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聖域の森が、24時間営業だった件  作者: 時空院 閃


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第5話:魔石が足りない! 起死回生の「特売チラシ」作戦

異世界スーパー、早くも経営破綻の危機!?

魔導パネルに表示された「残量3%」の文字。このままではリナリスが愛してやまない「黒き聖水コーラ」がぬるい砂糖水になってしまいます。

背に腹は代えられないカズマが取った手段は、現代日本のスーパー仕込みの「エグいチラシ」でした。

エルフ王女の魔力を使った前代未聞のポスティング(爆撃)、開始です!

ブツン。


嫌な音がして、店内の照明が落ちた。 同時に、今まで店内に響いていた「ブゥゥゥン」という冷蔵庫の重低音や、快適な冷房の送風音が、プツリと途絶えた。


「……え?」


非常灯の薄暗い赤色が、俺の顔を照らす。 俺は嫌な予感を抱えながら、バックヤードの事務室へ駆け込んだ。 壁に埋め込まれた『店舗管理魔導パネル』。 そこに表示されていたのは、俺の寿命を縮めるに十分な文字列だった。


『警告:エネルギー残量 3%』 『直近24時間の売上が規定値に達していません。省電力モードへ移行します』


「おい、嘘だろ……?」


俺は震える手でパネルを操作し、詳細情報を呼び出す。 そこには残酷な真実が記されていた。


【当店の動力源:魔石(売上)】


「……マジかよ。電気じゃなくて、客が払う魔石で動いてたのかよ」


今の客は俺と、居候のエルフ王女リナリス、そして警備員ペットの獣人ミャーコのみ。 つまり、売上はゼロ。完全な赤字経営だ。


「おいカズマ! どうしたというのだ!」


ドタドタと足音を立てて、リナリスが事務室に飛び込んできた。 手には懐中電灯……ではなく、先端が光る杖を持っている。


「急に城の中が暗くなったぞ! しかも、なんだか空気が淀んで……暑くないか?」


「エアコンが止まったんだよ。電気が切れかかってるんだ」


「電気? 雷の精霊がストライキでもしたのか?」


「もっと深刻だ。……いいかリナリス、よく聞け。この店は『売上』がないと動かない。このままエネルギーがゼロになれば、どうなると思う?」


「ふん、暗くなるくらい我慢してやるぞ。私は慈悲深いからな」


「甘い。甘すぎる」


俺は事務室の壁をドンと叩いた。


「電気が消えれば、まず『結界(自動ドア)』が消滅する。ここはただのガラス張りの箱になり、森中の魔物が入り放題だ。俺たちは寝ている間に喰われる」


「な、なんだと……ッ!?」


リナリスの顔色がサッと青ざめる。だが、俺はさらに畳み掛ける。


「それだけじゃない。冷蔵庫と冷凍庫が止まる」


「……それがどうした?」


「まだ分からないのか? お前が愛してやまない、あのキンキンに冷えた『コーラ』も。サクサクの『チョコモナカジャンボ』も。全てぬるくなって、ドロドロに溶けて、腐るんだよ!!」


「――――ッ!!?」


リナリスが息を呑んだ。 その瞳に、世界の終わりを見たかのような絶望が浮かぶ。


「う、嘘だ……嘘だと言ってくれカズマ! あの喉を突き抜ける爽快感が……あの舌の上でとろける甘美な冷たさが、失われるというのか!?」


「ああ。明日の朝には、コーラはただの『ぬるい砂糖水』になり、アイスは『甘いクリームの液体』になる」


「いやだぁぁぁぁッ!!」


リナリスが絶叫し、俺の胸倉を掴んだ。


「阻止せよ! 何としても阻止するのだ! 私の『黒き聖水』を死なせるな! ぬるいコーラなど、冒険の終わった後の古井戸の水より価値がないわッ!」


「だったら協力しろ! 俺たちで客を呼ぶんだ!」


「客だと!? この森の奥地に誰が来るというのだ!」


「呼ぶんだよ。……これを使ってな」


俺は事務室の隅で埃を被っていた、一台の機械を指差した。 『マジック・コピー機』。 こいつの電源コードを、非常用バッテリー(俺のモバイルバッテリー)に無理やり繋ぐ。


「今から俺が『最強の召喚状チラシ』を作る。お前はそれを森中にバラ撒け」


「紙切れ一枚で客が来るものか!」


「来るさ。……俺のコピーライティング(煽り文句)の才能を舐めるなよ」


数十分後。 俺はマジックペンを走らせ、渾身の原稿を書き上げた。 ターゲットは人間じゃない。森に住む魔物や、一獲千金を狙う荒くれ者の冒険者だ。 上品な言葉なんていらない。本能に訴えかけるんだ。


俺は完成した原稿をコピー機にセットし、スタートボタンを押した。


ウィーン、ガシャン。ウィーン、ガシャン。 一枚、また一枚と、白黒の印刷物が吐き出されていく。


リナリスがそれを一枚手に取り、眉をひそめた。


「……なんだこれは。カズマ、貴様は詐欺師か?」


そこには、こう書かれていた。


【緊急告知! 伝説の宝物庫『スーパー・ビッグA』解放!】


★目玉商品その1:『黒き聖水コカ・コーラ』 万病を癒やし(た気分になり)、闘志を極限まで高める奇跡の霊薬! シュワシュワと弾ける黒い泡が、貴様の野生を呼び覚ます! 価格:魔石(小)1個!


★目玉商品その2:『王族御用達・黄金の薄焼きポテトチップス』 パリッ!という音と共に、口の中で広がる大地の恵み! 一度食べれば理性を失う、禁断の麻薬的美味! 価格:魔石(小)1個!


※武器を捨てて入店せよ。さもなくば出禁とする。


「……まあ、嘘は言っていないだろう」


「『万病を癒やす』は大嘘ではないか!?」


「『気がする』って小さく書いてあるだろ! いいから行くぞ、屋上だ!」


俺たちは大量のチラシを抱え、バックヤードの梯子を登って、スーパーの屋上へと出た。 夜風が冷たい。 森は漆黒の闇に包まれているが、遠くには魔物たちの気配や、野営する冒険者の焚き火が見える。


「さあ、リナリス王女。お前の出番だ」


「ふん。王族である私に、ビラ配りのような真似をさせるとは……」


リナリスは不満げに鼻を鳴らしたが、その目には決意の炎が宿っていた。全てはコーラのためだ。


「よいかカズマ。私の風は、森の果てまで届くぞ。……後悔するなよ?」


彼女は杖を高く掲げ、夜空に向かって魔力を練り上げた。 店内の電力が尽きかけている分、彼女の魔力は(昨日の飯のおかげで)充実している。


「風の精霊よ! 彷徨える餓鬼どもに、この福音を届けたまえ!」


膨大な魔力が渦を巻き、足元のチラシの束を巻き上げた。


「奥義! 『烈風散布フライヤー・ストーム』!!」


ドォォォォォン!!


「ちょ、出力強すぎだろ!?」


突風なんてもんじゃない。爆風だ。 数千枚のチラシが、まるで意思を持った鳥の群れのように、夜空へと射出された。 それらは風に乗って拡散し、森の東西南北、あらゆる場所へと飛んでいく。


「ふはははは! 見ろカズマ! 私のビラが星のように舞っているぞ!」


「笑ってる場合か! ちゃんと客層のいる場所に飛ばしただろうな!?」


「愚問だ。魔力の匂いがする場所……つまり『金持ち』がいそうな場所に誘導しておいた!」


頼もしいが、不安しかない。 だが、賽は投げられた。 あとは、このチラシを見た連中が、本当に「魔石」を持って買い物に来てくれるのを祈るだけだ。


「……頼むぞ。明日の朝、俺たちの命運が決まる」


俺は消え入りそうな店の看板を見上げながら、強く願った。


そして、翌朝。


チュンチュン、と小鳥のさえずりが聞こえる爽やかな朝……ではなかった。


「……おい、カズマ」


「……なんだよ、リナリス」


俺たちは開店前の自動ドアに張り付き、外の様子を伺っていた。 店内の電力はいよいよ限界に近い。照明は消え、非常灯だけが頼りなく点いている状態だ。


「客は……来るのか? 誰もいないぞ」


「おかしいな。チラシの効果があれば、そろそろ……」


その時だった。


ズズズ……。


地面が、かすかに震えた。


「ん?」


ズズズズズズ……。


震動は次第に大きくなり、店内の商品棚がカタカタと音を立て始めた。 遠くの森の木々が、バサバサと揺れている。


「じ、地震か?」


「いや、違う……。あれを見ろ」


俺は震える指で、地平線を指差した。


朝靄の向こう側。 森の木々をなぎ倒しながら、もうもうと土煙を上げて迫ってくる、巨大な「何か」。


「……軍隊?」


リナリスがポツリと呟いた。


「いや、あれは……」


モニターのズーム機能を最大にする。 そこに映っていたのは、チラシを片手に持ち、殺気立った表情でこちらへ突進してくる、数百、いや数千の影。


ドォォォォォォォォン……!!


地鳴りのような足音が、もはや爆音となって鼓膜を叩く。 それはまるで、城壁を破りに来た敵国の軍勢そのものだった。


「……カズマ」


「……はい」


「私、とんでもないものを呼び寄せてしまったのではないか?」


リナリスが引き攣った笑顔で俺を見る。 俺もまた、引き攣った笑顔で答えた。


「……安心しろ。あれがもし『客』じゃなかったら、俺たちはコーラがぬるくなる前に死ぬだけだ」


「笑えない冗談はやめろぉぉぉッ!!」


スーパー・ビッグA、運命の開店時間は、もう目の前まで迫っていた。

カズマのコピーライティング、もはや詐欺一歩手前ですが……嘘は言っていません。「気がする」って書いてありますからね!


今回の絶望:

冷蔵庫が止まる = アイスが溶ける = リナリスにとっての世界の終わり。 彼女の必死すぎる奥義『烈風散布フライヤー・ストーム』の威力には、作者も少し引いています。


さて、ラストで地平線を埋め尽くした「客」という名の軍勢。

果たして彼らは魔石を払ってくれる「お客様」なのか、それとも店を破壊しに来た「暴徒」なのか……。


次回、第6話「ライバル店(?)出現とカレーの脅威」。

カズマのレジ打ちスキルが火を吹きます!


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