でこれに該当する生物を見た事は無い。トカゲは飛ばないし、飛ぶ動物はこんな姿じゃない。
それと、こいつ喋ったな? 返事もしてるし、間違い無いよな。人語を理解する動物というのは幾つか知っているが、話せるものとなると数える程にしか知らないぞ。
そこで、私の中で嫌な予想が組み上げられた。この荷物? の受け取り手はドラゴン保護協会、見た目として空飛ぶトカゲ、この二つのワードを組み合わせて求められる答えは……。
この空飛びトカゲはまさか、ドラゴンの幼体? い、いや、まさかな?
「ねーマスター、ここ詰まんない。どっか行こうよー」
「何処か行こうって……いや、お前がなんなのか分からないのにうろうろする訳にはいかない」
「僕? 僕はドラゴンだよー? マスターは契約したんだから分かるでしょ?」
「……は?」
「だから、僕ドラゴン。でもそれ以外は分かんないかなー。あ、でもね、マスターと僕が繋がってるっていうのは感じて分かるよ」
まさかの自白。いや、そういうのは自分で自覚しているものなのか? というか、何故私の事をマスターと呼ぶ。
等と考えていたら、不意に目の前の飛びトカゲが私の右手の方に近付いてきた。
そのまま額の辺りを近付けると、トカゲの額と私の右手に呼応するように金色の光る紋章のようなものが浮かび上がった。な、なんだこれは?
「ね? これが僕とマスターが契約した証拠。僕の卵にマスターが触れて、マスターの魔力が僕を目覚めさせてくれたんだよー」
「魔力? 私は魔法なんぞ使えんぞ? というか、契約ってまさか」
「うん、僕の卵に僕の声が聞こえたマスターが触れる事」
……あの念の主はお前か! つまり、私は自分の抱えていた荷物に話しかけられていたと! それは、近くに誰も居なかった訳だ。
どうやら私は成り行きで、このチビのマスターとやらになってしまったらしい。な、なんていう物を運ばせてるんだドラゴン保護協会!
これ、どうなるんだ? とりあえずこいつを運べば仕事は達成になるのか? うーむ……。
「……むー、マスター考え事ばかりで詰まらないよー。どっか行こっ! ねっ!」
「ちょ、待てぃ! わ、分かった、とりあえず落ち着いて考えを纏められる場所に行くから、そうだな……お前は私の背中の方に入ってろ」
「えー、……まぁいっか」
私が捲り上げたマントの下に、とりあえずこいつは仕舞えそうだ。こんなトカゲを連れて町中をうろうろする訳にもいかないからな。
はぁ……準備をするつもりだったが、まずは宿だな。そうでもしないと、落ち着いて動く事も出来ない。
「あ、マスターって女の人だったんだ」
「!? ど、何処に入り込んでる! お前は背中だ背中!」
「えー、前でもいいじゃん」
「良くない! 動き難いだろうが」
「むぅ、ふかふかで気持ち良かったのに」
「こ、こら! 少し黙ってろ」
とにかく、宿で聞き出せるだけの事を聞き出して今後の事を決めるとしよう。……よし、ちゃんと背中にくっついたな。
しかし、まさか本当にドラゴンの卵だったとは。これが厄介な事にならなければいいんだがな……。