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あの頃

 私が貴女に出会えたのは、ひとえに、私のお母様と、貴女のお母様が、学生のころ友人だったからです。私のお母様は、私のお父様からの冷遇と、暴力と暴言に耐えかねて自殺しました。私のお母様は、死ぬ前の夜、親友であった貴女のお母様のことを思い出し、隠れて手紙を書き、最も信頼する古くからの侍女にそれを託し、彼女を追い立てるように貴女のお母様の元へ送りました。強く、優しく、正義感のある親友を頼ったことは、私のお母様の最期の英断だったでしょう。それを読んだ貴女のお母様は、帰ろうとする彼女をそこに留まらせました。そして、守ってくれる人を失った私が、私のお母様が、私のお父様から守ってくれていたものも、私のお母様が受け止めてきたものも、全てを受け止めていたところから、救い出してくださいました(噂によると、私のお母様の自殺を、私のお父様が殺したことにしたそうです)。

 私を保護してくださり、貴女のお母様は私を養女にしようとしたそうですが、自分がそれに頷くことを何故か許せなかったのと、貴女のお家の娘に相応しからぬ痣が消えなかったので、私は辞退しました。私は卑屈だと言われましたが、自分がこの素晴らしい方々の弱みになると思うと、恐ろしくて受け取れませんでした。変わりに、私は末の娘の侍女へと育てられることになりました。はい、貴女のことです。そして、貴女のお母様は、少しの間だけになるけれど、と言って、私に母と呼ぶことを許してくださいました。まだ私も4つか5つで、幼く無礼な頃の話です。そして、ただの侍女となる娘には過分なほどの愛情を注いでくださいました。


 初めて貴女を見たとき、私は自分が死んでしまったのではないかと疑いました。えぇ、そのくらい、貴女は可愛らしくて、あまりにも可愛らしいので、この世に存在するものなのか疑ってしまったのです。私か貴女が嫌がればこの話は無しにしようと言ってくださいましたが、私と目が合うなり笑いかけてくださった貴女を見てしまえば、私には断る選択肢など(えぇ、もとからですが)ありませんでした。そして、私の、喉のもっと奥の方、心臓とでも言うのでしょうか、その辺りが燃えるようにうち震えているのを感じました。これが、本で読んだあの感情か、これを恋と言うのかと、奥様、貴女のお母様に尋ねたら、少し違う、と教わりました。答えはいただけませんでしたが、こんなに暖かい思いが、私にも備わっているのだと思うと、少し嬉しくなりました。そして、私は騎士たちから剣術を教わり始めました。初めて貴女にお目通りした日、奥様が貴女に触れて良いと仰いましたので、貴女の頬に触れさせていただきました。柔らかくてぷにぷにしているそれは、今までに感じたことのないもので、私にはないものでした。貴女の持っている素晴らしいものが、私の持っているみたいなものにならないように、守りたいと思いました。だから私は、守れる力をつけたいと思ったのです。奥様方は快くお許しいただけましたが、私にとっては、何かをねだるというのは勇気が必要なことでした。しかし、私の手は硬くがさがさになってしまったので、もう軽々しく貴女の柔らかい肌には触れられませんね。傷つけてしまいそうです。

 これが、貴女の3歳の誕生日、私が6歳のときです。(ちなみに、私の誕生日は私のお母様が昔はよく送っていた手紙の内容から推測して、奥様がくださいました。)



 それから3年、貴女は6歳のとんだお転婆少女になっておられました。私は侍女としての服を着るべきでしたが、貴女の護衛を兼ねているのと、貴女の遊びに対応できるように、ということで、男性用の侍従の服を着ていました。まるで少年のような身なりでしたが、それを私はかなり気に入っていました。奥様にはなんとも言えない顔をされましたが。私の1日は、朝貴女が起きられる前に起きて、騎士たちの元で訓練(最初は筋トレしかさせてもらえなかったが、最近は木剣を持たせてくれるようになりました)、そして貴女が起きられる頃に貴女の元へ行き、貴女と遊ぶというお仕事、そして貴女が眠られた後、カリナ(私のお母様の手紙を運んだ侍女の名前です、私の養母となってくださいました)に教わってお勉強でした。こんななんでもない、幸せな日々でした。


 私は幸せでした。間違いなく。

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