第6話:ライバル店(?)出現とカレーの脅威
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前回、電力を確保するために「特売チラシ」という名の召喚状を森にバラ撒いたカズマ。
果たして、翌朝やってきたのは「お客様」なのか、それとも店を破壊し尽くす「侵略者」なのか……。
地響きと共に迫りくる緑色の軍団に対し、カズマが用意した「起死回生の一手」が炸裂します。
それでは、第6話をお楽しみください!
ドォォォォォォォォォォォン……!!
地鳴りが止まらない。 スーパー・ビッグAの自動ドアの前には、地平線を埋め尽くすほどの緑色の肉壁――オークの軍団が迫っていた。
「くっ、ここまでか……! カズマ、隠れていろ! 私が王家の誇りにかけて、せめて一匹でも多く道連れにしてやる!」
リナリスが悲壮な覚悟で杖を構え、震える足で前に出ようとする。 その目には涙が浮かんでいた。コーラが飲めなくなる絶望と、死への恐怖がない交ぜになっているのだろう。
だが、俺は冷静にモニターを凝視していた。
「……待て、リナリス。攻撃中止だ」
「な、何を言っている! 奴らはもう目の前だぞ!?」
「よく見ろ。あいつらの装備を」
「装備? 巨大な戦斧に、棘付きの棍棒だろう!?」
「違う。その反対の手だ」
俺が指差した先。 最前列を走る、全身傷だらけのオーク・ジェネラル(推定レベル50以上)。 彼の手には、くしゃくしゃに握りしめられた『特売チラシ』があった。そして腰の袋からは、ジャラジャラと大量の『魔石』が溢れそうになっている。
「あいつらの目は、侵略者の目じゃない。『開店セールに並ぶ客』の目だ」
「……は?」
「全員、配置につけ! ミャーコは棚の防衛! リナリスはレジだ! 作戦名は『モーニング・カレー・ラッシュ』!!」
俺は厨房の換気扇を「強」に設定し、自動ドアのメインスイッチを叩き込んだ。
ウィーン。
ガラス戸が開いた瞬間、数百のオークたちが一斉に咆哮を上げた。
「グォォォォォォッ!! 『黒キ聖水』ハドコダァァァッ!!」 「邪魔スル奴ハ殺ス! 先頭ハ俺ダァァッ!!」
殺気。 純粋な物欲という名の殺意が、津波のように押し寄せてくる。 このままでは店が壊される。物理的に。
「リナリス! 今だ! 『アレ』の蓋を開けろ!」
「わ、分かった! いけぇぇッ!」
レジ横に設置された特設コーナー。 そこに置かれた、給食用の巨大な寸胴鍋。 リナリスがその蓋を勢いよく開け放った。
ボワァァァァァッ……!
立ち昇る、黄金色の湯気。 それが換気扇の風に乗り、突進してくるオーク軍団の顔面を直撃した。
「グッ……!?」 「ガハッ……!?」
先頭のオークたちが、見えない壁にぶつかったかのように急ブレーキをかけた。 後ろのオークたちが将棋倒しになりかける。
「ナ、ナンダ……コノ匂イハ……?」
「甘イ……イヤ、辛イ……? 鼻ノ奥ヲ、直接殴ラレタヨウナ衝撃……!」
「唾液ガ……止マラネェ……!」
漂うのは、昨晩から俺が仕込んでおいた『特製ポークカレー(中辛)』の香りだ。 炒めた玉ねぎの甘み。数十種類のスパイスが奏でる刺激的なハーモニー。そして、じっくり煮込まれた豚肉の脂の甘い香り。 日本の国民食の匂いは、異世界の住人にとっても「抗いがたい暴力」だった。
オークたちの殺気立った目が、一瞬でとろんとした「空腹の目」に変わる。
今だ。 俺はレジカウンターに飛び乗り、拡声器を構えた。
「よォォォこそぉぉッ!! いらっしゃいませぇぇぇッ!!」
俺の絶叫が、呆けるオークたちを現実に引き戻した。
「当店は『スーパー・ビッグA』! 暴力禁止! 略奪禁止! ルールを守れない奴は、このカレーを食う資格なしだァァァッ!!」
「カ、カレー……? コノ、黄金ノ泥ノコトカ……?」
「そうだ! 腹が減ってるんだろう!? ならば従え!」
俺は入り口の傘立てを指差した。
「まず武器だ! 斧も棍棒も全部その傘立てに入れろ! 店内持ち込み禁止だ!」
「ググゥ……デ、デモ、武器ヲ手放スナド、戦士トシテ……」
「あ? 文句あんのか? 今なら『大盛り』無料だぞ?」
「ブヒィッ!? 武器置キマス! スグ置キマス!」
オークたちは慌てて背中の巨大な斧を外し、小さな傘立てに無理やり突っ込んだ。 入り口が鉄屑の山になる。
「よし! 次はカゴだ! 右手にカゴを持て! 商品は逃げない! 押すな! 走るな! 一列になれぇぇぇッ!!」
俺の指示に従い、身長二メートルを超える巨漢たちが、ピンク色のプラスチックカゴをちょこんと腕に提げ、背中を丸めて整列し始めた。 その光景は、シュールすぎて涙が出てくる。
「よし、入店開始ぃッ!」
ぞろぞろと店内に入ってくるオークたち。 彼らはまず、試食コーナーのカレーに群がった。
「ウメェ! ウメェェェ!」 「口ノ中ガ燃エル! デモ止マラナイ!」 「白イ穀物(米)トノ相性ガ異常ダ!」
一口食べた瞬間、彼らの野生は完全に消滅した。 あとはもう、ただの「買い物客」だ。
「オイ、コーラハドコダ?」 「ポテトチップスハ?」 「コノ『カップ麺』モ買ッテイコウ!」
棚から次々と商品が消えていく。 カゴが山盛りになり、オークたちがレジへ向かう。
そこで待ち受けるのは、エルフの王女だ。
「チッ……。次の方、どうぞ」
リナリスは露骨に嫌そうな顔で、オークを見下ろした。
「おい豚。カゴを置け。……なんだその量は。買い占め禁止と言っただろう。まあよい、今回は見逃してやる」
「ハ、ハイ! スミマセン!」
「袋はいるのか? 5魔石だぞ。高いぞ。……ふん、金はあるようだな」
彼女は舌打ちしながらも、テキパキと商品を袋に詰めていく。 その手際は、昨晩の特訓の成果が出ていた。
「ほらよ。さっさと失せろ。……また来てもいいぞ」
「ブヒィィィン! アリガトウゴザイマス!」 「姫様ニ罵倒サレナガラ、飯ヲ売ッテモラエル……ココハ楽園カ?」 「アリガトウ! アリガトウ!」
オークたちは頬を染め、涙を流しながら店を出ていく。 どうやらこの世界には「ツンデレ接客」という概念が存在しなかったらしい。 爆発的なニーズを感じる。
その時。 店内に軽快なメロディが流れ始めた。 『ポポーポ・ポポポ♪』という、あの安っぽい呼び込み君のBGMだ。
同時に、薄暗かった店内の照明が、カッ! と眩いばかりに輝き出した。 止まっていたエアコンが唸りを上げ、冷気を吐き出し始める。
「ボス! 見テ! メーターガ満タンダ!」
ミャーコが指差した管理パネル。 『エネルギー残量:100%』 『売上目標達成。店舗ランクアップ。』
「やった……。やったぞぉぉぉッ!!」
俺はその場に崩れ落ちた。 勝った。 経営破綻という名の死神に、俺たちはカレーと接客で打ち勝ったのだ。
「ふふん、チョロいものだな。私のレジ打ちにかかれば、オークの軍勢など赤子同然よ」
リナリスも額の汗を拭いながら、ドヤ顔でVサインを決めている。 店は大盛況。在庫は空っぽ。 これ以上の大勝利はない。
だが。 俺たちは気づいていなかった。
その狂乱の様子を、少し離れた森の木陰から、じっと監視する一つの影があることに。
「……バカな」
全身を漆黒のローブで包んだ男――魔王軍諜報部隊・特務工作員ゼノスは、震える手でその光景を記録していた。
「あの凶暴かつプライドの高いオーク族が……武器を捨て、ピンクのカゴを持ち、あのような脆弱な建物に行儀よく並んでいるだと……?」
ゼノスの目には、それが高度な「洗脳」に見えていた。
「あの黄金色の煮込み料理……。あれが洗脳の触媒か? 匂いだけで理性を破壊し、奴隷のように従わせる強力な呪い……」
彼は、楽しそうに(罵倒されながら)買い物を終えて出てくるオークたちを見て、戦慄した。 彼らの顔が、あまりにも幸せそうだったからだ。
「危険だ。あまりにも危険すぎる」
ゼノスはローブの裾を翻した。
「この謎の城……我が魔王軍の支配領域を脅かす、重大な脅威と認定する。 放置すれば、森の魔物たちは全てあの店の『信者』に変えられてしまうだろう」
彼はスーパー・ビッグAを睨みつけ、低く呟いた。
「潰さねばなるまい。 魔王様に報告する前に……私がこの手で、あのふざけた城の秘密を暴き、破壊してやる」
ゼノスの姿が、黒い霧となって消える。
平和な開店セールの裏で、 スーパーVS魔王軍という、壮大かつ迷惑な戦いの火蓋が切って落とされようとしていた。
「……ん? カズマ、なんか今、寒気がしなかったか?」
「エアコンが直ったからだろ。ほら、品出しするぞ! 第二波が来る前に!」
「ええーっ! 休憩はないのか! ブラックだ! この店はブラック企業だぞ!」
俺たちの24時間営業は、まだ始まったばかりである。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました!
押し寄せるオーク軍団を「カレーの匂い」と「ツンデレ接客」で攻略する回でした。
日本の国民食であるカレーの香りは、異世界の魔物にとっても抗いがたい暴力(?)だったようです。
無事にエネルギーも100%になり、店に活気が戻りましたが、何やら森の陰では不穏な動きも……。
【次回の予告】
次回、第7話は「棚卸しという名のダンジョン攻略」。
スーパーのバックヤードに眠る「開かずの扉」がついに開きます。そこは、在庫処分という名の地獄の迷宮でした……。
もし「カレー食べたくなった!」「リナリスの接客、アリだな」と思っていただけたら、下の【☆☆☆☆☆】やブックマークで応援いただけると、執筆の励みになります!
次回もよろしくお願いいたします!




