第10話(最終回):店長、就任
前話では、魔王軍が送り込んだ最強の刺客レッドドラゴンを、地球の最終兵器**「獄激辛焼きそば」と「コーラ・メントス」**で見事に撃退(除菌・清掃)しました。
戦利品としてドラゴンを**「ポチ」**と名付け、価格0円の大型備品として雇用したスーパー・ビッグA。
ようやく訪れた平和な営業時間に、再びあの黒マントの男・ゼノスが姿を現します。
そして、店内に鳴り響く謎のファンファーレ。ついに**「第一段階」**の終わりが告げられます。
果たしてカズマは、ブラックな異世界労働から解放され、念願の日本へ帰国できるのか?
異世界スーパー経営物語、ついに完結です!
「ガウッ(いらっしゃいませ)!」
スーパー・ビッグAの入り口で、元気な咆哮が響いた。 かつて森を焼き払おうとした最強生物、レッドドラゴン。 だが今の彼は、魔力切れと俺の「バーコード登録」の影響で、ゴールデンレトリバーくらいのサイズに縮んでしまっていた。
首には『研修中』の腕章。 客が来ると、その器用な前足で壊れた自動ドア(手動)をガラリと開ける。
「おお、ご苦労。ポチ」
「グルルン(ポイントカード持ってますか?)」
「持っておるよ。ほれ」
常連のオークの奥様が、ポチの頭を撫でて入店していく。 ポチは嬉しそうに尻尾を振り、報酬の「廃棄寸前のハム」をミャーコから投げてもらってパクつく。
「……平和だなぁ」
俺はレジカウンターからその光景を眺め、しみじみと呟いた。 激辛ペヤングとコーラ爆弾による防衛戦から数日。 外壁は修復され(ポチの鱗を売った金で直した)、店は以前にも増して賑わっていた。
「ボス! 品出シ終ワッタゾ! 休憩シテ良イカ?」
「ああ。ミャーコ、おやつに『シュークリーム』やるよ」
「ニャアアッ! ボス大好き!」
ミャーコがカスタードまみれになるのを横目に、俺は視線を外へ向けた。 駐車場の端に、見覚えのある黒い影がモジモジとしているのが見えたからだ。
「……入ろうか、戻ろうか……。いや、だが……」
黒マントの男――魔王軍幹部ゼノスは、自動ドアの前で葛藤していた。 彼の顔色は悪い。数日前の「激辛地獄」と「炭酸爆発」のトラウマが、まだ癒えていないのだろう。
俺はため息をつき、カウンターを出て入り口へ向かった。
「おい、ゼノスさんよ」
「ヒィッ!? か、カズマ!?」
ゼノスが飛び退き、防御姿勢を取る。
「ち、違うぞ! 私は決して、貴様の店の『特売』が気になったわけではない! 魔王軍の威信にかけて、今度こそこの店の弱点を……!」
「はいはい、わかったから入れよ。今日は辛いのは出さないから」
「……本当か? あの赤いソースも、爆発する水もないか?」
「ないよ。今日は、疲れたアンタのために『とっておき』を用意したんだ」
俺は半信半疑のゼノスを店内のイートインコーナーへ誘導した。 そして、冷蔵庫からキンキンに冷えたカップを取り出し、彼の前に置いた。
「……なんだ、この黄色い物体は?」
「『プレミアム・焼きプリン』だ」
「プリン……? 震えている……生きているのか?」
「スプーンで掬ってみな」
ゼノスはおっかなびっくり、プラスチックのスプーンを差し入れた。 抵抗なくスッと入る感触。 黄色いカスタードの層と、底にある黒いカラメルの層。
彼はそれを口へと運んだ。
パクッ。
その瞬間、ゼノスの動きが止まった。
「…………」
「どうだ?」
「……消えた」
ゼノスが呟く。
「口に入れた瞬間……固形物だったはずのものが、舌の上でほどけて、濃厚な液状へと変わった……。 卵の優しい甘みと、ミルクのコク……。それが、荒れ果てた私の胃壁を、優しく撫でていくようだ……」
そして、彼のスプーンが底の「黒い層」に到達した時、衝撃が走った。
「ッ!? この黒い液体……苦い!? いや、ただ苦いだけではない! 焦がした砂糖の芳醇な香り! このほろ苦さが、甘すぎるカスタードを引き締め、大人の味へと昇華させている!」
ゼノスの目から、ポロポロと涙がこぼれ落ちた。
「うっ、ううっ……。なんだこれは……。 私が求めていたのは、侵略でも破壊でもない……。この『安らぎ』だったのかもしれない……」
「大げさだな。まあ、美味いもんだろ? 甘いものは心を救うんだよ」
「カズマ殿……。私は負けたよ。完敗だ」
ゼノスは綺麗に空になったカップを置き、深々と頭を下げた。
「魔王軍には……『長期休暇』を申請することにする。 こんな素晴らしいものを生み出す文明を、破壊するなど愚の骨頂だ。 私は、この店の……いち『ファン』として、通わせてもらってもいいだろうか?」
「おう。魔石を持ってくるなら、いつでも歓迎するぞ」
「ああ、約束しよう。次回は部下も連れてくる」
最強の敵だったはずの幹部が、今、完全に陥落した。 これで商売敵はいなくなった。 スーパー・ビッグAの異世界支店は、盤石の体制を築いたと言っていい。
『パパパパーン!!』
その時、店内に盛大なファンファーレが鳴り響いた。 いつものレベルアップ音ではない。もっと豪華で、荘厳な音色だ。
「な、なんだ!?」
店内のモニターすべてがジャックされ、金色の文字が浮かび上がる。
『CONGRATULATIONS!!』 『第一段階、クリアを確認しました。』
「チュートリアル……クリア?」
俺の心臓が高鳴る。 ついに来たか。この理不尽な異世界スーパー経営からの解放が。
「やった……! やったぞリナリス! 俺、日本に帰れるかもしれない!」
「……え?」
バックヤードから顔を出したリナリスが、持っていたポテチを落とした。
「か、帰るのか? カズマ……」
「ああ! これでやっと、お風呂に入れる! インターネットができる! 休みが取れる!」
俺は天井に向かってガッツポーズをした。 さあ、こい! 帰還の魔法陣!
モニターの文字が切り替わる。
『佐藤カズマ様の、卓越した経営手腕とダンジョン攻略能力を評価します。』 『つきましては、貴方を正式に……』
【異世界エリア統括・店長】に任命します。
「……は?」
『契約期間:無期限(終身雇用)』 『次回ノルマ:売上2倍』 『福利厚生:まかない(自腹)、住み込み(倉庫)』 『※日本への帰還ゲートは、エリアランクSS(推定100年後)で解放されます。』
シーン……。
店内に静寂が流れた。
「…………」
「…………」
「ふざけんなぁぁぁぁぁぁッ!!!!!!」
俺の絶叫が店内に響き渡った。
「帰れるんじゃないのかよ! 統括店長ってなんだよ! 責任だけ増えて給料ゼロかよ! ブラック企業! ここは異世界ブラック企業だァァァッ!!」
俺が床に突っ伏して暴れていると、頭上からクスクスという笑い声が聞こえてきた。
「ふふっ、あはははは!」
見上げると、リナリスが腹を抱えて笑っていた。 安堵と、喜びが入り混じったような、今までで一番綺麗な笑顔だった。
「残念だったな、カズマ。どうやら貴様は、まだしばらく私の『下僕』兼『料理係』でいなくてはならないようだ」
「笑い事じゃねーよ! 俺の人生設計が!」
「まあよいではないか。ここには私がいる。ミャーコも、ポチもいる。 ……それに、お前の作る飯は、悪くない」
リナリスは俺に手を差し伸べた。
「ほら、立て店長。腹が減ったぞ」
「……ちっ」
俺はその手を取って立ち上がった。 周りを見れば、ミャーコも、ゼノスも、ポチも、そして買い物中のオークたちも、みんな俺を見ている。 誰も彼も、俺の作る飯と、この店を待っている連中だ。
「……しゃーねえな」
俺はエプロンの紐をギュッと締め直した。 日本には帰れない。休みもない。 でもまあ、退屈だけはしなさそうだ。
「リナリス、今日の夕飯は何がいい?」
「ふむ、そうだな……。テレビで見た『ハンバーグ』という肉の塊が良い! チーズを乗せろよ!」
「はいはい。……よし、やるか」
俺は自動ドアの前に立ち、大きく息を吸い込んだ。
「いらっしゃいませ! スーパー・ビッグAへようこそ! 当店は24時間、年中無休! 勇者も魔王も大歓迎だァッ!!」
異世界の森の奥深く。 今日も、明日も、その先も。 煌々と輝くスーパーの灯りは、決して消えることはない。
俺たちの特売戦争は、まだまだこれからだ――!
【おわり】
最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
最終回となる第10話では、最強の敵だったゼノス将軍が**「プレミアム・焼きプリン」**の圧倒的な甘みと安らぎの前に陥落し、いち「ファン」として通ってくれることになりました。
激辛の次は極上の甘み。これぞスーパーマーケットの醍醐味ですね。
しかし、カズマを待っていたのは「日本への帰還」ではなく、**「異世界エリア統括・店長」への任命(終身雇用)という、さらなるブラックな現実でした。
帰還ゲートが開くのは推定100年後……。まさに「異世界ブラック企業」**の鑑のような結末ですが、リナリスやミャーコ、そして新入社員のポチたちに囲まれ、カズマの「年中無休」な戦いはこれからも続いていくことでしょう。
これまで本作を応援してくださった読者の皆様に、心より感謝申し上げます。
カズマたちの「特売戦争」の続きを、いつかまたどこかの売り場で描ければ幸いです。
よろしければ、完結記念にブックマークや評価、感想などで応援をいただけますと、作者としてこれ以上の喜びはありません!
本当にありがとうございました!
時空院 閃




