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聖域の森が、24時間営業だった件  作者: 時空院 閃


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第9話:激辛ペヤングとコーラ・メントスの洗礼

 前話では、魔王軍の将軍ゼノスが送り込んだ最強の生物、レッドドラゴンによってスーパー・ビッグAが危機に陥りました。


 カズマが徹夜で作った「ポイント3倍デー」ののぼり旗を焼かれた怒りから、リナリスの魔法さえ弾くドラゴンの鱗に対し、カズマは「内側(粘膜)」への直接攻撃を敢行します。


 不良在庫の「食べる兵器」こと**『カップ焼きそば・獄激辛(MAX END)』**のソースを喉の奥に送り込まれ、悶絶するドラゴン。


 最強の生物を相手に、カズマが用意したさらなる「在庫処分品」によるトドメの一撃とは――?

『ギャオオオオオオオオオオォォォォッ!!!!』


スーパー・ビッグAの駐車場に、この世のものとは思えない断末魔の悲鳴が響き渡った。 最強の生物、レッドドラゴン。 深紅の鱗はあらゆる魔法を弾き、その爪は鉄をも引き裂く生ける災害。 そのドラゴンが今、涙と鼻水を撒き散らしながら、地面を転げ回っていた。


「熱イ! 辛イ! 喉ガ焼ケルゥゥゥ!」


口から漏れ出るのは、威厳あるドラゴンドラゴン語(翻訳:リナリス)ではなく、ただの悲痛な叫びだ。 原因は、俺が先ほど口の中にブチ込んだ『カップ焼きそば・獄激辛(MAX END)』のソース。 カプサイシンという悪魔の成分が、粘膜という粘膜を容赦なく蹂躙しているのだ。


「ぐ、グォォッ! 水! 水ヲヨコセェェ!」


ドラゴンが苦し紛れに首を振り回す。 その拍子に口から漏れた火炎ブレスが、駐車場の白線を黒く焦がした。


「ひぃぃっ!? やめろ! そこで火を吐くな! ガスボンベに引火したらどうするんだ!」


俺は消火器(業務用)を構えながら叫んだ。 このままだと、ドラゴンがのたうち回るだけで店舗が全壊しかねない。


「カ、カズマ! どうなっているのだ! あのドラゴンが泣いているぞ!?」


リナリスが信じられないものを見る目で立ち尽くしている。


「あいつの鱗は『外敵』には無敵だが、体内は無防備なんだよ! 唐辛子は魔法じゃない、ただの植物だ。だからアンチ・マジックも効かねえ!」


「植物の汁でドラゴンを倒すだと……!? 貴様の故郷の植物はどれだけ凶暴なんだ!」


「感心してる場合か! このままだと暴れて店が潰れる! トドメを刺して大人しくさせるぞ!」


俺は足元に置いてあった『2リットルのコーラ(ケース売り)』のダンボールを引き裂いた。


「リナリス! 俺が合図したら、お前の風魔法でこのコーラをあいつの口に流し込め!」


「な、なんだと? 水を欲しがっているから、慈悲を与えるのか?」


「慈悲? ……ハッ、そんなわけあるか」


俺はニヤリと笑い、ポケットから銀色の筒状の包みを取り出した。 『メントス(ミント味)』。 世界中の動画サイトで検証され尽くした、炭酸飲料の相棒だ。


「これは『中和剤』に見せかけた、第二波攻撃セカンド・ウェーブだ」


俺はコーラのキャップを次々と開け放った。プシュッ、プシュッ、という炭酸の抜ける音が連続する。


「いくぞ! ドラゴンが口を開けた瞬間だ! 『デリバリー(給水)』開始!!」


「わ、わかった! 飲ませればいいのだな! 風よ、甘き黒水を運べ!」


リナリスが杖を振るう。 風に巻き上げられたコーラの太い水流が、空中でアーチを描き、悶絶するドラゴンの口へと吸い込まれていく。


「ゴキュッ、ゴキュッ……!?」


ドラゴンは反射的にそれを飲み込んだ。 冷たい液体が、焼けるような喉を潤す。


「プハッ……! 甘イ……? 助カッ……」


ドラゴンの目に安堵の色が浮かんだ、その一瞬。 俺はメントスを一粒残らず掌に出し、野球のピッチャーのように振りかぶった。


「安心するのはまだ早いぜ! デザートの時間だァァッ!」


俺が投げた大量のメントスが、リナリスの風に乗って散弾銃のようにドラゴンの口内へ飛び込んだ。


「ガッ!? ナ、ナンダ……?」


ドラゴンがメントスごとコーラを飲み込んだ。 そして、胃袋の中で『それ』が出会った。


炭酸ガスが飽和したコーラ。 その表面張力を一気に弱める、無数の微細な穴を持つキャンディ。 物理学と化学反応が、ドラゴンの胃の中で核融合レベルの反応を引き起こす。


ボコボコボコボコボコッ!!!


「ウッ!? ぐ、グググッ……!?」


異変は即座に訪れた。 ドラゴンの腹部が、まるで風船のように急激に膨張し始めたのだ。


「ナ、ナンダ!? 腹ガ! 腹ガ張ルゥゥゥ!!」


「な、なんだあの膨らみ方は!? 爆発するぞカズマ!」


「爆発はしない! だが……来るぞ!」


ドラゴンの顔色が、赤から青、そして土気色へと変わっていく。 胃の中で発生した爆発的な量の炭酸ガスが、逃げ場を求めて逆流してくる。


最強の生物が、白目を剥いて天を仰いだ。


『ゲェェェェェェップゥゥゥゥゥゥゥ―――ッッ!!!!』


ドォォォォォォン……!!


それは咆哮ではなかった。 大気さえも震わせる、伝説級の巨大なゲップだった。 衝撃波で駐車場の砂利が吹き飛び、俺とリナリスは吹き飛ばされないように柱にしがみついた。


「くさっ!? 炭酸とミントと、焼肉の臭いが混ざって最悪だ!」


ゲップを出し尽くしたドラゴンは、魂が抜けたようにガクガクと震え、


「……モウ、無理……」


ドスゥゥゥン。


巨大な体を地に投げ出し、完全に気絶した。


「……か、勝った……のか?」


リナリスが呆然と呟く。 魔法も剣も使わず。 カップ焼きそばとコーラとキャンディだけで、伝説のレッドドラゴンを沈黙させたのだ。


「ふぅ。在庫処分完了だ」


俺は埃を払いながら、倒れたドラゴンの鼻先へと歩み寄った。


「カズマ! 今だ! 首を落とすぞ! ドラゴンの素材なら高く売れる!」


リナリスがどこからかナイフを取り出そうとするが、俺はそれを手で制した。


「待て。殺すのはもったいない」


「は? 何を言っている。こやつは店を焼こうとした害獣だぞ?」


「だからこそだ。……修理費の代わりに、働いてもらう」


俺はエプロンのポケットから、業務用の『ハンディ・バーコードリーダー』を取り出した。 本来は商品の登録や棚卸しに使う魔道具だが、この店のシステムは「管理者権限」で対象を自由に設定できる。


俺はリーダーの赤い光を、ドラゴンの眉間に当てた。


「動くなよ……」


ピッ。


軽快な電子音が鳴る。 すると、虚空にホログラムウィンドウが表示された。


【新規商品を登録しました】 品名:レッドドラゴン(傷あり・胃もたれ気味) カテゴリ:ペット / 大型備品 価格:0円(廃棄寸前)


「よし、登録完了」


俺は満足げに頷いた。


「ペ、ペットだと……!? ドラゴンを!?」


その時、一部始終を見ていた黒マントの男――ゼノスが、腰を抜かしたまま震え声を上げた。


「き、貴様ら……正気か……?」


ゼノスの顔は恐怖で歪んでいた。 無理もない。自分が召喚した最強の切り札が、得体の知れない「食い物」攻めで拷問され、最後には「0円」でペット登録されたのだ。


「あ、あの誇り高きドラゴンを……あんな、あんな目に合わせるとは……!」


ゼノスは後ずさる。 彼の目には、カズマが魔王よりも恐ろしい「拷問王」に見えていた。


「お、おい! 待て!」


カズマがバーコードリーダーを持って一歩近づくと、ゼノスは「ヒィッ!」と悲鳴を上げた。


「次は俺か!? 俺にもあの『赤い毒』と『爆発する水』を飲ませて、家畜にする気か!?」


「いや、お前はただの不法侵入者だから警察(騎士団)に……」


「来るな! 近寄るな悪魔め!」


ゼノスは懐から転移水晶を取り出し、地面に叩きつけた。


「お、覚えていろ! 今日のところはこの辺で勘弁してやる! だが忘れるな、魔王軍は決してこの『カレーの城』を許しはしないぞぉぉぉッ!」


シュンッ!


捨て台詞と共に、ゼノスの姿がかき消えた。 典型的な三下ムーブだ。


「……逃げられたか。まあいい、あいつも懲りただろう」


俺はリーダーをポケットにしまい、伸びて気絶している巨大なトカゲを見下ろした。


「さて、と」


「カ、カズマ。本気でこやつを飼うのか? 餌代だけで破産するぞ?」


「心配するな。こいつの主食は、廃棄処分の弁当と、賞味期限切れの肉だ。ゴミ処理係としては優秀だぞ」


俺はドラゴンの頬をペチペチと叩いた。


「おい、起きろポチ」


「……ポチ?」


ドラゴンがうっすらと目を開ける。 その瞳には、もはや敵意はなく、完全に服従の色(と胃もたれの苦しみ)が宿っていた。


「今日からお前は、うちの『自動ドア係』兼『焼却炉』だ。 文句があるなら、もう一度あの焼きそばを食わせるが?」


「ブルルッ!?」


ドラゴン――ポチは、首をブンブンと横に振った。 そして、巨大な頭を地面に擦り付け、猫のように擦り寄ってきた。 どうやら「MAX END」のトラウマは、竜のプライドをへし折るのに十分だったらしい。


「よしよし。いい子だ」


こうして、スーパー・ビッグAに、新たな従業員ペットが加わった。 最強のセキュリティシステムを手に入れた俺たちの店は、ますます繁盛することになるだろう。


……たぶん。


その夜。 店の裏で、ドラゴンが大人しく座り、リナリスが余った『唐揚げ』を放り投げている光景を見ながら、ミャーコが呟いた。


「ボス……アタイ、コノ店デ一番弱イノ、アタイカモシレナイ」


「気にするな。ヒエラルキーの頂点は、俺(店長)だ」


俺は冷えたコーラを飲み干し、夜空を見上げた。 異世界に来てから一番ハードな一日だったが、不思議と悪い気分ではなかった。

 第9話をお読みいただきありがとうございました!


 伝説のレッドドラゴンを沈黙させたのは、聖剣でも大魔法でもなく、地球が生んだ物理学と化学反応の結晶、**「コーラ・メントス」**でした。


 最強の鱗も、胃袋の中での核融合レベルの反応(と巨大なゲップ)には勝てなかったようです。


 結果として、ドラゴンは名前を「ポチ」、価格「0円」の大型備品としてスーパー・ビッグAに正式に雇用(ペット登録)されました。


 逃げ帰ったゼノス将軍の目には、カズマが魔王より恐ろしい「拷問王」に見えたことでしょう。


 「自動ドア係」兼「焼却炉」としてポチが加わり、店はますます賑わいを見せていますが、そんなカズマたちに**「第一段階チュートリアル」終了**の通知が届きます。


 次回、いよいよ物語は一つの節目を迎えます。店長カズマの運命やいかに!?


 引き続き、ブックマークや評価での応援をよろしくお願いいたします!


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