第1話:聖なる森の姫君は、塩焼きそばの香りに抗えない
ようこそ、私の書庫へ。
私は物語の観測者、時空院 閃です。
本日より、時空の歪みから掬い上げた新たな記録、
『聖域の森が24時間営業だった件』の公開を開始します。
この物語は、文字という枠組みを超えた『STORY PROJECT』の一環として記録されています。
より深い没入体験を求める方は、以下の環境を整えてから読み進めてください。
記録の総本山(公式サイト)
設定資料やビジュアルアーカイブはこちらに集約しています。
https://sites.google.com/view/zikuin/
それでは、聖域の森の扉を開けましょう。
観測を、始めます。
「……ここ、どこだよ」
目の前に広がるのは、見渡す限りの大森林。 さっきまで俺、佐藤カズマ(17歳)は、近所のスーパーのタイムセールで手に入れた「三食パックの焼きそば」を大事に抱えて歩いていたはずだ。
それがどうだ。 一歩踏み出した瞬間、視界がぐにゃりと歪み、気づけばマイナスイオン溢れすぎるファンタジーな森のど真ん中。
「……夢か。よし、寝よう」
「寝るな人間! 汚らわしい、我が聖域を足蹴にするとは何事だ!」
背後から、鈴を転がしたような、でも妙に高圧的な声が響いた。 振り返ると、そこには――。
透き通るような銀髪。 鋭く尖った耳。 そして、モデルも裸足で逃げ出すような絶世の美少女。
「出た……。テンプレートなエルフだ」
「テン……ぷれ? 貴様、何をブツブツと。私はこの森の守護者、高潔なるエルフの王女、リナリス・エル・フェランテである! 平伏せ、下等なる短命種!」
「あー、はいはい。リナリス様ね。で、リナリス様。ここ、日本じゃないですよね?」
「ニホン? 知らぬな。ここは神聖なる精霊の庭。許可なく立ち入る者は、我が魔力の錆としてくれる!」
彼女が杖を掲げると、先端にパチパチと青白い火花が散った。 ヤバい。これ、本物の魔法だ。 命の危機ってやつだが、俺の意識はそれどころじゃなかった。
お腹が、ぐぅ、と鳴ったのだ。
「……くっ。空腹で死ぬのは御免だ。おい、エルフ王女。ちょっと待て。殺すなら俺の『最期の晩餐』が終わってからにしてくれ」
「晩餐だと? この期に及んで食欲とは、やはり野蛮な種族……。よかろう、慈悲深い私が、貴様の最期を見届けてやる」
「話が早くて助かる」
俺は即座に、手に持っていたビニール袋からキャンプ用の小型バーナー(趣味のソロキャン用がリュックに入ってた)と、フライパンを取り出した。
「な、なんだその魔道具は! 妙な術を使うつもりか!」
「ただの調理器具だって。見てろよ」
ジューッ!
小気味よい音が森に響く。 具材はシンプルだ。豚バラ肉、キャベツ、そしてメインの麺。 本来は水でほぐすところだが、森の湧き水(リナリスが『聖水だぞ!』と騒いでいた)を少し拝借する。
仕上げに、粉末ソースをドバッとかける。
「……っ!? な、なんだ、この鼻を突く暴力的な香りは……!」
さっきまで優雅に構えていたリナリスが、鼻をピクピクさせて一歩、また一歩と近寄ってくる。
「これが日本のソウルフード、『塩焼きそば(粉末ソース味)』だ」
「しお、やき……そば? 食べ物を焼くなど、繊細なエルフの食文化にはない野蛮な行為……。ましてや、そんな黒い粉を振りかけるなど……」
「あ、いらない? じゃあ俺一人で食うわ。パクッ。……うめぇ。コシのある麺に、この安っぽい化学調味料のパンチが効いた塩気がたまらん」
「………………」
「ズルズルッ、モグモグ。あー、最高。豚の脂がキャベツの甘みを引き立てて……」
「……ま、待て。待つのだ人間」
リナリスが、じりじりと距離を詰めてくる。 その目は完全にフライパンに釘付けだ。口元には、うっすらと涎が……。
「なんだよ。殺すんじゃなかったのか?」
「わ、私は慈悲深いと言っただろう! その……毒見だ。貴様が変なものを食べて、我が森を汚されては困る。だから、私が……その……」
「食べたい?」
「だ、誰がそんな下品な……! 献上しろと言っているのだ!」
チョロすぎる。 俺は苦笑しながら、予備の割り箸を割り、彼女にフライパンを差し出した。
「ほら、食ってみろよ。リナリス様」
「ふん、毒が入っていても知らんぞ……。はむっ」
彼女は恐る恐る、麺を口に運んだ。 咀嚼すること三回。
「…………っ!!」
リナリスの体がビクンと震えた。 青い瞳が大きく見開かれ、頬が林檎のように赤く染まる。
「な、ななな……何だこれは!? 舌の上で弾ける圧倒的な塩分! そしてこの『旨味』とかいう未知の感覚! 脳が……脳が震える!」
「大げさだな」
「止まらん! 止まらんぞ人間! 箸が、箸を動かす手が制御不能だ! ズルズル! モグモグ!」
「おい、俺の分まで食うなよ! ってか、お前さっき『野蛮な食文化』とか言ってなかったか?」
「……っ。う、うるさい! これは……そう、魔力の補給だ! 聖域を守るためには必要なエネルギーなのだ!」
結局、彼女は三人前の焼きそばを、ものの五分で完食した。 フライパンの底に残ったキャベツの破片まで、名残惜しそうに眺めている。
「……人間。いや、カズマと言ったか」
リナリスが、キリッとした表情(口元にソースついてるけど)で俺を見た。
「何だよ」
「貴様を、我が専属の『聖食官』として雇ってやってもよい。この森で一生、私にその『やきそば』を捧げ続けるのだ」
「お断りだ。俺は元の世界に帰る方法を探す」
「なっ……! エルフの王女である私の頼みが聞けぬというのか! 望みは何だ! 金か? 地位か?」
「別に。強いて言えば、さっきの焼きそば、三食パックの最後の一つだったんだよな。もっと美味いもん作りたければ、ちゃんとしたキッチンと食材が欲しい」
「ならば私の城へ来い! 最高の設備を整えてやる!」
意外とチョロいというか、食いしん坊というか……。 まあ、森で野垂れ死ぬよりはマシか。 俺はリナリスに案内され、彼女の住むという王宮へ向かうことにした。
数時間後。 森を抜けた先にあったのは、白亜の美しい城……ではなく。
「……え?」
俺は、自分の目を疑った。 そこにあったのは、巨大な石造りの門。 そしてその門に掲げられた、見覚えがありすぎる『看板』。
「な、なあ、リナリス。あそこに書いてある文字、読めるか?」
「ん? 我が一族に伝わる神聖な古代文字だが……。確か、『おーぷん・にじゅうよじかん・びっぐ・えー』と読むのだ」
そこには、カタカナでこう書かれていた。
【24時間営業 スーパー・ビッグA】
「……は?」
「どうした、カズマ? 驚くのも無理はない。ここは選ばれし者しか入れぬ、無限の食材が眠る伝説の宝物庫なのだ!」
リナリスが誇らしげに胸を張る。 自動ドアがウィーンと開き、聞き慣れたあの入店音が店内に響き渡った。
「いらっしゃいませー」
死んだ魚のような目をした店員(耳が長い)が、気だるそうにレジで挨拶をする。
「……ここ、異世界だよな?」
俺は、あまりの衝撃に立ち尽くした。
「何を言っている。さあ、行くぞカズマ! 貴様の力で、あの『半額シール』という名の聖印が貼られた肉を奪取するのだ!」
「……待て。ツッコミどころが多すぎて、どこから手をつけていいか分かんねえよ!!」
俺の異世界生活は、どうやら思っていたのとだいぶ違う方向へ走り出したらしい。
第1話「迷い人と、消えない灯火」を目撃していただき、ありがとうございます。
なぜ、聖域の森は「24時間営業」なのか。
その答えの断片を、皆様の心の中に残せたでしょうか。
私たちが生きるこの世界と同じように、救いが必要な瞬間に「閉店時間」はありません。深夜の孤独にも、夜明けの不安にも、この森は常に開き続けています。
【目撃者の皆様へ】
皆様の「ブックマーク」や「評価」は、この物語をこの時間軸に繋ぎ止め、より遠くへ届けるための強力なエネルギー(楔)となります。
もし、この森の続きを観測したいと感じていただけたなら、ぜひ評価と感想をお寄せください。
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次回の記録更新(第2話)でお会いしましょう。
聖域の扉は、いつでも開いています。
時空院 閃




