第3話:冷凍庫の白き誘惑と、ポイントカードの覚醒
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前回、リナリスのくしゃみでスーパーの壁に大穴が開いてしまいましたが、今回はその大穴から招かれざる客がやってきます。
ファンタジーの定番モンスターに対し、現代の日用品やスーパーの品揃えを駆使したカズマの斜め上の戦法にご注目ください。
ポンコツ可愛い(?)王女様の様子も必見です!
「……おい、リナリス」
「なんだ、カズマ。デザートならまだ入るぞ?」
「暢気なことを言ってる場合か! 前を見ろ、前を!」
俺たちがいるイートインコーナー。 その壁には、さっきリナリスのくしゃみで開いた大穴がある。 そして、そこからゾロゾロと侵入してくる、小汚い緑色の小鬼たち。
「ギヒヒ! いい匂いだぁ!」 「肉ダ! 肉ト、メスノ匂イガするゾ!」
ゴブリンだ。 ファンタジーの雑魚代表だが、実際に目の当たりにすると、その薄汚さと獣臭さは生理的嫌悪感がすごい。 しかも、ざっと二十匹はいる。焼肉のタレの匂いにつられて来たに違いない。
「我が神聖な城に土足で踏み入るとは……。万死に値するぞ、下等生物ども」
リナリスが優雅に立ち上がる。 頼もしい。さすがは森の守護者だ。腐ってもエルフの王女、魔法の一発でも放てば――。
「喰らえ! 風の刃!」
彼女が杖を振るう。 しかし、杖の先から出たのは、そよ風程度のプスンという空気の塊だけだった。
「……あれ?」
「おい、何やってんだ」
「おかしいな。さっきの食事で魔力は満タンのはず……。うっぷ」
リナリスが可愛らしくゲップをした。強烈なニンニク臭が漂う。
「……あ。体が、重い。胃に血液が集中して、魔力回路がうまく回らん……。眠い……」
「食後の血糖値スパイクかよ!! 戦えニート王女!」
「ギィヤァァァ! 喰ライ尽クセェ!!」
ゴブリンたちが、一斉に飛びかかってきた。 ダメだ、このポンコツは役に立たない!
俺はとっさに売り場へ走り出した。 武器だ、武器になるものはどこだ! 包丁か? いや、接近戦は死ぬ。 もっと、こう、射程があって、誰でも扱える強力な兵器――。
「……これだ!!」
俺は日用雑貨コーナーで『あるスプレー缶』と、レジ横の『100円ライター』を掴み取った。
「カズマ! 私を置いて逃げるとは卑怯だぞ!」
「逃げてねえよ! 伏せてろ!」
俺は迫りくるゴブリンの群れに向かって、ライターを着火し、スプレーを噴射した。
「喰らえ! 現代科学の『殺虫剤(ハエ・蚊用)』火炎放射ッ!!」
ボォォォォォォッ!!!
「ギャッ!? 熱ッ!?」 「火ダ! 魔法使いダ!」
殺虫剤の可燃性ガスが引火し、簡易的な火炎放射器となってゴブリンを焼く。 先頭の数匹が顔を抑えて転げ回った。
「す、すごいぞカズマ! 貴様、火属性の魔術師だったのか!」
「ただの理科の実験だ! ……くそっ、ガス欠か!」
所詮は殺虫剤。数十秒で炎が途切れる。 ゴブリンたちは一瞬怯んだものの、俺が魔法使いではない(ただの道具だ)と気づくと、怒りの形相で再進撃してきた。
「オノレ! 殺セ! 肉ヲ奪エ!」
数が多い。囲まれたら終わりだ。 俺たちはジリジリと後退し、店の奥――バックヤードの前まで追い詰められた。
「リナリス、なんか冷気魔法とか使えないのか!」
「無理だ! 私は風属性専門だ! ああ、こんなことならデザートに氷菓子でも食べておけば……」
「……氷菓子?」
その言葉で、俺の脳裏に電撃が走った。 俺の背中にあるのは、巨大な業務用の冷凍ストッカー(アイス用)。
「……賭けに出るか」
俺はストッカーの重い蓋をガバッと開けた。 中には、俺の腰ほどまである巨大な四角い容器。 『業務用バニラアイス(2リットル)』だ。
「リナリス! 手を貸せ! こいつを投げるぞ!」
「な、なんだその白い塊は! 冷たい! 指が凍る!」
「いいから投げろぉぉッ!!」
俺たちは協力して、2キロの巨大アイスブロックを、ゴブリンの群れの中心に放り投げた。
ドスッ!
床に落ちた白い塊。 プラスチックの蓋が外れ、中から純白のアイスクリームが露わになる。
「ナンだコレ?」
一匹のゴブリンが、警戒しながら指でアイスを掬い、舐めた。
「……ッ!?」
ゴブリンの動きが止まる。
「……ア、アマイ……!?」
「なんだと?」
「冷タイ! デモ、甘イ! 脳味噌ガ、痺レルゥゥゥ!!」
ゴブリンは絶叫し、夢中でアイスを貪り始めた。 それを見た他のゴブリンたちも、我先にと群がる。
「ウメェ! ウメェェ!」 「ナンだこノ、幸セな食ベ物ハ!」 「母チャンノ乳ヨリ甘イ!!」
殺気立っていたゴブリンたちが、まるで子供のようにアイスを囲んで争奪戦を始めたのだ。
「な、なんだあの光景は……。獰猛な魔物が、骨抜きにされている……」
リナリスが呆然と呟く。
「甘味は世界を救うんだよ。糖分と脂肪分、そして冷たさ。未開の地の住人には、刺激が強すぎる快楽物質だ」
数分後。 2リットルのアイスは綺麗に舐め尽くされ、床には満足げな顔で気絶(脳天キーン)しているゴブリンたちが転がっていた。
「……勝ったな」
俺が安堵のため息をついた、その時だった。
『ピロン♪』
店内に、軽快な電子音が鳴り響いた。
『モンスターの撃退を確認しました。』 『経験値ポイントを獲得。現在:20ポイント。』 『ランクアップしました。ブロンズ会員になりました。』
「は?」
虚空に、半透明の青いウィンドウが浮かび上がった。 そして俺の手元に、一枚のカードが出現する。
【スーパー・ビッグA ポイントカード】 会員名:佐藤カズマ ランク:ブロンズ(全品5%オフ / 施設ロック一部解除)
「ぽ、ぽいんと……かーど?」
リナリスが不思議そうに覗き込む。
『施設ロック解除:バックヤード休憩室の【シャワー】が使用可能になりました。』 『次回、500ポイントで【防犯カメラ(千里眼)】が解放されます。』
「おいおい……マジかよ」
俺は震える手でカードを握りしめた。 このスーパー、ただの建物じゃない。
「魔物を倒すとポイントが貯まって、店の機能が拡張されるシステムかよ!」
「なんと! つまり、私が敵を倒せば、この城はさらに便利になるというのか!?」
リナリスが目を輝かせた。
「シャワーだと!? 私は三日も体を洗っていないのだ! カズマ、次はどこのどいつを血祭りにあげればいい!? オークか!? オーガか!?」
「お前、さっきまで動けないとか言ってただろ……」
現金な王女様だ。 だが、これで生き残る道筋が見えた。 俺が飯を作ってリナリスを強化し、魔物を倒してポイントを稼ぐ。 そして店を強化して、さらに美味い飯を作る。
「完璧なサイクルだ……」
俺は倒れているゴブリンたちを店の外へ引きずり出しながら(彼らは謎のキラキラした石『魔石』を落としていった)、ニヤリと笑った。
「よし、リナリス。シャワーを浴びたら働けよ。壁の修理と、品出しだ」
「む……仕方あるまい。シャワーのためなら、王女のプライドなど安いものだ!」
こうして、俺たちの最初の夜は、甘いバニラの香りと共に更けていった。 だが、俺はまだ知らなかった。 この『ポイント』稼ぎのために、森中のモンスターをおびき寄せる『特売チラシ作戦』を実行することになろうとは――。
第3話、いかがだったでしょうか?
今回は以下の要素がポイントでした!
カズマが殺虫剤と100円ライターを使い、簡易火炎放射でゴブリンに応戦しました。
獰猛なゴブリンたちは、2リットルの業務用バニラアイスの甘さと冷たさに骨抜きにされました。
モンスター撃退によりスーパーの「ポイントカード」が覚醒し、カズマがブロンズ会員にランクアップしました。
施設ロックが一部解除され、バックヤード休憩室のシャワーが使えるようになりました。
三日もお風呂に入っていなかったエルフの王女様、シャワーのためにすっかり現金になってしまいましたね(笑)。
次回はポイント稼ぎのために、森中のモンスターをおびき寄せる「特売チラシ作戦」が始まります!果たしてどうなるのか……!?
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次回もよろしくお願いいたします!




